第16話 シンプル故の強さ

「さて、反撃といこうか。」


 少年漫画の主人公のようなセリフと共に、クリスティアは聖剣を構えた。溢れんばかりの魔力を纏った輝く聖剣は、先ほどの<聖なる反射>の影響でさらに輝きを増していた。

 彼女が俺の<満月・改>を受けきった事がわかると、観客席から俺たちを讃える凄まじい歓声が上がった。

 俺は、落ち着いて<聖なる反射>の分析を始める。魔法師には、頭をしっかり使って頭脳戦を仕掛けるタイプとただ魔法を重ね掛けして攻撃してくる脳筋タイプがいるが、俺は後者だ。

 一度距離を取り、<聖なる反射>の分析を行っていると、突然彼女が動いた。


「<一刀両断>っ!」


 聖剣を頭の上まで振り上げたクリスティアは、そこから一歩も動かずに聖剣を縦方向に振り下ろした。一度距離を取っていたため、俺は完全に間合いの外側にいた。当たるはずが無いと思った直後、彼女の聖剣が急に伸びた。ざっと、元々の大きさの3倍ほどとなった聖剣は、完璧に俺を捉えた。


「やばっ!」


「ふんっ!」


 直前で上手く反応することに成功した俺は、魔剣ルキフェルで攻撃を受け止めた。あまりの重さに、体勢を崩される。このまま鍔迫つばぜり合いを続ければ、先に膝を付くのはこちらだと判断した俺は、すぐさま剣を滑らかにする魔法をかけた上で、横に飛んだ。

 支えを失った聖剣は、そのまま地面を切り裂いた。まるで地震のような凄まじい振動がフィールド全体を襲い、体勢を崩される。どうやら、派手なのは見た目だけじゃないようだ。


【今のをまともに食らっていたら、今頃お陀仏だったかもしれないわね。】


 本当にやばいと思ったら、助けてくれていただろ?


【愚問ね、もちろん見捨てていたわ。】


 おいおい。


 <一刀両断>、おそらくこれは通常の魔法ではなく、聖なる剣ファティナの能力によるものだ。単純に剣が伸びてリーチが長くなっただけでなく、威力も倍増されている。

 そして、さらに厄介なのが<聖なる反射>、効果はおそらく物理的な攻撃の反射、彼女の反応の範囲内であれば、あらゆる物理攻撃が無効化される。迂闊に手を出せば、それが俺自身に致命傷を与える、シンプル故に強い。


「凄まじい威力だな。フィールドが壊れてしまうかもとは考えなかったのか?」


「今日の防御障壁担当は信頼できる人なんでね。君も、観客席への被害なんか気にせず、全力で大技を使うといい。」


「そうか・・・・・・」


 言われてみれば、フィールド内は所々デコボコになっているものの、フィールドの外側は全くと言っていいほど傷がついていない。改めて、魔力障壁を見てみる、何処となく明日人の魔力障壁と似ている気がするが、少し違う。

 ただ、魔力障壁の硬さの方はどうやら信頼できるようだ。


「さて、続きといこうか。」


「えぇ。」


 距離を取ったらまた先ほどの<一刀両断>が飛んでくるし、間合いの内側に踏み込んで斬り合いになれば今度は<聖なる反射>が飛んでくると判断した俺は、彼女の間合いの少しだけ外側で彼女と戦うことにした。


「なるほど、先ほどの2つの対策というわけか。」


「こちとら、ゲームオーバーにはなりたくないんでね。」


「ふっ、ならば教えてやろう、本物の魔法というものを。」


「是非ともご教授頂きたいものだな。」


 先ほどまでの最低限の動きから一転、クリスティアはシンプルなステップを踏みながら、攻撃を繰り出した。間合いをずらして先ほどの<一刀両断>を連発して来る彼女に対して、俺は上下に攻撃をかわした。

