第14話 sideルーシア4
その日は朝から機嫌が良かった。
人は、何か楽しみな事があると気分が良くなり、生きる気力が湧くというが、その通りだと思う。なんせ、彼の活躍を見るのが楽しみで仕方がない今の私は、ワクワクが止まらないからだ。
「お待たせ、ルーシア」
「ごめ〜ん、お兄ちゃんの準備が遅くて〜」
「けっこう時間に余裕があるし、大丈夫よ。」
集合時間よりも5分ほど遅れてやって来た双子に対して、私はそう答えた。息切れなどはしていないようであったが、僅かに服に汚れがついていた事が気になったが、詮索はしなかった。
私も彼らも今日は制服ではなく私服、2人は私がファッションモデルをした時の服を着ており、とても似合っていた。というか、こんなに似合うなら2人がモデルをやればよかったのにと、今さらながら思う。
ちなみに、今日の集合場所は育成学校ではなく最寄りの駅だった。昨日は2人とも実家に帰っていたため、現地集合となった感じだ。
「開始1時間前だというのに、凄い人ね。」
「こんなにたくさんの観客に囲まれながら戦うなんて、健斗も可哀想だな〜」
「健斗、人混み嫌いだもんね〜」
東京の人の多さに驚いている私に対して、2人は健斗がこの人混みを嫌うであろう事を笑った。そう言えば、私は去年東京に引っ越して来たものの、散策などはした事がない。もちろん鉄道や地下鉄なんかの乗り方はわかるが、散策する理由が無かったためほとんど学校の中で生活していた。外に出た記憶といえば、何度か呼び出されてドイツ大使館事に行ったことと、お父さんに連れられて銀座に寿司を食べに行ったことぐらいだろうか。
欲しいものは宅配して貰えば良かったので何の問題もなかったし、食事も自炊と学食て事足りた。だから、こんな感じに友達と出かける経験はあまりない。
まぁ、最近は健斗に色々と連れ回されていたため、時間が無かったとも言えるが・・・・・・
「はいこれ、ルーシアの分のチケット。無くしても何とかなるけど、できるだけ無くさないでね。」
「え?紙なの?」
「今日は一般席じゃなくて関係者じゃないと取れない席だからね。電子じゃなくて魔法が刻印された紙なんだ。」
「そう言うものなのね、初めて知ったわ。」
私は驚きながら、彼からチケットを受け取った。高級感溢れるそのチケットには、『スペシャルスポンサー用VIPプレミアムBOXシート』と書かれていた。スペシャルなのか、VIPなのか、プレミアムなのか、どれか一つにして欲しいところではあるが、とにかく凄い席であるということはわかった。
明日人の案内に従って、私と衣夜は国立魔法競技場へと入った。一般の入場口とは明らかに違うところから中へと入った私たちは、サービスのドリンクをそれぞれ受け取りつつ席へと向かう。
「そう言えば、BOXシートって言っていたわよね。」
「そうだよ。元々は、家族4人で観に行く用だったからね。4人分の席を予約していた感じなんだ。」
「でも、私たちは今3人よね、あともう一つはどうするの?」
藁科家が4人家族なのは記憶に新しい。2人の父親である結人さんと、母親である咲夜さんとは、以前話したばかりだ。
お二人とも凄く優しそうな方で、実年齢は聞いた事がないが、正直同級生と言われても納得できるぐらい若々しい。
4人家族だとしたら、残りの一席には一体誰が座るのだろうか。誰なのかと考えていると、いたずらっ子のような顔をした衣夜は答えた。
「実は、凄い人を誘っちゃったんだ。」
「凄い人?」
「きっと驚くと思うよ。誰なのかは、着いてからのお楽しみだけど。」
「ふ〜ん、そう。」
この時の私は、はっきり言って油断していた。まさかこの後、私がこんなにも動揺するはめになるとは、この時の私は微塵も思っていなかった。
*
案内されたのは、個室だった。てっきり4人がけの豪華な椅子に案内されると思っていたら、フィールド側がガラス張りの個室に案内された。そこには、豪華なソファーが2人掛けのソファーが2つ用意されており、私たちはそれぞれ別れて座った。てっきり、私と衣夜が隣同士で座りるのかと思ったら、双子はそれぞれ座り、私の隣は空席となった。
「貴女、そっち座るの?」
「うん、今日誘った人は、ルーシアと会う事を楽しみにしているからね。」
「そう・・・・・・」
一体誰が来るのか気になっていると、突然個室のドアがノックされた。それに対して、明日人がどうぞと返事を返すと、扉が開かれた。
そして、1人の私服の女性がゆっくりと中に入って来た。
「こんにちは、明日人さん、衣夜さん。」
「こんにちは、葉子さん」
「こんにちは〜」
どうやら顔見知りのようで、双子は女性と軽く挨拶をした。その時点で、私はこの女性が誰なのか、察しがついてしまった。そして、双子がどうして私を彼女の隣に座らせたかも・・・・・・
「そして・・・・・・ルーシアさん、であっているのよね。」
「は、はい、ルーシア=ハーンブルクです。」
「こんにちは、健斗の母の本条葉子です。貴女のお話は、息子からよく聞いてます。ずいぶんと、お世話になっているようですね。」
「こちらこそ、お世話になっております。」
彼女は、私の予想通りの人物であった。本条葉子、健斗から何度か聞いた事がある。
それから、私は健斗のお母さんと、試合が始まるまでの30分間ほど、情報交換を行った。
ちなみに、私は自分の事を、健斗の彼女だと説明した。
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どうでもいい話
長くなり過ぎた
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