第12話 sideルーシア6

「んっ・・・・・・もう朝?」


 その日は、いつもよりも心地の良い朝であった。ベッドの質が良かったのか、それとも彼との添い寝が原因か、願わくば是非とも後者であって欲しいところだ。

 健斗は、私を抱き枕にしたまま未だに夢の中であり、起きる気配は全く無かった。そのことを確認した私は、改めて健斗の顔を覗き見た。最後に会った1ヶ月前と何一つとして変わらぬ姿のまま、彼は気持ちよさそうに寝ていた。


「まったく、気持ちよさそうに寝ちゃって・・・・・・」


 健斗の寝顔を見て、私は懐かしさと共に深い安心感を覚えた。今までずっと、会いたくても会えない状況が続いていただけに、その反動は大きかったようだ。

 私は全身を使って健斗の存在を感じつつ、その温もりに身体を預けた。

 だが、そろそろ現実を見なければならない時がやって来てしまった。


「・・・・・・さて、どう言い訳しようかしら。」


 目下最大の問題は、今のこの状況をどのようにして健斗に説明するかだ。考えても考えて、何より自分を納得させることができない。

 冷静に考えてみれば、今の私は好きな人を追いかけて、サプライズで日本からニューオリンズまでやって来たやばい奴だ。その上で、ホテルを特定して部屋に入り、勝手にベッドで寝ていた。

 いったいどうすれば、ここから私の正当性を証明できるだろうか。


「完全にアウトだわ・・・・・・」


 考えれば考えるほど、自分の有罪が立証できそうな内容しか出てこない。何処かに、ここから入れる保険があるのではないだろうか。

 さてこういう時、健斗なら果たしてどうするだろうか。

 少し考える。

 健斗ならこういう時・・・・・・


「よし、寝よう。きっと寝て起きれば、全て解決しているはずだわ。」


 きっと健斗ならこういう時、寝て全てを忘れるはずだ。



 *



「それで?魔法協会で俺の宿泊先聞いて、やって来たと・・・・・・」


 ダメでした。


「しかも俺がいなかったから、代わりにベッドでゴロゴロしていたら、いつの間にか寝ちゃっていたと?」


 二度寝すれば全て解決できる、なんてことはなく。残念ながら現実は続いていた。


「私も途中から、自分が何をしているのか分からなくなったわ。気づいたら、あなたのホテルのフロントにいたのよ・・・・・・」


「まぁ確かに、1ヶ月間音信不通のままだったことは謝るけどさ。だとしてもじゃない?」


「言い訳はできないわ。」


「そうか・・・・・・」


 結局、私は健斗に、ここに来た経緯を全て話すことにした。

 もしかしたら会えるかもと思って、明日人や衣夜と一緒にニューオリンズ旅行に来たこと、日本魔法協会ニューオリンズ支部で健斗の泊まっているホテルの場所を聞いたこと、ホテルの部屋番号を書き出してその上合鍵を貰ったこと、そして、健斗に会えなくて寂しかったこと。


「どうやって合鍵をゲットしたんだよ。」


「ん?貴方と一つ屋根の下で暮らしているって言ったら、普通に貰えたわよ?まぁちょっと、固有魔法を見せたけど。」


「脅しているじゃねーか。」


「仕方ないじゃない。例え恋人でも、部屋番号は教えれない事になっているって言われたんだもん。」


「後でホテルのフロントの人に謝っておけよ。」


「えぇ、わかってるわ。」


 中々に、言いづらいところを突っ込まれてしまったが、私は大人しく答える事にした。悪いことをした自覚はあるが、あの時はこれしか方法はないと思っていたので、後悔はない。

 とりあえず、健斗の指摘した通りにあとで謝っておこう。


「はぁ、色々とツッコミどころはあるが、とりあえず食べるか。」


「えぇ、いただきましょ。」


 一通りの尋問が終わると、健斗は先ほどルームサービスで運んできてもらった朝食を取ろうと言い出した。私も、正直なところお腹が空いていたので、それに頷いた。

 今日のご飯は、日本人である私たちを配慮してか、和食、見覚えのある美味しいそうな料理が並んだ。

 お互いに向き合いながら、箸を動かす。

 そう言えば、こうして朝食を一緒に食べるのも久しぶりだ。健斗の一挙一動を観察しつつ、懐かしさに浸った。


「そう言えば、明日人は何しているんだ?」


「何かよくわからないけど、用事があるって言っていたわ。」


「用事か。何も言って来ないって事は、ツクヨミ関係だろうな。」


「多分そうだと思うわ。私はついでだって言ってたし。」


「頼むから面倒事じゃなくしてくれよ・・・・・・」


 相変わらず面倒事は嫌いなようで、健斗はそうぼやきながら、白米を口にした。健斗は、食べ方が結構綺麗な人だ。おそらく、葉子さんの教育が良かったのだろう。


「美味しいわね。」


「あぁ、美味いな。白米が美味いと、全部美味い。」


 健斗も絶賛する和食の朝食を堪能していると、健斗は突然箸を置いた。まだ料理は残っているにもかかわらず、健斗はその場から去ろうとしていた。


「どうしたの?まだ残っているわよ?」


「どうやら、面倒なお客さんが来たようだ。」


「お客さん?」


「ほれ、見てみろよ。」


 健斗が指差した方を見ると、見たこともない1人の女性が、窓の外からこちら側を見ていた。金髪の長い髪に、少なくない魔力をまといながら空中に浮かんだ彼女は、間違いなくこちらを見ていた。手には魔法具を持っており、どうやら健斗の言う通りお客さんであることは間違いないようであった。


「迷惑なストーカーもいたものね。」


「お前が言うなよ。」


「私の方は愛があるからいいのよ。」


「おいおい。」


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 どうでもいい話

ファミマのプリンこそ至高

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