第5話 sideルーシア5

「であるからして、概念系統に属する空間魔法と時間魔法は、他の魔法を超越した影響力を持っており、黒白はその両方を自由自在に操ることによって魔法師の頂点に君臨したと言われております。」


親善試合が行われた翌日の月曜日、私も健斗もお互い授業に集中できていなかった。まぁ、健斗は元々の学力が小学校高学年ほどしか無いので、まともに授業を受けることができていたとしてもちゃんと理解しているか怪しいが、少なくとも私は動揺していた。


「ではこれにて、本日の講義を終わります。」


この時間は、概念系統に関する講義が行われるはずであったが、残念ながらまったくと言っていいほど記憶に残っていなかった。まぁ、概念系統という、使い物にならない魔法系統を学んだところで、何にもならないという言い訳はできるが・・・・・・

授業が終わったため、私は荷物を亜空間へと収納しつつ、健斗の様子を伺った。今日は月曜日なので生徒会も懲罰委員会も集まりが無いはず。つまり、一緒に帰るチャンスだ。

クラスを見渡してみると、何人かの生徒が、何か話したそうに健斗の方をチラチラと見ていたが、残念ながら話しかける勇気は無いようで誰も動かなかった。その様子を見て、私は優越感に浸りながら健斗の方を向き、声をかけた。


「あ、あの、k「おーい、健斗〜一緒に帰ろ〜」・・・・・・」


私が健斗の名前を言おうとした直後、お邪魔虫Aが割って入ってきた。当然、私の言葉は無視され、健斗はお邪魔虫Aの方を向いてしまった。


「あぁ、いいぜ。」


「じゃあ行こっか。いや〜今日の授業もつまらなかったね〜」


「あぁ、相変わらずさっぱりわからなかったぜ。」


「そう?結構簡単だったじゃん。まぁ、ところどころ間違っていたけどね〜」


「俺にはさっぱりだったわ。」


私が何も出来ずにいる間にも、健斗とお邪魔虫Aは楽しそうに帰りの支度をしていた。その様子を見て、周りの生徒たちも諦めて帰りの支度をしていた。同時に、自分自身も健斗に話しかけることができない負け組であることを自覚した。

と、思っていたが、どうやらそれは、私の勘違いであったようだ。


「お〜い、ルーシア、お前は来ないのか?」


こちらを振り向いた健斗は、私の名前を呼んだ。私はその言葉に、待ってましたと言わんばかりに反応した。


「行って、いいの?」


「は?何を今さら。どーせ帰る場所は一緒だろ?」


「わかったわ。私も行く。」


「よし、じゃあ行くか。」


イギリスの英雄『クリスティア=ヘリフォード』に勝利し、何処か変わってしまったんじゃないかと心配したが、どうやら健斗はいつもの健斗のままであったようだ。

私は安心しつつ、自分が何も進歩していないことに気がついた。





2人の部屋へと戻って来た私たちは、制服から私服へと着替えた。2人というのはもちろん私と健斗のことで、私たちはそれぞれソファの定位置へと座った。


「はぁ〜疲れた〜やっとひと段落つける気がするな・・・・・・」


「そうね・・・・・・私もそれには同感だわ。」


紅茶の入ったティーカップを片手に、健斗は深いため息を吐いた。彼はかなりの紅茶好きで、何かするときはいつも片手にしている。おかげで、私も紅茶を淹れるのが得意になった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


お互いに疲れが溜まっていたせいか、聞こえてくるのはアナログ式の時計と呼吸の音だけという無言の時間がしばらく続いた。

以前、男女が2人きりでいる時に無言でも焦りを感じなくなった、それは良い関係を築けている証拠、というネットの記事を読んだ事を思い出した。読んだ時はその意味がわからなかったが、今ならばよくわかる。

そんなのは嘘だ、迷信だ、間違いだ。既に1ヶ月ほど同棲をしているのに、関係は全然発展していないし、健斗は手を出してくれない。

だけど、私はこの空間が、この上なく心地良かった。


「よし。」


「?」


私が2人きりの空間を楽しんでいると、突然立ち上がった健斗は、机の上に飲みかけのティーカップを置いて玄関の方へと向かった。私も彼の後を追う。


「じゃあちょっと、魔法協会に行ってくる。」


「魔法協会に?今から?」


「あぁ、有栖川さんに呼び出されてな。」


「そう・・・・・・」


有栖川さんに呼び出されたとなれば、もう少し一緒にいたいとは言えない。葉子さんにはああ言ったが、私と健斗はまだ交際をしているわけじゃ無いし、何より健斗を留めるための言い訳がない。

ここで、一歩を踏み出せない自分が悔しい。


「いつ頃帰ってくるの?」


「さあ?ご飯は多分向こうで食べてくるから、俺の分は無しで頼む。」


「えぇ、わかったわ。気をつけてね。」


「あぁ、ごめんな。」


扉がゆっくりと閉まっていく。

私はその場から、動く事ができなかった。今の私には、その力がない。

最近、どんどんと健斗が遠くに行ってしまっている気がする。

このままでいいのか?言い訳がない。

せめて、健斗の隣に並び立てるように。


「決めた。」


決意を固めた私は、前を向くことにした。

前を向いて、明るい未来を思い描いて。

リビングへと戻った私は、残っていた飲み物とお菓子を全て食べた。そして、とある信頼できる相手に電話をかけた。


『もしもし?』


『健斗に追いつきたい?わかった、じゃあ僕が、最高の先生を紹介するよ。』


『ん〜ん、気にしないで、僕としても君と健斗くんには色々と期待しているから。』

______________________________

どうでもいい話

はよ来いや。

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