第4話 小さな矛盾と大きな嘘
「さて、とりあえずひと段落はできるようになったが問題は山積みだな。」
「そのようですね・・・・・・」
健斗が育成学校で授業を受けている頃、日本魔法協会では、会長である有栖川が頭を抱えていた。
今月魔法協会に加入した、日本の新たな星、本条健斗を親善試合の日本代表に指名した時は、イギリスのS級魔法師に善戦できれば御の字、負けても仕方ないと考えていたが、彼は有栖川の予想を良い意味で超えて来た。結果は文句無しの完勝、本条健斗は一滴も血を流さずにイギリスの英雄を葬った。
華々しい勝利に日本中が沸いたが、勝利の余波は有栖川の想像を軽く超えていた。まず日本魔法協会に飛んで来るのは、大量のCM出演依頼、しかも国内だけでなく海外の企業からも多数届いている。最初は、学生であることを理由に断ろうと思っていたのだが・・・・・・
「本条さんがツクヨミ社とスポンサー契約を締結していることを既に掴まれているようでして・・・・・・」
「彼は昨日、ツクヨミ社製の戦闘服や武器を使っていた。バレないはずがないだろう。」
健斗がツクヨミタワーにてツクヨミ社と契約を交わしたという情報は、もちろん日本魔法協会にも届いていた。そもそも、健斗の位置はMSSとGPSによって24時間監視されており、健斗がツクヨミタワーに入ったタイミングで、こうなる事は予想できていた。
魔法協会としても、所属している魔法師が天下のツクヨミ社と契約を結ぶこと自体は嬉しいニュースであり有栖川も喜んだが、その代償は想像以上に高くついた。
「現在、1分に1件ペースで世界中の企業から様々な提案が届いている状況です。早急に会見を開き、方針を定めるべきかと。」
「いっそのこと、ツクヨミ社に全部押し付けるか・・・・・・」
「ツクヨミ社と争うような真似は避けるべきかと。最悪、魔法協会所属の全魔法師との契約を切られます。」
「そうだったな。あの女狐ならばやりかねない・・・・・・」
ツクヨミ社CEO藁科咲夜、彼女は誰もが一度は聞いたことがあるほど有名であり、現代において最も影響力を持つ人物の1人と言えるほど重要人物だ。彼女は、1人で国家のパワーバランスを崩すことができるほどの影響力を持っており、実際に彼女の逆鱗に触れた魔法先進国の一つが、国内のあらゆる契約を解除されて、発展途上国に転落したという前例がある。そんな、彼女率いるツクヨミ社に喧嘩を売るような真似をすることは、いくら魔法協会と言えどできなかった。
機嫌を損ねるだけでも、一体どれだけの影響を受けるか想像がつかなかった。
「ならば、明日にでも会見を開いて、健斗に関する決まりごとを明確に示すべきだな。」
「はい、それがよろしいかと。予定を空けておきます。」
「ふむ、とりあえずメディア対応の方はそれでいいだろう。」
1つ目の方針が決まった事を喜びつつ、まだあともう1つ面倒事が残っている事にため息を吐く。本条健斗という才能の塊を見つけた時は飛び上がって喜んだが、価値のある物には面倒事がついて回るという事を改めて実感する。
まぁ、どんな面倒事が付いて回っても、本条健斗というS級魔法師に匹敵するカードを捨てるようなことはしないが・・・・・・
「2つ目ですが、世界各国の政府機関や魔法機関から、説明を求める声が上がっております。」
「世界各国というのは?」
「自国のS級魔法師を葬られたイギリス、ドイツはもちろんのこと、アメリカや中国といった魔法先進国を含む50ヵ国ほどです。」
「なるほど、存在するほぼ全ての国々ということか。」
「はい。」
50年に及ぶ星間戦争によって、戦前の半数以上の国々が崩壊、もしくは統合された。特に、被害の激しかった南半球の国々は、50年後かつての故郷に戻るようなことはせず、移民先での暮らしを選ぶ者がほとんどであった。そんなわけで、現在、世界魔法協会『ジルトレア』に加盟している国の数は65ヶ国であり、ジルトレアには加盟していないが日本が国家として承認している国を合わせても、70ヶ国に満たなかった。
「本条さんがあまりにも突然A級となり、輝きを放っていることを、不審に思っているようです。魔法師を育成する斬新的なシステムが作られたのではないかと疑う国もあります。」
「そんな教育システム、あれば教えて欲しいぐらいだな。」
「各国は現在、本条くんが通う育成学校に注目しており、近いうちにスパイや調査団を潜入させるという噂もございます。」
「凄い影響力だな・・・・・・」
報告を聞いて、有栖川は呆れつつも、さもありなんと納得する。
「特にドイツでは、現在育成学校に通っているアレン=ハーンブルクの御息女を使って、近々行動を起こすかもしれないという噂もあります。」
「確か、ルーシア=ハーンブルクだったか?気の毒な話だな・・・・・・」
1年と少し前に問題になった事件で、有栖川も彼女の名前を覚えていた。結局、彼女は日本の育成学校東京校で預かることが決まったわけだが、当時はかなりの問題になった。
「ん?」
そこで、有栖川はとある引っかかりを覚えた。
「本条健斗のプロフィールをスクリーンに出して来てくれ。」
「了解です。」
言われて、部下の男は健斗の顔写真の入ったプロフィールを表示させた。そこには、健斗のこれまでの人生が細かく書かれており、有栖川はそれを凝視した。
「・・・・・・どういう事だ?」
「何がでしょうか。」
「どうしてドイツが、健斗の素性を知りたがる。健斗は5月の頭まで、約4年間ドイツで生活していた。私はてっきり、ドイツにいる間に彼は覚醒したのだと思っていたが・・・・・・もしかしてドイツ政府は、健斗が4年間自国にいた事を知らないのか?」
「言われてみれば、おかしいですね・・・・・・」
「ドイツから日本に帰ってきて、僅か3日後に日本でA級に認定されたとなれば、日本の育成学校に秘密があるとは普通考えない。つまりドイツ政府は、健斗が自国にいたことを知らないという事だ・・・・・・」
「っ!」
「今すぐ健斗のドイツ留学について洗え。何かこれは、裏があるぞ。」
「了解っ!」
部下に命令した直後、有栖川はとある男のセリフを思い出した。そして、自分自身が大きな思い違いをしている可能性に辿り着いた。
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どうでもいい話
次話は、ルーシア回になりそうです。
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