第19話 sideシーナ3

「はぁはぁはぁ・・・・・・」


「お疲れ様です、健斗、これお水です。」


「あぁ、ありがと。」


 息切れをしながら、芝生の上に寝っ転がった健斗に対して、私は水の入った瓶を手渡した。健斗がこの世界にやって来てから今日でちょうど一年が経過した。既に、この世界での生活にも慣れたようで、私たちは魔王討伐のために鍛錬する日々を送っていた。


「今日もご苦労様です、健斗。最近は特に気合いが入っているようですね、トワトリカさんが関心していましたよ?」


「やっとコツを掴んで来たところだ、まだまだだよ。少なくとも固有魔法を獲得しないと、話にならないだろうしな。」


「そうですか・・・・・・」


 トワトリカさんと言うのは、健斗に魔法を教えている凄腕の魔法使いのことであり、ここガラシオル帝国を代表するような氷魔法の使い手だ。最近は、健斗に対して付きっきりで魔法を教えており、彼女のおかげで健斗はかなり強くなった。まぁ、当の本人は、健斗が急激に成長したのは自分ではなく健斗の頑張りと主張しているが・・・・・・


「シーナ、実際のところはどう思う?」


「どう?とは?」


「あと何を学べば、魔王討伐の旅の許可が下りるのかなと思ってな・・・・・・」


「う〜ん、最低でも心意魔法の獲得は必要だと思います。魔法を極めた者の証である心意魔法が使えないと、お父様は首を縦には振らないと思いますよ。」


「やっぱりか・・・・・・」


 私が答えると、健斗は納得したように頷いた。心意魔法、健斗の世界の言葉で言うところの固有魔法の獲得には、健斗の世界同様私たちの世界でも大きな意味を持つ。心意魔法が使えるということは、単純に、強力な魔法が使えるようになるというだけでなく、一種の信頼のようなものが存在する。心意魔法が使えるとなれば、様々な機関、例えば騎士団や宮廷から勧誘を受けるのは言わずもがな、多くの国や貴族が囲い込みを行うほど、重宝されている。

 心意魔法を使えるということは、それだけ魔法を極めたという証にもなり、一目置かれる存在になれる。

 国王である父親から直接そう言われたわけではないが、最低でも心意魔法が使えるようにならなければ、首を縦に振ることは無いだろうと判断した。


「ちなみに、固有魔法、じゃなかった心意魔法を効率的に獲得できる方法を知っていたりするか?」


「近道はありません。」


「そうか・・・・・・じゃあやっぱ、頑張るしかないということだな。」


「はい・・・・・・」


 心意魔法の獲得に、近道なんてものはない。心意魔法についての古い文献はいくつか残っているが、その全てが不規則と結論付けていた。つまり、様々な研究機関が、数十年、下手をすれば数百年と時間をかけて研究しても、発動条件は分かっていないほど、謎に包まれている。そして、心意魔法の使い手である私自身も、どうして自分が心意魔法を獲得できたのか、全くと言っていいほど分かっていなかった。


「あ、でも、心意魔法に纏わる古い言い伝えならあります。」


「言い伝え?」


「はい。残念ながら信憑性はありませんが、心意魔法の起源は、数百年前の私たちの先祖が天からのお告げを受けたのが始まりと言われております。」


「天からのお告げ?」


「はい。内容は、『心意魔法とは、心の形そのものを具現化したものである。心意魔法は、人々の強い思いに応えるだろう。』」


 私は、記憶を頼りにお告げの全文を健斗に伝えた。この言葉は、帝国の書庫に保管されていた古い文献に書かれていた言葉であり、私はその文章をしっかりと暗記していた。


「なんというか、これはお告げというよりは、教えだな。」


「はい。それと、この『心意魔法が心の形を具現化したものである』というのは、現在の我が国の心意魔法に関する考え方とほぼ同じとされております。」


「なるほど、確かに興味深いな・・・・・・」


 そう言いながら、彼は何かを考え込むような態度をとった。そしてその日から、健斗はこの言い伝えを頼りに心意魔法の獲得を目指した。

 もちろん獲得には難航したが、それからしばらくしてとある事件をきっかけに、彼はとてつもないほど強力な心意魔法を獲得した。

 思わずため息が出てしまうほど強力かつ理不尽な魔法な魔法であり、彼は一瞬にして強者へと至った。


 ________________________________

 どうでもいい話

 次話から、新章に入ります。

 頑張ります。

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