第18話 思わぬ横槍

「やっぱり素晴らしいね〜彼は。」


「っ!貴方様はっ!」


 国立魔法競技場の第一特別観戦室にて、部下の男と健斗の戦いぶりを観戦していた有栖川は、不意に聞こえたこの場にいないはずの男の声に驚きつつ、声が聞こえた方を向いた。先ほどまで、男の部下が座っていたはずの席には、先ほどの声の主が座っていた。いったいいつ入れ替わったのか、現役を退いたとはいえ日本を代表する魔法師である有栖川は、声をかけられるまで入れ替わった事に気が付かなかった。

 何故気付かなかったのか聞かれれば、相手が悪かったとしか答えようが無かった。


「久しいね、有栖川さん。10年ぶりぐらいかな?」


「最後にお会いしたのは私が日本魔法協会会長に就任した時のパーティーなので、ざっと11年前ですね。」


「そんなに前なのか、時が経つのは早いものだね。」


 狐の面を被ったこの男は、11年間、全くと言っていいほど連絡をとれていなかった相手であったが、有栖川はこの男の声を忘れた事は一度も無かった。


「健斗くんはやっぱり凄いね〜君の目は間違っていなかったよ。序列制度がまだ残っていたら、序列1位の座を取れたんじゃない?」


「貴方様から太鼓判を押されたとなれば、彼も喜ぶと思います。」


 序列制度というのは、星間戦争時代、純粋な強さに応じて全ての魔法師をランク付けしていた制度で、今とは違い強さの指標と言えば級位ではなく序列であった。

 級位と序列の違いを簡単に説明すると、級位は星間戦争における活躍の度合いを示した指標であり、序列は純粋な強さだけを考慮して付けられたランキングの事を言う。

 ちなみに、序列制度が無くなったのは、序列を巡る国家間の争いを無くすためだ。戦時中は戦力を把握するために必要であったが、終戦後は争いの火種にしかならないと判断したジルトレアは、終戦直後にこれを廃止した。

 まぁ、各国の様々なメディアがたまに魔法師の強さランキングを発表して、色々と問題にはなっているが・・・・・・


「やはり彼は、貴方様が一枚噛んでおられるのですか?」


「まぁね〜ただ、器を持っている事には僕も気付いたけど、ここまで急激に成長するとは思わなかったよ。覚醒に至ったのは思わぬ横槍が入ったからかな。」


「思わぬ横槍?」


「これに関しては僕から詳しいことは言えないかな。何故彼がこんなに急に強くなったか、予想はできたけど僕も確信は持っていないし。」


「なるほど・・・・・・」


 有栖川は、目の前の男から得た情報を頭の中で整理しつつ、今後の本条健斗の扱いを考えた。理想的な未来と現実的な予想を考えながら、頭の中であらゆる選択肢をふるいにかける。全て実行するというのは無理だが、実行できそうな事に優先順位をつけて、取捨選択をする。


「あ、そうそう忘れてた。そう言えば僕から、健斗くんにプレゼントがあってね。是非有栖川さんには、仲介をお願いしたいと思うんだけど・・・・・・」


「プレゼント、ですか?」


「うん、きっと君も彼も喜ぶと思うよ。」


 そう言って、目の前の男は亜空間から一通の封筒を取り出した。見た感じ表紙には何も書いておらず、認識阻害魔法がかけられているので中身は覗けそうになかった。有栖川は、諦めて尋ねる事にした。


「これは?」


「ここで君に何か伝えたらつまらないでしょ?健斗くんの魔力に反応して開くように魔法をかけておいたから、2人で楽しんで開けてね。」


「は、はぁ・・・・・・」


 まぁ、他人宛の封筒を勝手に開けるような事はしないが、少し気になった。

 有栖川が封筒を受け取ると、男は席を立った。


「見送りは必要ですか?」


「いや、けっこうだよ。じゃあまたね。」


 それだけ言い残して、男はその場から文字通り姿を消した。

 おそらくは空間魔法、いつ魔法を使ったのか残念ながら有栖川は分からなかったが、これが彼の得意魔法である、空間魔法である事には確信があった。

 男が消えた直後、部屋の扉が開き先ほどまで隣に座っていたはずの部下が中に入って来た。


「いったい何処にいたんですか、有栖川さん。探しましたよ。」


「?私なら、ずっとこの部屋にいたが?」


「そんなはずはありません。私を含め、大勢で何度も探したんですよ?!」


 部下の証言を聞いて、有栖川はそれが単純なトリックである事に気が付いた。まぁ、部下を何処かに飛ばされたのではなく、自分が何処かに飛ばされていたという話であるが・・・・・・


「・・・・・・どうやら我々は、知らぬ間に空間魔法を受けていたようだ。」


「空間魔法?敵襲ですか?」


「いいや、私の古い友人だ。だが一応、MSSで周囲の魔力を調べておいてくれ。」


「空間魔法を、ですか?」


 有栖川は、自分が転移していた事に全くと言っていいほど気が付かなかった。もちろん常人には、そんな魔法を使うことなど不可能だ。

 こんな化け物じみた芸当、残念ながら心当たりがあるのは一人しかいない。というより、この男以外にいない。


「いいや、君も良く知る人類の英雄、『黒白』のだ。」


「っ!了解っ!」


 有栖川の意図を汲み取った男は、すぐさま部屋を出ていった。

 その様子を見ながら、有栖川は独り言を呟いた。


「まぁ、見つかるはずがないだろうがな・・・・・・」


 ___________________________________

 どうでもいい話

レビューいただきました、ありがとうございます!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る