第3話 変わったこと

「・・・・・・何というか、視線を感じるな。」


 久しぶりの学校、まぁ、久しぶりと言っても土日を挟んで2日ぶりなので、時間的にはそれほど日は開いていないが、昨日が忙し過ぎたため精神的には1週間ぶりぐらいの感覚だ。

 もちろん、学校に大きな変化はなく、俺の記憶と全く変わっていない。ただ、生徒の様子は変わっていた。正確には、生徒たちの俺に対する目に、大きな変化があった。


「健斗は育成学校一の有名人だからね〜仕方ないんじゃない?」


「まぁ、気持ちはわかるがな・・・・・・」


 俺は、誰かに憧れる存在から、誰かが憧れる存在となった。

 魔法師を目指す者が集まる育成学校において、世界で活躍する魔法師への注目度合はもちろん高い。サッカー少年が海外のプロサッカー選手に憧れるように、世界で活躍する魔法師を目指す彼らにとって、A級魔法師やS級魔法師は憧れの的である。まぁ、A級に昇格してからまだ1ヶ月ほどしか経過していない俺には、まだファンはいないと思うが・・・・・・


「とりあえず、今健斗が最も考えなきゃいけないことは、周りのことじゃなくて目の前のことだと思うよ?」


「どういう事だ?」


「ほらあれ。」


「げっ・・・・・・」


「頑張ってね〜」


 明日人が示した方を見ると、何か言いたげなお隣さんが、ジロりとこちら側を見ていた。いったい何が原因なのか、さっぱりわからない上に心当たりも全く無いが、面倒事の予感だけはピンピンしていた。

 俺は、生徒たちの注目を集めながら、まっすぐ自分の席へと向かった。ちなみに、荷物などは全て亜空間にしまってあるので、今日は手ぶらだ。


「・・・・・・おはよ。」


「おはようございます。今日も良い天気ですね。」


「何を言っているの?今日は曇りよ。」


「運動する時は、晴れよりも曇りの方が好きなんですよ・・・・・・」


「そう・・・・・・」


 ビビって敬語で話してしまったが、とりあえず朝の挨拶は何とか完了、どうやら怒っているわけではない事は確認できた。だが、まだ安心できる状況ではない。こういう時は、油断が命取りとなる。

 切り込むべきか、静観するべきか、どちらがいいか考えていると、先にルーシアが話し始めた。


「そういえば昨日の試合、凄かったわね。」


「どーも。」


「あのイギリスの英雄に固有魔法の撃ち合いをした上で勝利、素晴らしいかったわ。あなた、第一段階を使える事は知っていたけど、第二段階も使えたのね。」


「まぁな。聞かれなかったから言っていなかったが、一応使えるぞ。いくつ使えるかはノーコメントだがな。」


 ルーシアに俺の魔法を開示するメリットは今のところあまり無い。魔法師同士の戦闘において、情報は勝負を決定づける重要な要素の一つだ。使える魔法や固有魔法の内容を把握していれば、その対策が可能になるので、魔法戦闘において大きなアドバンテージとなる。

 まぁ、相手がルーシアならば情報を全て開示しても勝てる自信があるが、ここは教室の中であり、生徒の誰かから世界中に拡散されてしまう可能性が十分にあるため、迂闊に口にはできない。


「あなたの第二段階、現地で観ていたけど原理も系統も全くわからなかったわ。多分だけど干渉系統か、概念系統よね。どっちなのかはわからなかったけど、貴方の固有魔法、何かズルいわよね。」


「ズルいって何だよ。俺はまだ、人間を辞めていないつもりだぞ。」


「人類最高火力と謳われる<ハウリングブラスト>を完全に無効化するなんて、ズルとしか言いようがないわ。いったいどういう仕組みなのかしら。」


「誰が聞いているかわからないような場所で、魔法式の効果を開示するわけがないだろ?」


「それもそうね、私が迂闊だったわ。」


 俺同様、固有魔法の使い手であるルーシアも、魔法式の情報漏洩を防ぐ事の大切さは理解できているようで、素直に引き下がった。

 ちなみに、ああは言ったが、俺の親善試合の時の映像は既に世界中に出回っているので、それほど問題にはならない。まず間違いなく、既に世界中の魔法研究機関が、俺の魔法に関する研究を始めており、今はサンプルの確保に四苦八苦している頃だろう。このまま放置していれば、それほど遠くない未来に隣国は、俺の固有魔法対策の魔法を開発するだろうが・・・・・・


「でも、貴方の魔法は本当に凄かったわ。これは本当よ。」


「そうか・・・・・・」


 詳しくはわからないが、俺の魔法は他人と比べて美しいらしい。特に、注意していることなどはまったくないが、よく言われる。


「今思えば、何にも知らずに貴方に挑んだ私は滑稽だったわね。」


「そんな事ないと思うが・・・・・・」


 まぁ確かに、相手の実力もわからないのに、喧嘩を売ったルーシアの選択は、今考えてみると間違っていたかもしれない。


「でも私は、あの時の選択が間違っているとはまったく思わないわ。」


「そうなのか?」


「えぇ、だってあの行動のおかげで、私は貴方とこんなにも親しくなれたんだもの。これからも仲良くしてね、健斗。」


「あ、あぁ・・・・・・」


 どうやら、嫌な予感は俺の思い違いだったようだ。

 考えてみれば、俺は彼女が怒るようなことを何もしていない。親善試合を経て変わったのは、周囲ではなく俺自身だったのかもしれない。


「それと、カッコよかったわよ。」


 先生が教室に入ってくる直前、ルーシアは少し照れ臭そうになりながらそう呟いた。

 俺は、彼女のその顔が、授業中頭から離れなかった。


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 どうでもいい話

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