第11話 疲労を癒すもの

「あぁ〜疲労困憊だ〜」


【S級魔法師と戦った時よりも、さらに疲れている気がするわよ。】


「なんかそんな気がする・・・・・・」


 ニューオリンズにやって来てから、ざっと1週間が経過した。有栖川の隣について色々なところを周り、名前と顔を覚えてもらう日々、最初に全てやるか後日少しずつやるかで前者を選んだ俺は、文字通り連れ回された。観光する暇なんてもちろんなく、お土産すら買う余裕はなかった。まぁ、元々今回の旅は観光ではなく仕事のためにやってきていたので、期待はしていなかったわけだが・・・・・・

 そして今日、最後の仕事がやっと終わった。あとは、日本へと帰るだけであった。


「今日までご苦労だったな、健斗くん。このまま何事も無ければ、明日の昼頃には行きに乗ってきた船と同じ船で日本に帰ることになるだろう。」


「フラグに聞こえますよ、有栖川さん。」


「ははは、確かにな。」


 少し含みを持たせたような有栖川の発言に突っ込みを入れつつ、俺たちは揃ってホテルの廊下を歩いた。もう既にいい時間帯であり、廊下は極端に静かであった。

 最終日ということもあり力を振り絞った分、今日の俺は部屋に着いたら速攻で寝れる自信があった。


「だがS級魔法師なら、フラグごとき簡単に潰せると信じているぞ。」


「S級魔法師だって万能じゃないんですよ。」


「知っているよ。S級魔法師は、万能じゃない。」


 有栖川は、短くそう答えた。

 S級魔法師は万能ではない。この言葉は、魔法の母キリア=メスタニアが、夫を戦争で失くし涙を流す未亡人に対してかけた言葉だ。当時、他の魔法師とは一線を画す実力を持ち、唯一のS級魔法師であったキリア=メスタニアは、世間から大きな期待を1人で背負っていた。神のように崇められ、ついには彼女に対して無理難題を言う者が現れた。

 死者を蘇生しろ、だったり、失った腕や障害を治せ、だったりと、人類を救うために立ち上がった彼女に対する扱いは、何年酷くなっていた。彼女は笑ってそのような冒涜をいなしていたが、彼女の心は確実にすり減っていた。

 そんな中行われた死者を弔うための合同葬儀にて、立ち入り禁止線を乗り換えて彼女の元へやって来た民間人に対して、ついに堪忍袋の尾が切れたのか、彼女は冷たくこう言い放った。

 S級魔法師は万能じゃない、と。

 言われた者もそれを聞いていた者も思わず唖然となり、普段温厚な様子しか世間に見せていなかった彼女の言葉は衝撃を与えた。

 そしてこの話には、悲しい続きがあった。

 彼女の発言に、当時の世間は賛否両論を呼び、大きな問題になったが、それから1月も経たないうちに彼女はS級魔法師が万能でないことを証明することとなった。皮肉にも、自身の死をもって。

 俺が生まれる前の話ではあるが、おそらく有栖川さんは、この問題をダイレクトに受けているはずだ。


「さて、変な雰囲気にして悪かったな、健斗くん。どうやら私は疲れているようだから、先に寝かせて貰おう。君も自分の部屋に戻って早く寝るといい。」


「は、はい。そうします。」


「あぁそれと、いささか遅すぎではあるが、君の部屋から取り寄せた寝具があるから、存分に活用してくれ。それでは、おやすみ。」


「はい、おやすみなさい。」


 それだけ言うと、有栖川さんは護衛の人たちと共に部屋へと入っていた。完全に中に入ったことを確認した俺は、お隣の自分の部屋へと入った。

 もう既に、この部屋には1週間ほどお世話になっており、完全に住人となっていた。電気の位置であれば、目を動かさなくても確認することができるレベルであった。

 有栖川に貰った高そうな服をソファへと投げ、俺は真っ直ぐベッドへと向かった。


「そう言えば、寝具を持ってきてくれたって言ってた。」


 有栖川と別れる直前に言われたことを思い出しつつ、そんなものあったかなと考える。

 俺は別に、枕にこだわりは無く、わりとどうでもいい派であった。確か、ネットの通販でテキトーに選んだやつであり、わざわざ持って行くレベルの物ではなかった。

 それゆえに、有栖川がいったい何を持って来たのか、少し興味を持った。

 そして、俺は自身のベッドを見て、俺は有栖川の言っていた寝具が何かわかった。


「そういうことか・・・・・・」


 俺は思わず、驚きを通り越して呆れた。

 まさか、彼女がここで寝ているなんて、いったい誰が想像したのだろうか。


「なんでルーシアがここにいるんだよ。」


 俺が昨日まで寝ていたベッドに、何故かルーシアが気持ちよさそうに寝ていた。もちろん、今日ここに来るなんて聞いていなかったし、予定にもなかったはず。

 というか、目の前の光景が、果たして現実なのかも少し怪しい。


「あぁ〜ダメだ。頭痛い。もう寝よ。」


 寝て起きたら、全部気のせいだったと言うことが、もしかしたらあるかもしれない。

 体力が限界であった俺は、ちょうどいい抱き枕を堪能しつつ、眠りの世界に旅立つことにした。

 きっと、明日になれば全て片付いているだろう。


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 どうでもいい話

ピザで一番美味しいのは、ハニーチーズ

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