第15話 並べられた駒

「お疲れ様、健斗。」


「俺にとっては、食後の軽いトレーニングってところだな。正直なところそれほど疲れていない。」


「流石ね。」


 催眠魔法を使って行動不能にしたサティを抱えながら、俺はホテルへと戻った。できることならばこのストーカー女をその辺に放置、もしくは警察署に届けたかったが、こいつの目的が判明していない以上、仕方なく連れて帰ることになった。


「でも、変よね・・・・・・」


「何がだ?」


「どうして彼女が選ばれたのかしら・・・・・・」


 俺との交戦に応じたということは、少なくとも彼女には俺と戦う意志はあったという事だ。となると目的はおそらく俺自身、だがそうなると、一つだけおかしな点がある。

 それは、成り立てとはいえ、S級魔法師である俺に対して、A級魔法師である彼女が送り込まれた点だ。


「彼女が強いのは私も知っているわ。明確な弱点があるとはいえ、精霊使いは現代魔法戦にも十分通用する。でも、この手は間違いなく悪手だわ。」


「まぁな。」


 秘匿されているはずの俺の泊まっているホテルとその部屋を特定したことから、おそらく背後に何かしらの組織が存在することは間違いない。となると、彼女の背後にいると思われる組織は、どうして彼女だけを選んだのだろうか、という疑問が残る。

 刺客を送り込むなら、2人、もしくは3人送り込んで共闘させるべきであった。実際俺は、サティに対して固有魔法を使うことなく圧勝した。<魂の回廊>は強力であったが、経験値の差が大きく現れる結果となった。


「それで?どうするのよ、それ。」


「どうって、とりあえず起こして話を聞いてみるしか無いだろ。逆にそれ以外何かあるか?」


「それもそうね・・・・・・」


 朝食の残りを食べようかとも考えたが、先にサティに施した催眠魔法を解除した。

 面倒事は、早めに片付けるに限る。


「干渉魔法<魔力阻害>」


 暴れられても困るので、最低限の拘束用魔法をかけつつ、会話ができる状態にした。魔力を練ることぐらいならできるだろうが、魔法の行使は難しいだろう。時間を掛ければおそらくは可能だが、発動よりも先に敵を戦闘不能に追い込む自信がある。

 とりあえず、尋問する場所は整えた。


『ここは・・・・・・』


「よお、起きたか?」


『っ!』


 目を覚ましたサティは俺の顔を見ると、分かりやすく驚いた。一瞬、隣のルーシアにも視線を向けたが、すぐに俺の方へと視線を戻した。どうやら、ルーシアには興味が無いようだ。攻撃の目標はやはり俺のようだ。

 視線を正面へと戻した彼女は、鋭く俺を睨んだ。

 どうして睨まれているか考えてみたが、心当たりは一つしかない。


「色々と聞きたいことがあったから、<魔力阻害>をかけさせて貰った。何か弁明はあるか?」


『・・・・・・無いわ。』


「ならば単刀直入に聞くが、お前の目的は俺だな?より正確に言うなら、俺の称号か。」


『っ!その通りよ・・・・・・』


 もう少し渋ると予想したが、意外にも彼女はあっさりと自身の目的に同意した。残された可能性がこれぐらいしかなかったので、こっちは予想通りであった。

 続いて、俺は次の質問へと移った。


「どうして俺がここにいるとわかったんだ?」


『じいやが教えてくれて・・・・・・』


「じいや?執事のことか?」


『えぇ、我が家に長年仕えてくれている方で、とても信頼している方よ。今日ここにあなたがいると彼が教えてくれたのよ。』


 執事がいるということは、それなりの上流階級の生まれなのだろう。ルートン家なんて聞いたことないが、見た目通りのお嬢様のようだ。


「その執事、いったい何者だよ。」


『じいやのこと?退役軍人だって聞いているわ。至って普通の人よ。』


 星間戦争終結後、引退した魔法師や軍人が、裕福な家庭に招かれて護衛兼執事もしくはメイドになったという話は何もおかしな話ではない。推奨はされていなかったものの、当時のジルトレアは暗黙の了解をしていた。


「俺が今日ここにいることは、日本魔法協会の上層部しか知らないはずだが、お前の執事はいったいどうやって情報を仕入れたんだ?」


『それは・・・・・・ごめんなさい、わからないわ。』


 いったい何処から情報が漏れたのだろうか。

 何かしらの追跡装置を付けられたとか?いや、流石にそれは無いはずだ。付けられたとしても、俺ならおそらく気づける。

 となると、日本魔法協会上層部の誰かが漏らしたという線が濃いだろうか・・・・・・

 と、そこまで考えたところで、俺の魔力感知が複数の魔力を捉えた。


「どうやら、お客さんはお前だけじゃないようだな。」


『え?』


「4人?いや、5人か。仲良くお揃いのようだ。」


『私だけじゃ、無かった?でも・・・・・・』


「お前のところの執事、どうやら誰かしらの指示によって動いているようだな。」


『そんな・・・・・・』


 どうやら彼女も、この新たな敵の存在に心当たりは無いようであった。

 その反応を見て、俺はとある結論を導き出した。証拠は無いが、確信はあった。

 そして、そこから逆算して、自分が今何をすべきかを判断した。


「ルーシア、悪いがここを頼む。」


「えっ、ちょっ、健斗?!このサティとかいう女はどうするのよ!」


「そいつはおそらく白、良いように使われているだけの駒だ。本命は別にいる。」


「え?」


「俺は今から、その本命に話を付けて来る。」


「わかったわ。」


 それだけ言い残して、俺は再び窓をすり抜けて外へ飛び出た。

 俺の予想が、正しいと信じて。

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どうでもいい話

一番面倒な作業は何か。

A_あらゆる名前を考える作業。登場人物名、組織名、技名など、基本テキトーです。ネーミングセンスの無さは許容してください。

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