第6話 名だたる英雄に呼ばれて

「で?何の用ですか?」


 学校終わり、有栖川さんから呼び出しを食らった俺は、自分の部屋でひと息入れた後、日本魔法協会へと向かった。

 最近は、魔法協会に呼び出されることにも慣れ、俺は顔パスでいつもの部屋へと向かった。


「何時に無く不機嫌だな、健斗くん。ガールフレンドとデートの約束でもしていたのかな?」


「ガールフレンドなんて居ないし、いたことないですよ。まぁ、機嫌が悪いのは確かですけど。」


 俺は半分を否定しつつ、半分を肯定した。

 ルーシアとは一応、交際関係ではない。俺はともかく、ルーシアの方にそんな気はないだろう。


「意外だな。君は、確かに口は悪いし性格も捻くれているが、魔法力だけは確かだというのに・・・・・・」


「褒めてます?それ。」


「半分ぐらいはな。」


 そう言いながら、有栖川さんは笑った。正直、全然面白くない。

 俺は、用意されたいつもの席へと腰を下ろし、出された紅茶に口を付けた。美味しくはあるが、俺としてはルーシアが淹れてくれたやつの方がずっと美味しい。


「さて、つまらない話はこれぐらいにして、今日君をここに呼び出した理由を話そうか。」


「あぁ、頼む。」


「理由というのはこれだ。」


 俺がそういうと、有栖川は亜空間から一通の封筒を取り出して机に置いた。外見は、至って普通の少し大きめの封筒であったが、少し変な感じがした。見ただけでわかるほど強力なプロテクトがかけられており、簡単には中身を覗けそうにない。


「この魔力パターンに見覚えはあるか?」


「魔力パターン?言われて見れば、以前どこかで・・・・・・」


「っ!やはりそうか。」


 魔力パターンというのは、魔法師、より正確に言うならば魔力回路の型のようなものだ。魔法師はそれぞれ固有の魔力パターンを持っており、魔法を使えば、その魔法には固有の魔力パターンが刻まれる。インターネットで例えるなら、魔力パターンというのはIPアドレスのような役割を担っており、魔法に刻まれた魔力パターンを見れば、その魔法の使用者を特定できる。

 ちなみに、国家の防衛や防犯を担う、魔力感知システム通称“MSS“も魔力自体ではなくこの魔力パターンを観測している。それにより、誰が何時どこでどのような魔法を使ったかを監視することができている。逆に言えば、提供元であるツクヨミ社から『MSS』を売って貰えなかった国は、国内における魔法の規制ができず、最悪の場合、無法地帯となってしまう。これには前例があり、このMSSの存在も、各国がツクヨミ社の顔色を伺う理由の一つだ。


「これは、とある男から君に届けてほしいと言われた封筒でな、中身は私もわかっていない。」


「とある男というのは?」


「聞いて驚け、史上最強と謳われた英雄、黒白からだ。」


「なっ!」


 俺は、素直に驚いた。黒白といえば、星間戦争を終わらせた英雄であり、俺の、いや世界中の人々の憧れの的だ。そんな人物が、一体俺になんのようなのだろうか。


「黒白が言うには、その封筒は健斗の魔力パターンに反応して開くらしい。早速、開けてみてくれ。私も中身が気になる。」


「わかりました。」


 言われて、俺は自身の魔力を封筒へと流した。

 すると、俺の魔力に反応して、封筒に刻まれた魔法は、次々と別の魔法を反応させた。一言で言うならば美しく、魔法は連鎖する。


「ははは、さすがあの黒白だ。相変わらず無駄に凝った演出をする。」


「そうなんですか?」


「あぁ、あの男は才能の無駄遣いが好きな人間でな、こんな感じのちょっとしたことにも情熱をかける奴だ。とは言っても、私はそんなに、あの男について詳しいわけじゃないがな。」


 突然輝き出した封筒は、宙に浮くと自動で形を変えた。封印が解けると、封筒は再び俺の手元へと戻ってきた。


【すごいわね・・・・・・】


 頭の中で、ルキフェルの驚く声が聞こえた。どうやら彼女も、あの黒白の魔法に驚いているようだ。

 俺は早速、封筒の中に入っている手紙を読み始めた。


「『やぁ、初めまして、でいいのかな?僕は君のことをよく知っているけど、君は僕のことを知らないようだから初めましてと言っておこうか。さて、まずはおめでとうと言っておこう。先日の親善試合、僕も現地に観戦に行ったけど、大いに楽しませてもらったよ。特に君の固有魔法、初めて見たけど凄まじいものだった。機会があれば是非、僕も遊んでみたいものだね。』」


 あの黒白との戦闘、少しだけやってみたい気もする。そんなことを考えながら、俺は手紙の続きを読んだ。


「『さて、今回は君の勝利を祝って、からプレゼントを送ろうと思う。ぜひ受け取ってくれ。ちなみに、受取拒否はできないからそのつもりで。夜明けの光一同』?」


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「それで終わりか?」


「はい、終わりです。」


「肝心の、プレゼントが見当たらないが・・・・・・」


 確かに変だ。プレゼントを送ると書いてあるのに、手紙はそれで終わっている。不思議に思って、封筒を確認してみたが、中身は空だった。

 どういうことなのかと、疑問に思っていると、背後にある会議室の扉が急に開いた。反射的にそちらを振り向くと、1人の、有栖川の部下と思われる男が部屋へと入ってきた。そして、驚きの知らせを俺たちに伝えた。


「どうした、何があったっ!」


「報告します!たった今、世界魔法協会『ジルトレア』が日本魔法協会所属のA級魔法師、本条健斗のS級昇格を発表いたしました。」


「「「は?」」」


「推薦には、黒白、紅焔、白銀、レネ=ストライク、ゼラスト=メネルトーレの5名が署名し、先ほど正式に受領されました。」


 星間戦争時代の、序列1位〜5位という錚々たるメンバーによる推薦によって、俺はこの日、S級魔法師となることが正式決定した。


 ______________________________

 どうでもいい話

 健斗の4年間がどのぐらいバレたかはまた次回

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る