第13話 よろしいならば、戦闘だ。
「<透過>」
ガラスが割れないように気をつけながら、俺は窓を擦り抜けて外へと出た。ルーシアとの久しぶりの朝食を邪魔されたことに怒りを覚えつつ、ストーカーと思われる女のところへと向かった。
見覚えのまったく無い魔力パターンであることから、初めて顔を合わせる相手であることはわかった。身体の内側から溢れる魔力から相手の戦闘スタイルを考察しつつ、いったい何の用なのか考える。
一瞬、先に朝食を食べ終えることを優先しようかなとも思ったが、迷惑なストーカーは早いうちに対処しておかないと、あとあと面倒であることは異世界で経験済みであった。仕方がないので、相手してあげることにした。
「それで?誰だよお前。」
『っ!私を知らないだと?!』
「日本語で喋っているのに、わざわざフランス語で返してくるような常識知らずなストーカーなんて知らんな。」
俺は、久しぶりに聞いたフランス語に驚きつつ、また面倒そうな奴に絡まれたなと呆れた。とりあえず、意思疎通魔法を使ってコミュニケーションを図る。
俺はこれでも常識人であり、対話によって避けれる争いであるならばちゃんと避けるタイプだ。
『なっ!この私をストーカー呼ばわりだとっ!』
「どっからどう見てもストーカーだろうが。」
朝起きて朝食を取っていたら、窓の外から変な女がこちら側を覗いていたとなれば、これをストーカーと呼ばずしてなんと言う。ホテルの窓ガラスを割らなかったことだけは褒めてあげるが、何処から突っ込めばいいかわからない。
まぁ、挨拶代わりに寮の壁を破壊した何処かの親バカに比べたら、幾分かマシと言えるが・・・・・・
『ま、まぁいいわ。知らないなら名乗ってあげる。私はサティ=ルートン、フランス所属のA級魔法師よ!』
「それで?フランスのA級魔法師が、俺に何の用だ?」
謎のストーカー女は一切悪びれる様子は無く、堂々と自己紹介をして来た。
サティ=ルートン、何処かで聞いたことのある名前だが、残念ながらどこで聞いたかは覚えていない。どのような魔法師なのかはわからないが、面倒な奴であることは間違いないだろう。
『貴方、S級に昇格されたそうね。』
「できるなら、今すぐにでも辞めたいところだがな。」
『っ!それは私を挑発しているのかしら。』
「いいや、ただの本音だ。あんたを陥れる意図なんて全く無い。不快に感じたなら詫びるよ。」
『あんたの謝罪なんて聞きたく無いわ!』
「それで?俺は結局のところ何がしたいんだよ。今のところ、お前の名前というわりとどうでもいい情報しか入って来ないんだが。」
『あんたが話を逸らすからでしょうが!』
話を逸らしたつもりは全く無かったが、どうやらそのように思われていたようだ。
やはり、慣れない事はしない方が良いという事だろう。目の前の相手に対する認識を一段落とした俺は、改めて相手を見た。そして、とある決断をした。
「とりあえず、俺に喧嘩を売りに来た事は間違いないよな?」
『え、えぇ、そこは間違いないわ。』
「そうか・・・・・・なら、まずは殴らせろ。話はそれから聞こう。」
『え?』
まともな対話ができない相手と当たった時の対処方法は、実にシンプルでわかりやすい。敵を上回る武力を見せつけて、戦闘不能に追い込む。その上で、対話が必要ならば対話を試みる。ダメならもう一度殴ればいい。
向こうは黄色を基調とした戦闘服を身に包んでいるので、少なくとも俺とやり合うことは考えているはずだ。
「<魔力障壁><身体強化><魔力撃>」
使うのは最もオーソドックスかつシンプルな魔法の組み合わせ、わかりやすい強さは、相手に対してより大きな精神的ダメージを与える。
俺は、溜まっていたストレスを全てぶつけるイメージで攻撃繰り出した。
『ちょっ、いきなりっ!』
「ちっ、外したか。」
俺の奇襲攻撃は、虚しくも空を切った。割と真剣に、俺は彼女の意識を刈り取るつもりであったが、美味い具合に避けられてしまった。
「流石はフランスの魔法師、相変わらず逃げ足だけは早いな。」
『次はこちらの番ですわ!』
ジルトレアが発足し、魔法の存在が世界に広まってからおよそ60年、魔法は様々な地域で独自の進化を遂げており、それぞれの地域によって癖のようなものが存在する。
例えば日本ならば黒白が確立したシンプルで無駄の無い魔法が普及しており、魔法式の構築スピードが速い魔法師が多いし、アメリカならばゼラスト=メネルトーレが確立した大胆かつ強力な魔法が普及しており、体内保有魔力量が他国と比べて多い。
このような特徴はもちろんヨーロッパでも存在しており、フランスの魔法師は、どういうわけか全体的に回避が上手な魔法師が多い。サティもフランスの魔法師らしい魔法の組み立てを採用しており、俺は初めて相対するフランス流の魔法を楽しんでいた。
『これならっ!』
「残念、もちろん対策済みだ。」
『嘘っ!』
スピードで俺を撹乱し、背後を取ろうとしたサティに対して、俺は身体能力の差を活かしたゴリ押し戦術で攻撃を封じ込めた。トップスピードはどうやら負けているようだが、反応速度には自信があった。全力で魔力感知を発動させて相手の動きを把握し、攻撃を繰り出そうとしたところでカウンター攻撃を狙った。
サティの武器は2本の短剣、スピードに特化するためには最適な相棒と言えるが、そのせいで火力不足に陥っていた。その隙を、しっかりと突く。
「ただ速いだけのハエなど、俺の敵じゃない。」
『ぐっ!流石はS級魔法師として認定されただけのことはありますわね・・・・・・』
サティのスピードに、段々と目と脳が慣れて来た。初めは中々に楽しめるんじゃないかと思っていたが、ネタが割れれば、あとは簡単な作業へと変わる。
これ以上攻撃を続けても、意味がないと判断したのか、サティは俺から少し距離を取った。
「どうした?もう終わりか?」
『いいえ、まだよ。むしろここからが本番だわ。』
彼女の言葉に、俺は次に何が飛んでくるかを察した。どうやら、お遊びはここまでのようだ。
「かかって来い、踊ってやるよ。」
『いいわ、なら見せてあげる。第一段階!』
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どうでもいい話
今日のエピソード、実に健斗らしい。
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