第17話 眺める者

「やあやあ皆さんお揃いで、ご機嫌はいかがかな?」


「お前はっ!」

「本条健斗っ!」

「舐めるなよ、小僧。」

「ちっ!」

「・・・・・・」


 黒白が作り上げた形のない宇宙服には、どんな環境でも周囲の魔法師とコミュニケーションをとることができる魔法が組み込まれており、俺はそれを利用して襲撃者たちを挑発することにした。目的は、相手の情報を引き出すこと。流石に、手札を晒すようなことはしないと思うが、それでも相手を一目見れば、だいたいの実力は分かる。魔力の質、量、パターンなどを把握しつつ、敵の戦闘スタイルを予想する。ただの予想ではあるが、少しでも情報があるのと全く無いのでは、戦闘の組み立てが大きく違う。

 それとできれば、先手は向こう側に譲りたいという思惑があった。話し合いのテーブルに付いた時に、言い訳をされたら面倒だからだ。彼らには、S級とA級の間には絶対的な差があるということを分からせる必要があった。


「あんたら全員、目的は俺ってことでいいんだよな?もしもこの中に、厄介なファンが紛れていたら教えてくれ、サインぐらいなら書いてやるよ。」


「他の4人のことは知らないが、俺の目的はお前だ。他に用は無い。」

「私も目的はあなただわ。より正確に言うなら、あなたの持つ称号、だけど。」

「右に同じだ。」

「ちっ!そうだよ!」

「・・・・・・」


 俺の予想通り、5人とも目的は俺自身のようで、それぞれ殺意をこちらに向けた。それと、5人はそれぞれ共闘関係ではなく、むしろライバル関係のようで、お互いに警戒し合っていた。これも俺の予想通り、まぁあの人の存在を確認した時点でほぼ確定的であったが、より確信が深まった。

 俺の予想が正しければ、これはS級昇格をかけたゲームだ。

 サティを含めた6人のA級魔法師は、誰が1番先に俺を戦闘不能に追い込むかを競わされており、勝者はS級昇格の切符を手にできる。おそらくだが、俺の知らないところでこんな感じのゲームが開催されているのだろう。

 このようなゲームが開催されていることは、サティからの襲撃を受けた時点で気付けていた。ジルトレアの本部があるニューオリンズでアレだけの魔法を撃ち合ったにも関わらず、誰も咎めに来ないということは、この襲撃はジルトレア、もしくはアメリカ政府もグルであり、襲撃を容認していたということになる。アメリカ政府に喧嘩を売った覚えは無かったので、俺はサティの背後にジルトレアがいると予想した。

 そして、地上から宇宙に飛び立つ直前、気配を上手に隠しながらこちらを伺う二人組を見て、俺の予想は確信に変わった。どのような目的で、何の意味があってこのようなことになったのかはわからなかったが、試されていることはわかった。

 となれば、俺が取るべき行動は一つしかない。


「じゃあ、全員まとめてかかってこい、格の違いを教えてやるよ。」


「「「「「っ!」」」」」


 捻り潰すことだ。

 圧倒的な戦力を見せつけて相手を絶望させ、俺には絶対に敵わないと自覚させる。ついでに、この1ヶ月間のストレスを、思う存分発散させて貰おう。


「踊ってやるよ。」



 *



「どうやら、私の勘は外れたようだな・・・・・・」


「勘、ですか?」


 健斗がA級魔法師達を蹂躙している頃、地上のとあるビルの屋上で、2人の英雄が健斗の戦いを眺めていた。


「あぁ。私は最初、あの男から健斗くんを紹介された時、健斗くんがあの男の教え子であることを疑った。あの男と健斗くんの魔力パターンが似ているのは君も気付いているだろ?」


「愚問ですね。私は彼の幼馴染ですよ?逆に、気付かないと思いますか?」


「確かに愚問だったようだな・・・・・・」


 黒白の幼馴染を自称する彼女に対して、男は軽くため息を吐いた。男は、それが単なる戯言ではなく、事実である事を知っている。


「これは有栖川が調べた事だが、健斗くんには空白の4年間が存在する。具体的には、中学1年生から高校1年生までの記録が、全て偽造されている。ドイツの中学校に通っていた記録は存在するが、生徒教師問わず誰1人として彼の存在を知っている生徒はいなかった。我々ジルトレアに気付かれずにこのような偽装工作ができる人物は、あの男しかいない。」


「確かに、彼ならやりそうですね・・・・・・」


「だから私は、あの男は、健斗くんをイセンドラスへと連れていき、4年間で徹底的に鍛え上げ、自分の後継者にしたのでは、と予想した。」


 いったいどのような理由で健斗くんが選ばれたのは分からない。だが、道理は通っていた。


「だが、違った。」


「確かに、そのようですね。」


「君も気付いたと思うが、おそらく健斗くんはこれが初めての宇宙空間での戦闘だ。完璧主義であるあの男が自分の後継者に、宇宙空間での戦闘の仕方を教えていないはずがない。」


 2人は、これが健斗にとって初めての宇宙空間での戦闘であることを見抜いた。同時に、健斗と黒白では、魔法の組み立て方は似ていても、軸となる魔法が違うことに気がついた。


「どうやら、終わったようだな・・・・・・」


「ですね・・・・・・」


 ちょうどその時、約100km先での戦闘が終わった。勝者はもちろん、黒白が自ら推薦した日本の若き新星。圧倒的な実力差を見せつけての完勝であった。


「この後、どうするんですか?」


「どーせなら、私も彼と戦ってみたいところだが・・・・・・立場上、諦めるしかないだろうな。さて、どう収集をつけようか・・・・・・」


「では、私が戦ってきて良いですか?」


「・・・・・・良いだろう。彼がいったい何者なのか、暴いてきてくれ。」


「了解しました。ジルトレア最高責任者、ゼラストメネルトーレ様。」


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どうでもいい話

5人の勇姿は後ほど

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