 昔の魔法師らしいシンプルかつ無駄の無い攻撃の組み合わせ、俺は、たった2つの魔法によって苦しめられていた。

 以前戦ったルーシアの父親も同じS級魔法師であったが、クリスティアさんはあの男よりもずっと強い。


「身体が軽いのが羨ましいなっ!」


「スピードが取り柄なんでね。」


 聖剣による重い一撃を回避しつつ、フィールド全体を縦横無尽に駆け回る。剣と魔法を組み合わせて、相手の手札を枯渇させる事を狙う俺と、並外れた防御力で自身を守り、かつ世界トップクラスの攻撃力で一撃ノックアウトを狙うクリスティアの戦いは、観る人を魅了した。お互いに、攻撃毎に微妙な変化をつけて敵を揺さぶり、攻略の糸口を探す。久しぶりのまともな戦闘による気持ちの昂りを抑えながら、俺は思考を巡らした。

 戦ってみて気付いた、彼女は凄まじい反応速度の持ち主であるが、重い大剣を振り回しているからか、動きはそれほど速くない。

 一歩間違えば致命傷になる<一刀両断>と<聖なる反射>を警戒していれば、残りはそれほど怖くない。

 そしてそれは、こちらも同じであった。帝国流剣術と得意の氷魔法を組み合わせて攻撃を行っているが、彼女の防御を突破できない。


「ふむ、埒が開かないか。」


「さっさと降参してくれるとありがたいんだかな。」


「降参するのは君の方なんじゃないのかな?健斗くん。」


「<一刀両断>だったか?確かに強力だが、どうやらその分消費魔力量も多いようだな。少しずつ威力が落ちてるぞ。」


 クリスティアの体内魔力量の方も、結構減っているのがわかった。このままのペースで戦えば、おそらくだがあと十数分で彼女は魔力切れになる。俺の方は、まだそれなりに余裕があるので、形勢は逆転したと言っていい。

 一度、距離を取って手を止めた俺たちは、それぞれ向かい合った。


「やはり気が付いていたか。元々は、地球に侵略しに来た化け物共を相手にするために開発した魔法だからな。まぁ、どうやら今も、相手にしているのは同じ化け物のようだがな。」


「化け物扱いかよ・・・・・・」


「これを化け物と言わずして何とする。おめでとう、とりあえずこれだけ戦えるならS級は確定だな。」


「嬉しくね〜」


 これは本音だ。S級魔法師なんて、絶対になるもんじゃない。

 まぁ、余程のことが無い限り、逃れると思いたいが・・・・・・


「ところで健斗くん、君は、人類は最大でいくつまで固有魔法を獲得できるか知っているかな?」


「4つじゃないのか?」


「そう、4つだ。ちなみに、これに例外は無い。史上最強と謳われた黒白も、星間戦争の英雄であるゼラスト=メネルトーレも4つだ。まぁ、4つ全て発現させた人物は歴代でも片手で数えられるくらいしかいないがな。」


「もちろん知っている。」


 これも有名な話だ。そもそも、1つでも固有魔法を発現できる者は全魔法師のうちのほんの一握りであり、2つ目を獲得できれば大抵の場合は国家の戦力として数えられるA級魔法師相当の実力を持つという事になる。


「実は私は、歴代のS級魔法師の中で唯一、固有魔法を2つしか持っていなくてな。」


「なっ!」


 俺は素直に驚いた。この話が事実なら、彼女は固有魔法が絶対視されるこの魔法業界で、固有魔法を2つしか持っていないという明確なハンデがあるにも関わらずS級へと到ったということになる。


「だから勝負といこう。」


「勝負?」


「今から私は、2つ目の固有魔法を使う。受け切れば、文句なしで君の勝ちだ。無論、その前に私を戦闘不能に追い込んでくれても構わないがな。」


 明らかな挑発、手番を握っている俺が、この挑発に乗る理由は何処にも無い。だけど、俺はここで逃げるわけにはいかない。


「いいだろう。」


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 どうでも良い話

 長かった戦いにも、ようやく終わりが見えた。

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