第2話 評価と罠

『快挙っ!日本の新たな星、堂々イギリスの英雄を撃破っ!』

『最年少A級魔法師、<ハウリングブラスト>を正面から受け切るっ!』

『S級昇格なるか?本条健斗、2つ目の固有魔法を行使っ!』

『徹底考察!本条健斗vsクリスティア=ヘリフォードを振り返る』

「『最近何かと注目を集めていた日本の新星、本条健斗は、先日行われた国際親善試合にて格上であるイギリスの代表、クリスティア=ヘリフォードを撃破した。この勝利は世界中で様々な波紋を呼んでおり、特に今回の試合結果で最も影響を受けた英国魔法統括局は現在、本条健斗のS級推薦の検討を加速しているという。』だってさ。いや〜これは健斗がS級に昇格する日も近いか〜?」


「よく記事を見ろ、検討を加速するって書いてあるだろ?」


「あ、ほんとだ。じゃあ、健斗がS級になるのはだいぶ後かもね〜」


「そういうことだ。まぁ、お願いされてもS級になりたいとは思わないけどな。」


 親善試合が行われた日、俺は有栖川さんの計らいで、パーティー会場となったホテルで一泊し、次の日直接学校に向かう事となった。授業が始まるのは午前9時からであったためだいぶ余裕があり、偶然を装って同じホテルに宿泊していた明日人と共に地下鉄で東京湾にある育成学校へと向かった。


「というか、なんでお前がこんなところにいるんだよ。」


「えっと〜たまたま偶然?」


「嘘つけ。どーせいつものストーカー行為だろ?はぁ・・・・・・」


「・・・・・・あっ!ルーシアの方が良かった?」


「そういう問題じゃねーよ。」


 明日人は、というか藁科一族の人間は、少し神出鬼没なところがある。明日人の双子の妹である衣夜や、父親である結人さんもそうだが、おそらく急に現れるのが好きなんだろう。急に現れては消えることを好むという、よくわからない性格をしている。

 まぁ、良いやつである事は間違いないのだが・・・・・・


「そんな事より、今は健斗のS級昇格の話をしようよ。本当に断るの?」


「そのつもりだったけど、何か問題があるのか?」


「いーや、無いよ。でも僕としては、健斗には是非S級魔法師になって欲しいなって思っているんだよね〜」


「やだね。」


 俺は、明日人の願望を即座に否定した。S級への昇格なんて、何度も言うがどう考えても面倒事であり、上りたい気は全くない。


「まぁ、一番優先すべきなのは、健斗自身の考えなんだけどね。」


「それを分かっているなら、俺の自由でいいだろ?別に。これ以上目立ちたくないんだね。」


「今のままでも、十分目立っていると思うけどね〜」


「まだ舞える、はずだ・・・・・・」


 明日人の言わんとすることはわかる。確かに、全国ニュースどころか、世界的なニュースになったり、親善試合が世界中に中継されたりと、それなりに目立つ機会は多かったが、まだ普通の生活に戻れると俺は信じていた。

 俺はただの、異世界帰りの元勇者であり、言うなれば一般人と変わらない。


「でも、今日から健斗はさらに有名人になるんじゃない?カッコいい二つ名も付けられたみたいだし。」


「二つ名?なんだそれ、聞いてないぞ?」


「え?SNSを開いてないの?」


「あぁ、昨日は一日中、電子機器を没収されていたからな。昨日の夜、寝る直前に返してもらったが、眠過ぎて触っていないし・・・・・・」


「そっか、何というか、健斗らしいね。」


「俺らしいとは何だよ。」


 親善試合中は情報漏洩を防ぐため、私物の電子機器の使用は制限されていた。代わりに、魔法協会から代わりとなる端末を渡されたが、俺はそれの使い方がいっさい分からなかったため、結局使わずに過ごした。

 まぁ、異世界に行っていた4年間(異世界の時間では8年間)、いっさい電子機器を触らない生活をしていたので、今さら無くても困らない。そのため、SNSをいちいちチェックするという習慣が身におらず、俺の情報収集能力は電子機器が使えない高齢者とほぼ同程度であった。


「まぁいいや、じゃあ教えてあげる。健斗に付けられた二つ名、それは『無色の堕天使フォールンエンジェル』だよ。」


「何だそれ、というか誰だよそんなダサい二つ名を付けたやつ。」


「クリスティア=ヘリフォードさんだよ。」


「あの人かよ・・・・・・」


 何故彼女が俺にこのような二つ名を付けたのか、嫌がらせか、もしくは彼女のネーミングセンスが無いか、あるいは・・・・・・



 *



 時は遡り、健斗がパーティー会場にて振り回されている頃、同じホテルの最上階にて、とある親子が秘密の会話をしていた。


「報告は聞いたよ。良くやったね、明日人。」


「ありがとうございます、父さん。ですが残念ながら、敵の正体は最後までわかりませんでした。」


「大丈夫、想定はできているよ。それに、まずはルーシアさんが無事な事を喜ぼうか。」


 藁科親子が、ルーシアの護衛に健斗を指名したのには、襲撃のタイミングを限定するという目的があった。つまり、健斗というA級魔法師が常に彼女の側にいるという事を敵に印象付けた上で、健斗が親善試合のためいなくなるという絶好の機会を作ってあげることによって襲撃を誘った。作戦は成功し、見事襲撃グループを釣り出した上で撃退することに成功した。


「ところで、今彼女はどこに?」


「一つ下の階の一室に、衣夜、葉子さんと一緒にいます。衣夜がいれば、おそらくは大丈夫だと思います。」


「それはけっこう。今回の親善試合での健斗くんの活躍を見て、少しは大人しくなってくれると思うけど、まだまだ油断はできないから、健斗くんにはルーシアさんと一緒にいるように言っておいて。」


「わかりました、父さん。」


まだまだ油断はできないが、とりあえずは落ち着ける。

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 どうでもいい話

 ただの異世界帰りの元勇者

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