第14話 当たりと呼ばれた力

 現代魔法学において、魔法は大きくわけて放出系魔法、操作系魔法、干渉系魔法、召喚系統、概念系魔法の5つに分類され、それぞれ系統ごとに長所と短所が存在する。

 これは、固有魔法に置いても同様であり、例えば健斗の第二段階固有魔法<魔法破壊>は周囲の魔力に干渉する魔法なので、干渉系に分類される。

 では、固有魔法に系統が存在するとして、系統間における優劣は存在するのだろうか。

 残念ながら、この答えは判明していない。というのも、統計的にS級魔法師の固有魔法として最も多いのは召喚系統だが、それは絶対数が多いからという見方もあり、逆に絶対数の少ない概念系統が他に比べて劣っているかと聞かれれば、否となる。

 故に、現代魔法学においては系統間における優劣は存在しないとされている。

 だが、星間戦争中はそうでは無かった。

 そもそも現在のような分類法が採用されていなかったというのもあるが、当時のS級魔法師及び序列上位者の大半が、とある同系統の固有魔法を保有していたため、その系統こそが最強であり、俗に言う『当たり』とされていた。

 そして、彼女の固有魔法は、その『当たり』の固有魔法であった。


『我が呼び声に応え、姿を表せ海の王!第一段階ファーストステージ<精霊召喚リリース・クラーケン>』


 短い詠唱を終えると、サティは自身のとっておきを発動させた。空中に青色の魔法陣が描かれると、魔力を吸収しながら光り輝いた。魔法陣の輝きが満ちると、彼女は海の王を呼び出した。


「よりにもよって、精霊使いだったとはな・・・・・・」


『まだ終わっていないわよ。第二段階セカンド・ステージ<魂の回廊>』


 彼女は、ただのストーカーでは絶対にありえない量の魔力が撒き散らした。そして、間髪を開けずに固有魔法の第二段階を発動させた。凄まじい量の魔力が収縮されると、彼女は精霊の力を自身の支配下に置いた。

 星間戦争中期から末期にかけて、世間ではこの精霊召喚こそが、最も強力な固有魔法だと考えられていた。それを裏付けるように、当時のS級魔法師は12人中6人が精霊使いであった。

 故に、研究者は否定したものの、精霊使いが序列上位者の大半を占めていたため、そのような考え方が浸透していた。


「魂の回廊か、拝むのは初めてだな。」


『そう、なら存分に味わいなさい。精霊使いの強さをその身に叩き込んであげるわ。』


 精霊使いには、第二段階の固有魔法が必ず<魂の回廊>になるという法則がある。そして、この<魂の回廊>こそが、精霊使いの強さの所以でもあった。

 一気に調子を上げたサティは、早速<魂の回廊>の力を行使した。


精霊魔法エレメンタルマジック<水冷加速アクア・ドライブ><水切り>っ!」


「チッ、魔力障壁っ!」


 剣じゃ受けきれないと判断した俺は、瞬発的に自身を守る盾を展開してその身を守った。俺の魔力が込められた漆黒の魔力障壁は、サティの水切りを真正面から受けた。

 水をまとった彼女の双剣と、俺の魔力障壁による力と力の押し合いは、俺に軍配が上がった。

 魔力障壁の硬さをしっかりと感じ取ったサティは、俺のカウンターを警戒して、素早くその場から距離を取った。


『頭のおかしい硬さだわ。腐ってもS級魔法師という事ね。』


「あいにく、魔力障壁の硬さには自信があってな。正面からの斬り合いなら負ける気がしない。」


『余裕でいられるのは今のうちよ。精霊使いの真価はここからだわ。』


 そのセリフと共に、サティは先ほどと同じ魔法を、今度はノータイムで繰り出した。詠唱と魔法式の構築をスキップした、普通の魔法師では絶対に届くことができない速さ、俺はタイミングを完全にずらされた。

 同じ魔法なはずなのに、ワンテンポ速いだけで、それはまったく別の魔法へと生まれ変わる。

 俺は、魔力障壁をするりとすり抜けて飛んで来た彼女の初撃を、正面にあった魔力障壁を足場にギリギリのところかわした。

 だが、彼女は二刀流、初撃を避けても、すぐにもう一本飛んで来た。俺は、斜め下方向からの掬い上げるような斬撃に対して、今度は自身の剣技で流した。


『え?』


「これが<魂の回廊>、か。噂には聞いていたが、なるほど確かに強力だ。」


『負けるかっ!』


 <魂の回廊>その効果は、自分と精霊の概念的な距離を近づけ、精霊の力を直接借りること。要するに、精霊の力を自身の魔力回路のように扱うことができるということだ。つまり、身体強化や魔力障壁と同じ感覚で強力な魔法を行使できるというものだ。

 それにより、一度行使した魔法であれば、詠唱や魔法式の構築を必要とせずに魔法を放つことができる。

 コンマ数秒の判断が命取りになる魔法戦闘において、そのワンテンポ分のアドバンテージは大きく、スピード勝負では完全に上をいかれていた。

 防戦一方となった俺は、魔力感知から得られた情報から攻撃の方向を予測して、そこに剣を合わせることによって何とか防御には成功していたが、打開策は残念ながら見当たらなかった。

 だが、ひとまず防御することには成功していた。


『どうして崩れないのよ!』


「剣の技量の差だな。ただ振り回しているだけのお前の剣が、俺に当たるわけがないだろ?」


『バカにしてっ!』


「悔しかったら剣術を学ぶことだな。」


 <魂の回廊>による、通常の過程をすっ飛ばした超スピード&連撃は確かに脅威だが、肝心の剣術の方がお粗末と言わざるを得ない。おそらく、今までずっとスピードのゴリ押しによって勝っていただけに、剣術を極めようとはしなかったのだろう。

 要するに、経験不足ということだ。


『これならっ!』


「純粋な剣と剣の勝負を避けて手数を活かそうとするのは良い判断だが、俺の魔力障壁を突破できそうな魔法は無さそうだな。」


『ぐぬぬ!』


 彼女は攻撃のパターンを変えて来たが、残念ながら想定内、魔力障壁という盾がある俺に対しての効果は無いに等しかった。

 最初は少し焦ったが、彼女のスピードにも慣れ始めた。

 もう、彼女の剣が当たる事はない。


「そろそろ反撃させてもらうよ。」


『っ!』


 攻撃を先回りした俺は、つい先ほど構築を完成させた干渉魔法で、彼女の魔力回路を刺激した。


「残念、俺の勝ちだ。」


『え?』


 常識を超えた速さで魔法を繰り出すことができる<魂の回廊>だが、一つだけ明確な弱点がある。

 それは、魔力回路だ。

 発動中、術者の魔力回路は精霊とのパスを維持するためにフル稼働する必要があるため、とても敏感になるのだ。魔力回路への攻撃が一切無かった対UC戦では無類の強さを発揮したが、対人戦では自身の魔力回路を守りながらの戦いが必要となる。そのため、相手が格上だとめっぽう弱いのだ。

 完全に弱点を突かれる形となったサティは、張り詰めた緊張を一瞬にして崩した。

 全身の魔法が乱れ、大きな隙を晒した。俺はその隙を見逃さなかった。

 ________________________________________

 どうでもいい話

 クラーケン要素・・・・・・

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