第18話 嫉妬ゲーム

 S級魔法師に憧れなかった者はいない。

 特に私のような星間戦争を経験した人間にとって、彼らは現実のヒーローであった。当時の私は、聞こえて来る活躍や逸話の数々に心を躍らせ、彼らの武勇伝を聞くのが大好きだった。同時に、自分も彼らと同じような地球を守る戦士になりたいと思った。

 子供の頃から、私は将来の夢を叶えるために魔法の努力と研鑽を重ねた。何冊もの魔法に関する書物を読み、1日も欠かさず毎日何百回、何千回と反復練習をして自分を磨いた。

 その甲斐もあって、私が頭角を見せ始めると、周りの人間は皆、口を揃えて私を褒めた。同年代を置き去りにしながらとんとん拍子で級位を上げていき、18歳という若さでA級魔法師となった。目標まであと一歩に迫っても、私は自惚れることなく努力をした。

 しかしながら、それから15年が経過した今も、私は未だにA級のままであった。何度ジルトレアに昇格申請を出しても、返って来る返事はいつも不可の二文字、世界の注目は少しずつ他の若手へと向けられ、私は次第に老兵扱いされた。様々なメディアが行う、次世代のS級魔法師候補の上位常連であった私は、いつのまにかトップ10から転落しており、表の舞台に立つ機会は徐々に減っていた。

 そんな時、ジルトレアは新たなS級魔法師の誕生を発表した。


「無名の日本人ジャパニーズが、いきなりS級に昇格だと?!いったいどういう事だ!」


「わからない。我々も抗議したが、ジルトレアは発表に変更は無いの一点張りだ。ニューオリンズに乗り込んで直接抗議でもしない限り、この発表は変わらないだろう。」


「くそっ!」


 S級魔法師となったのは、ノーマークの少年であった。

 私はすぐさま自国の魔法統括機関に乗り込んで問いただしたが、満足のいく返答は得られなかった。ニューオリンズに直接抗議しに行こうかとも考えたが、寸前のところでグッと堪えた。

 それから1ヶ月は、辛い日々が続いた。どこもかしこも、世間の話題は新たなS級魔法師のことで一色となり、誰もが彼に注目した。私はそのニュースを見るたびに、激しい嫉妬心に襲われた。そんな時、だんだんと心がネガティブになり、夢を諦めかけていた私の元に、チャンスが訪れた。


「ジルトレア最高責任者であるゼラスト=メネルトーレ様から、とある招待状が届いております。」


「招待状?」


「貴方様もご存知の通り、先日、日本から新たなS級魔法師の誕生が発表されました。世間は新たなS級魔法師の誕生に賛同いたしましたが、我が国を含むいくつかの国と魔法機関はこれに対して抗議しました。その返答として、ジルトレアは抗議を行った6つの国に対してゲームを提案しました。」


「ゲーム、だと?」


「はい。」


 ジルトレアは抗議を行った、6つの国に対してゲームを提案した。

 内容は、現地時間の6月30日午前9時までにニューオリンズに送りこみ、ゲーム開始から15時間以内に新たなS級魔法師、本条健斗を戦闘に追い込むというもの。6つの国はそれぞれ代表を1人ずつ選出し、一番最初に新たなS級魔法師、本条健斗を戦闘不能に追い込んだ者に対して、報酬としてS級魔法師の称号を与えるというゲームであった。ちなみに、万が一本条健斗に負けてもペナルティは無く、闘う時間と場所はそれぞれ自由とのことであった。


「それで、我が国は私を選んだと?」


「はい。我が国は、貴方こそが最も相応しいと判断いたしました。もちろん、断って頂いてもかまいませんが、いかが致しますか?」


「もちろん引き受けよう。」


 それは何とも魅力的な提案であり、私はすぐに参加を決めた。圧倒的な戦力によって、何もできずに蹂躙されることになるとは知らずに・・・・・・



 *



「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」


 気絶した5人の魔法師を見ながら、俺は息を整えた。

 5人全員が固有魔法の使い手であり、それなりの強さの魔法師であったが、S級魔法師と比べると今ひとつといった具合であり、終始負ける気はしなかった。だが、初めての宇宙空間での戦闘、かつ固有魔法を使わずに殺さないように立ち回るのは、流石の俺でもキツかった。


「それなりに疲れたな・・・・・・」


【自業自得ね。私を呼び出していたら、こうはならなかったと思うわ。】


「それじゃあ、戦う意味がないって言っただろ?もう忘れちまったのか?」


【覚えているし、理解もしているわ。これはただの不満よ。】


 確かにルキフェルは強いが、今回は固有魔法を使わないことに意味がある。確かに疲れは大きかったが、それだけの価値があった。


「さて、帰るか・・・・・・」


【そうね。】


 ひと息入れた俺は、気絶した5人を操作系統の魔法で支えながら地上へ向かった。お願いされたわけではないが、流石にここに放置するのは気が引けたので、仕方なく連れ帰る事にした。

 だが、そろそろ大気圏に突入するというところで、膨大な魔力を感知した俺は足を止めた。

 青いオーラをまといながら、何かがこちらへと向かって来ている。そして、俺の目の前で足を止めた。


「お疲れ様、健斗くん。素晴らしい活躍だったわ。」


「貴女は・・・・・・」


 俺はその顔に、見覚えがあった。誰もが知るアメリカの英雄、そして、俺に推薦状を出した人物の1人。


「元S級魔法師のレネ=ストライクよ。よろしく、新たな新星くん。」


 ____________________________________

 どうでもいい話

ラウンジへとやって来た佐々木サイ、ティーパックで紅茶を飲もうとするが、熱湯の入手方法がわからず冷水にしました。

普通に聞けば良かった・・・・・・

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