魔法協会編

第1話 条件とそれぞれの考え

「やぁ、健斗くん、楽しんでいるかい?」


「微妙、ですかね・・・・・・」


 国際親善試合が行われた日の夜、近くのお高いホテルにて、日本魔法協会主催でパーティーが開かれた。開催国日本はもちろんのこと、出場国各国から多くのお偉いさんが参加しており、様々な駆け引きが行われていた。中でも注目を集めたのは、メインイベントにて華々しい勝利を演出した俺や、俺の所属先である日本魔法協会のメンバーだった。

 反対に、わざわざS級魔法師を出場させた上で負けるという失態を晒したイギリス代表の一行は、まるでお通夜のような雰囲気となっていた。少し申し訳ない気もしたが、これも勝負だと割り切った。


「あの、大丈夫何ですか?あれ?」


「我が国が魔法師育成レースから一歩出遅れていることは、以前から判明していた事だ。今さら、あの者たちを庇う気は起きんよ。」


「そういうものなんですね。」


「そういうものだ。」


 肝心のクリスティアさんは、あまり気にしていない様子で答えた。

 イギリスは現在、国内における魔法師の育成に失敗し、後継者不足に悩まされている。と、いうのも、イギリスには『クリスティア=ヘリフォード』以外のS級魔法師が1人もおらず、A級魔法師の数も先進国の中で最も少ない。

 さらに、若く将来が期待される魔法師の数も少ないため、世界一の魔法師育成失敗国として揶揄されている。


「私のことよりも今は君のことだ。これから君は、どうするつもりなんだい?」


「どうとは?」


「もちろんS級に昇格するかどうかの話だ。君が望むなら、今すぐにでも推薦状を書いてやろう。」


「S級昇格って、推薦制なんですね・・・・・・」


 今回のパーティーにおける俺の唯一の目標は、俺のS級昇格を阻止することであり、そのためならどんな手段も厭わないと考えていた。

 都合の悪い話題が出たことを悟った俺は、良い感じに話題を逸らそうと試みた。すると、クリスティアは呆れたような顔をしながらS級昇格の条件を語ってくれた。


「なんだ、そんな事も知らないのか?」


「はい・・・・・・」


 正規ルートでS級魔法師に昇格する方法は、2人以上の資格保有者から推薦を受けた上で、ジルトレアによる審査を突破する方法と、5人以上の資格保有者から推薦を貰う方法の2つが存在する。資格保有者というのは、所属組織以外のS級魔法師(元も含む)と、所属国以外のジルトレア認定機関の長のことだ。

 ちなみに、正規ルート以外の方法でS級魔法師に昇格した前例は存在しないが、元S級魔法師が再びS級魔法師になるためのルートは存在している。これは、人類防衛軍を名乗っていた頃のジルトレアが残した遺産とも言えるルートで、人類に再び危機が訪れた際に発動する措置のことだ。


「つまり、私と、誰かもう1人から推薦を貰えば、ジルトレアの審査次第ではあるが君はS級魔法師に昇格できるということだ。私が推薦状を書けば、審査の方はまず問題無いだろう。問題は、誰かもう1人から推薦状を書いてもらわなければならないわけだが・・・・・・誰かあてはあるか?」


「あの、別に俺、S級になりたいわけじゃないんですよ・・・・・・」


「なんとっ!S級の称号を断るのか?!」


「今は学生ですし、勉強に専念したいというか・・・・・・」


【まともに勉強なんてしていないのに、よく言うわね。】


 ストップだ、ルキフェル。今は頼むから黙っていてくれ。


【えぇ、分かったわ。】


 余計なツッコミを入れて来たルキフェルを引っ込めつつ、俺は、何とかS級昇格を回避する手段を考えた。


「ふむ、そうか・・・・・・」


「ご厚意は嬉しいんですが・・・・・・」


 いつも以上に低い腰をしながら、俺はクリスティアさんを止めようと試みた。


「ならば仕方ない。本人にその気が無いのなら、無理強いはしない、諦めよう。」


「あ、ありがとうございます。」


 俺は、クリスティアさんに対して素直にお礼を言った。なんとなく、彼女とは今後とも仲良くしていきたいと思ったからだ。

 すると、彼女は俺に対してとある忠告をしてくれた。


「だが、我が国の上層部が同じ判断をするとは限らないぞ?」


「どういう事ですか?」


「これは私の予想だが、今後、我が国の上層部は君をS級魔法師に昇格させようと企むはずだ。理由は、言わなくてもわかるかな?」


「俺が、クリスティアさんに勝ってしまったからですか?」


「その通りだ。A級魔法師である君が、S級魔法師である私に勝ったというニュースは、君の想像以上の波紋を呼んでいる。私の評価を落としたくない我が国の上層部は、まず間違いなく、君をS級に昇格させるために手を回すだろう。もちろん、もう既に回している可能性も十分ありえる。」


「なるほど・・・・・・」


「まぁ頑張りたまえ。とりあえず私は、知り合いのS級魔法師達に、君の考えを伝えておこう。」


「ありがとうございます。」


 その後俺は、様々な罠を掻い潜りつつ、地獄のパーティーをなんとか乗り切った。


 ________________________________________

 どうでもいい話

 再びレビューを頂きました。本当にありがとうございます!

 ご期待に添えるよう、頑張ります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る