第17話 決着

「いいだろう。」


 俺は、クリスティアの挑発に乗る事にした。

 現状、残存魔力量はおそらく俺の方が上であり、先に魔力切れになるのはおそらく向こう側だ。つまり、戦況は俺の方が優勢であり、主導権を握ることに成功したということだ。

 そんな状況での向こう側からの挑発、これが本気の殺し合いなら間違いなく無視したが、今回は一応親善試合なので受ける事にした。


「では、行かせてもらう。」


 聖剣を正面に構えたクリスティアは、残りの体内魔力のほぼ全てと自身の周囲の魔力に干渉を始めた。どうやら、それなりの溜めが必要なタイプらしく、その場に留まった彼女は力を蓄えた。もちろん、魔力充填中に攻撃するような真似はしない。


第二段階セカンドステージっ!」


 お決まりのセリフと共に、凄まじい量の魔力が塊となって彼女の元へと集まった。俺が今までに見た中で、間違いなく最高の魔力量であり、空気を震えさせた。

 あと少しで彼女の魔法が飛んで来る事を悟った俺は、事前に組んでいた対抗魔法を自身の魔剣へと組み込んだ。世界最強の一角であるS級魔法師の固有魔法を防ぐなら、もう残された道はこれしか無い。


「さぁ、踊ってやるよ。」


 固有魔法に対抗するなら、同じ固有魔法を使うしかない。

 先ほどまでは、正面からの撃ち合いを避けて、少しトリッキーな技を連発していたが、この固有魔法は一味違う。

 先に準備が完了したのは、クリスティアさんの方であった。凄まじい量の魔力が彼女の聖剣を中心に一点に収縮させると、一気にその魔力の塊を放出させた。


「<ハウリングブラスト>っ!」


 白く輝く聖なる聖剣は真の力を覚醒させると、一気にエネルギー波を放った。今までに見た様々な魔法の中で間違いなく最高火力の一撃が、俺の方へと飛んで来た。

 イギリスの英雄、クリスティア=ヘリフォードの代名詞とも言われている固有魔法<ハウリングブラスト>、かつて人類が宇宙からの侵略者『UC』からの攻撃を受けていた頃、この固有魔法は人々に希望を与えた。

 実は、俺が今回の挑発を受けたのには、もう一つ理由があった。それは、この固有魔法を正面から受けてみたいと思ったからだ。純粋な威力であれば人類最強とも言われているこの一撃を、体験してみたいと思ったからだ。さらに言うならば、人類最高火力と謳われるこの魔法に、俺の魔法が通じるか知りたかった。


「準備はいいか?」


【いつでも行けるわ。というか、これはそんなに準備が要らないのは知っているでしょ?】


「そうだったな。じゃあ行くぞ。」


【えぇ。】


 攻撃が俺に直撃する直前、俺は2つ目の固有魔法を発動した。


第二段階セカンドステージ <魔法破壊マジックキャンセリング>っ!」


 クリスティアの放ったエネルギー波に対して、俺は対抗魔法とも言える俺のとっておきを放った。魔法戦闘を根幹とする魔法師にとっては天敵とも言える魔法、彼女の最強の一撃を文字通り破壊した。

 その効果は至って単純、周囲の魔力に干渉して魔力の動きを阻害する魔法、大規模な魔法であればあるほど不自由さが増し、一定以上の規模の魔法を消し飛ばす事ができる。そして、クリスティアさんの固有魔法の規模は、完全に対象内であった。

 俺を中心に広がった、半径5mほどの球体の内側に入ったあらゆる魔法を弱体化もしくは無効化するこの魔法は、彼女のエネルギー波を根底から消し飛ばした。


「なっ!」


 クリスティアの放った驚きの声を聞きながら、俺は彼女との一気に距離を詰めた。そして、利き手に持った魔剣を彼女の喉元に突きつけた。

 彼女の固有魔法はその性質上、使用中は無防備になってしまう。俺はその隙をついた。


「・・・・・・なるほど、どうやら私の完敗のようだな。」


「そのようですね。」


 彼女が固有魔法を解除すると、先ほどの宣言通りに白旗をあげた。



 *



「今、何が起こった・・・・・・」


「わかりません。『イギリスの英雄』の奥義<ハウリングブラスト>が決まったと思ったら、本条健斗の固有魔法によってかき消されました・・・・・・」


「私の目にも同じように見えた。いったい何が起こったのだろうか・・・・・・」


「おそらくですが、全く新しい系統の固有魔法のようです。どのようなものかはわかりませんが・・・・・・」


「やはり、私の期待通りであったな。」

 ______________________________

 どうでもいい話

 健斗の固有魔法については、また次回

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