第8話 世界の頂点

『たった今、日本魔法協会所属の本条健斗のS級昇格が発表されました。推薦人は、黒白、白銀、紅焔、ゼラスト=メネルトーレ、レネ=ストライクの5名で、史上最速かつ史上最年少でのS級昇格となりました。推薦人の1人であり、現ジルトレア最高責任者であるゼラスト=メネルトーレ氏は、「イギリスの英雄を葬ったのは決して偶然じゃない。彼がS級に値する実力を持っていることは、私が保証しよう。彼の今後の活躍に期待したい。」と、コメントしました。日本魔法協会の発表によると、本条健斗氏はつい先ほど東京を出発し、ジルトレア本部のあるニューオリンズに向けて旅立ちました。』


「健斗が居なくなってもう2週間か〜早いものだね〜」


「えぇ、そうね・・・・・・」


 ジルトレアから、健斗のS級昇格が発表されてから2週間が経過した。世間は未だにお祭り騒ぎであったが、育成学校の授業は何事も無かったかのように行われていた。その間、健斗は学校を休み続けており、家にも帰っていなかった。


「健斗からの連絡はまだ来ていないの?」


「えぇ、この2週間、ずっと音信不通のままだわ。」


「うわ〜健斗嫌がりそ〜途中、嫌になって抜け出したりして。」


「それ、ちょーありえる。」


 挨拶周りを面倒くさがる健斗のことは、容易に想像できた。きっと今ごろ、相当苦労していることだろう。


「まったくあの男は、いったい何を考えているのよ・・・・・・」


「もしかしてだけどルーシア、健斗が居なくて寂しいの?」


「べ、別に、寂しくなんか無いわよ。ただちょっと、1人部屋だった頃を思い出しているというか、なんというか・・・・・・」


「そうなんだ。」


 ここ最近、ルーシアは生活に物足りなさを感じていた。2ヶ月前までは当たり前であった1人暮らしも、口に出すことは少し恥ずかしいが寂しく、改めて健斗が居なくなったことを実感した。未だに連絡が取れていないことが、さらに不安さを加速させた。

 ふとした瞬間に健斗のことを考えてしまっており、ホームシックの逆バージョンのような状況になっていた。

 その様子を見て、明日人はルーシアに対して、とある魅力的な提案をすることにした。


「実は僕たち、今日から健斗に会いに、ニューオリンズへ行こうと思っているんだけど、ルーシアも一緒に来る?」


「行くわ。」


「即答かいな。」


 ルーシアは、まるで最初から答えを決めていたかのように即答した。明日人は驚きつつ、旅行プランを共有した。


「じゃあとりあえず、学校が終わったら荷物まとめてツクヨミタワー集合ね。」


「ツクヨミタワー?飛行機なら、羽田か成田じゃないの?」


「今回使うのはプライベートジェットだからね。まぁ正確には、プライベート宇宙船スペースシップだけど。」


「流石は世界的大企業の社長令息と令嬢ね、金持ちの次元が違うわ・・・・・・」


「まぁ宇宙船と言っても、星間戦争が終わってお役御免になった引退船をうちが引き取ったやつなんだけどね。それでも、終戦まで生き残った優秀な船だよ。」


「楽しみにしておくわ。」



 *



「んっ・・・・・・」


「おはよう健斗くん。よく眠れたかな?」


「ここは・・・・・・」


 眠たい目を擦りながら周囲を見回すと、俺は知らない天井の知らない部屋にいた。また異世界に飛ばされたんじゃないかと考えていたが、有栖川の顔を見て一気に現実へと引き戻された。そしてだんだんと、それまでの記憶が蘇ってきた。


「俺、何時間ぐらい寝てました?」


「ざっと3時間ほどだ。その様子じゃ、記憶の方は戻って来たようだな。疲れはとれたか?」


「はい、だいぶマシになりました。ただちょっと、お腹が空いてます。」


 過去の記憶から、ここがニューオリンズにあるホテルの一室であることを思い出した。確か初めての宇宙船のせいで1ミリも寝る事ができず、有栖川さんに伝えて睡眠をとる事にしたんだった。

 同時に、この後待っているであろう地獄の続きのことを思い出し、俺は何とか逃げ出せないかなと心の中で考える。


「そうか。ところでそんな君に、良い知らせと悪い知らせがあるのだが、どちらから聞きたいかな?」


「何ですか?その質問。」


「いいから直感を信じて選びたまえ。これはちょっとしたゲームのようなものだ。」


「じゃあ良い知らせで。」


 特に悩むことはなく、言われた通りに直感を信じて選んだ。すると、ニヤリと笑った有栖川は、俺に対して魅力的な提案をした。


「よろしい。実は次の会談が20分後に始まるのだが、夕食を食べながら会合を行う、ディナーミーティング形式が採用されることとなった。どうやら、最高級のお寿司が味わえるようだ。」


「それは良い知らせですね。」


 ちょうど、お腹が空いていたので、それは良い知らせであった。最高級のお寿司、正直なところ魅力しか感じない。同時に、悪い方の知らせが何なのか気になった。


「それで、悪い知らせの方なんだが、これから会う人物は、今まで会った中で最も権力のある人物だ。くれぐれも、失礼なことはしないように頼むな。」


「それってまさか・・・・・・」


「あぁ、そのまさかだ。ジルトレア最高責任者、ゼラスト=メネルトーレ氏だ。」


 それは、俺をS級にした張本人であった。


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 どうでもいい話

 スイートポテト、一回400円って書いてあったから買ったら、100gあたり400円で、1500円ほど払いました。

 でも、美味しかったです。

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