第10話 不穏な反応

 フランス、パリ


「くそっ!」


 女は悔しさを顕にしながら、利き手でテーブルを殴った。ドンッ!と鈍い音が室内に響きわたり、周囲の者たちの注目を集めた。


「いったいどうなっているよ!もう新たなS級魔法師は誕生させないんじゃ無かったの!」


「そのはずであったと記憶しています。」


 執事の男は、先ほどの台パンのせいで散らかった机を片付けながら答えた。


「ならどうして!新しいS級の誕生が発表されるのよ!」


 女は、世界魔法協会ジルトレアが行った突然の方針転換に対して怒っていた。

 自分が以前、S級魔法師になるために資格保有者2人から推薦を受けてジルトレアと面接を行った際は、もうこれ以上S級魔法師を誕生させるつもりは無いから、昇格は認めないと言われた。

 しかし今回、ジルトレアは新たなS級魔法師の誕生を発表した。しかも史上最速最年少というおまけ付き。連日様々なメディアが、新たな新星本条健斗のことを報じており、その報道は彼女の嫉妬の心に火を付けた。


「黒白に紅焔に白銀にゼラストにレネ、いったい幾ら積めば、こんな凄いメンバーから推薦を貰えるのよ!」


「私には何とも・・・・・・」


「ムカつくっ!」


 実際、ジルトレアとしては新たなS級の誕生をあまり望んでいないなかった。というのも、S級魔法師の誕生には、明確なリスクがついて回るからだ。

 星間戦争の終戦からおよそ20年、ジルトレアはその存在意義である世界平和を何とか維持しているが、新たなS級の誕生を認めた結果、各国のパワーバランスが崩れれば、それが戦争に繋がったとしても何ら不思議ではない。そのためできるだけ、上位の魔法師の数は現状維持が望ましく、無闇に増やすことは避けていた。

 このことは、ジルトレア最高責任者であるゼラストも明言しており、昔に比べてS級魔法師への昇格は難しくなっていた。まぁそもそも、S級への昇格はオリンピックで金メダルを取るよりもずっと難しいので、難易度が多少上下したところであまり意味はないが・・・・・・


「そうだわ、もう一度推薦状を集めればいいのよ。状況が変わったということは、まだS級に空きがあるかもしれないわ。」


「果たしてそう上手くいくでしょうか・・・・・・」


「何?貴方は反対なの?」


「はい、確かに本条健斗に便乗して昇格を要求することは、プラスに働くと思いますが、それよりも先にお嬢様のお力を世界に示すべきだと思います。お嬢様の知名度は、フランスやヨーロッパ内であれば知らない者はいないと自負しておりますが、日本やアメリカといった国々にまでその名を轟かせるべきかと。」


「なるほど、一理あるわね。」


 部下の声を聞き、女は考える。確かに、このまま何の対策もせずに申請を出したら、同じように弾かれる可能性は高い。ならば、確率を少しでも高めるためのアピールをすべきという判断は間違っていない。


「でも、どうやるのよ。」


「私に一つ、考えがあります。」


 主人の興味を引けたことを確認した部下は、簡単に計画を伝えた。中々に大掛かりな作戦ではあるが、成功する保証は十分にあり、やってみる価値はあった。

 数分考えた後、女は作戦を実行することに決めた。



 *



 同じ頃、健斗はニューオリンズにて、昨晩に引き続きゼラストとの会談を行っていた。S級魔法師になったことによって発生した義務と権利を再確認しつつ、今後の展望について語り合っていた。

 健斗としては、これ以上の面倒事を避けられれば何でも良かったので話し合いは案外スムーズに進んだ。ただ一つだけ、ゼラストさんにも突っ込まれた項目があった。


「ここの学力の項目、これは誤表記かな?健斗くん」


「えっとですね・・・・・・」


「これほどまでに芸術的な点数、初めて見たな。」


「うぅ・・・・・・」


 有栖川さんにも突っ込まれたが、やはりゼラストさんにも突っ込まれた。いい加減、学力の問題は何とかしなきゃだと思うが、まともな学力を身につけるためにいったい何年かかるのだろうか・・・・・・

 そもそも、俺は戦闘担当の魔法師であり、魔法の知識は必要でも、基礎的な学力は必要ないと思うのだが、違うのだろうか。これは決して、勉強から逃げたいとか、そういうアレじゃない。そう、純粋な疑問ってやつだ。


「魔法師だからといって、勉強を疎かにしてはいけないぞ、健斗くん。魔法と関係ない基礎的な学力の部分は特にな。」


「は、はい。気をつけます・・・・・・」


「ちなみにだが、黒白は超が付くほど頭が良かったな。」


「そうなんですか?」 


 日本が生んだ地球の至宝、『黒白』の学力が高かったという情報に驚きつつ、俺は思わず聞き返した。意外と言っては失礼かもしれないが、魔法と学力の両立をするなど、とてもじゃないが、真似できそうにない。

 というか黒白も、元学生なのだろうか。


「あぁ、俺も詳しくは知らないが、若くしてS級魔法師となったあいつは、年齢的には学校に通わなきゃいけない年齢だったが、星間戦争のせいで学校なんて通わせてもらえなくてな。よく、空母の中で勉強してたな。」


「そんなに早くっ!」


 学校に通わなきゃいけない年齢ということは、彼は最低でも中学生の時にS級魔法師になった事になる。今よりもS級魔法師になるのが簡単な時代であったとはいえ、これは普通ではない。黒白は特別であり、異常に分類される側だ。


「まぁとりあえず、勉強はしておけよ。」


「はい・・・・・・」


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 どうでもいい話

 ちょっと更新ペースが間に合わなくなったので、毎日投稿から2日に1本投稿に変更いたします。代わりに、内容を濃くするので許して下さい。

詳しくは、近況ノートにて。

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