第7話 証の重みと責任

『速報です。たった今、世界魔法協会ジルトレアは、26人目となるS級魔法師の誕生を発表致しました。今回新たにS級となったのは、日本魔法協会所属の現役A級魔法師である本条健斗氏です。この発表を受けて、日本政府はこれから、緊急で閣議が行われるとのことです。』


「マジじゃん・・・・・・」


 慌ててネット配信アプリを開くと、どのチャンネルを開いても、同様の内容を放送していた。本来なら、全く別の番組が放送されているはずなのにも関わらず、どのチャンネルも番組を中断して放送していた。


「おめでとう健斗くん。たった今、ジルトレア最高責任者であるぜラスト=メネルトーレから私のところに正式な通知が来た。君は、今この瞬間から化け物の仲間入りだ。」


「・・・・・・何かの間違いということは?」


「あのイギリスの英雄に勝ったんだ。予定よりもだいぶ早かったが、こうなることは君も覚悟していただろ?」


「え?」


「え、とはなんだ。私はてっきり、覚悟の上でイギリスの英雄に勝ったのだと思っていたが、違ったのか?」


「違いますよ!俺は平凡な生活を望む一般市民です!」


 俺が声を大にしてそう言うと、有栖川や彼の部下は、揃って驚いた顔をした。

 世界のリーダーであるジルトレアが名言した以上、俺の小さな行動では事態がひっくり返ることはない。頭では分かっているつもりであったが、俺は現実を直視できていなかった。


「・・・・・・君は、どうしてジルトレアが、星間戦争が終結した後も、級位制度を維持したか知っているか?」


「いえ、全く・・・・・・」


「報告には聞いていたが、本当に勉強ができないんだな。君のテスト結果を見た時は、何かの間違いかと思ったが、本当に学力が低いんだな。」


「それほどでも。」


「褒めてないぞ。」


 どうやら、先日行われたテストの結果は、有栖川さんに知られているようだ。一体どこから漏れているのかはわからないが、700点満点中121点という断トツで学年最下位をとったことはできれば隠しておきたかった。まぁ、バレているなら遠慮なんて要らない。


「まぁ、君の学力が低いのは置いといて、ジルトレアが星間戦争が終結した後も級位制度を維持したのには、とある狙いがあったんだ。」


「狙い?」


「星間戦争当時、級位は今のような強さの証としての意味ではなく、どちらかと言えば勲章としての意味合いの方が強かった。だから戦後、級位制度を維持するかどうか、大いに揉めた。だが、彼らはとある狙いのために、残す道を選んだ。それは、1人で国家を相手にできる個人を野放しにしないという狙いだ。」


 MSSが世界中に普及したのは戦後数年後の話であり、それまでは魔力測定システム、通称"MMS"という装置が世界の治安を守っていた。しかしこのシステムは、魔力の質と量を測定するためのシステムであり、魔力パターンまでは観測できなかった。そのため、膨大な魔力の移動であれば対応できるものの、少ない魔力や細かな魔力の動きに弱く、肝心の魔法の使用者の特定ができなかったため、新たな秩序を形成する必要があった。

 そこでジルトレアは、かつては勲章としての役割を持っていた級位制度を使って、魔法師を縛る事を考えた。要するに、S級やA級相当の魔法師が身勝手な行動をしないようにするための足枷として利用した。

 この判断を疑問視する声は未だに存在するが、それでも失敗では無かった。実際、世界各地の犯罪発生率は確かに減少しており、目立ったテロ行為なども、未だに起こっていなかった。

 ただ、唯一の誤算はこの方針を決定するよりも先に、歴戦の英雄達がこぞって表舞台から去った事だ。何とか、半数の脱退で食い止めることができたが、この方針はあれだけ人類のために働いてくれた英雄達を縛り付けるような行動だと、世間から批判された。

 それにより、ジルトレアの方針に不満を持つ者が増え、ジルトレア創設者であり最高責任者であるセラン=レオルドは、ジルトレアを守るために責任をとって辞任した。後任には、序列一位も経験した事のある元S級魔法師のゼラスト=メネルトーレが選ばれた。そして、ゼラストの最高責任者就任により、ジルトレアは再びの安定を取り戻した。


「ずいぶんと話し込んでしまったが、要するにS級昇格を拒否する事は、いかなる理由があったとしてもできないという事だ。諦めて職務を全うせよ。」


 有栖川さんは、俺の両肩に手を置きながらそう締めた。正直、途中半分くらい何を言っているのか理解できなかったが、同じ話をもう一度聞くのは嫌なので、理解したことにした。

 どうやら、選べる道は一つしかないようだ。


「わかりました。やってやりますよ、S級!」


「その返事が聞きたかったよ、健斗くん。じゃあ早速、記者会見の準備をしようか。今や世界中の魔法師が、彗星の如く現れた君に注目している。」


「っ!」


「ちなみに今の会話は録音されているから、やっぱ無しはできないからな。」


「おいおい。」


「私はこの業界に長いのでね。」


 それから、1時間も経たないうちに、俺が主役の記者会見が行われた。


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 どうでもいい話

 実は今のところ、書き始める前に書いたプロットの通りに進んでいます。

 こんなこと初めて。

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