第13話 ネクストステージ

「<氷結>っ!」


 作り出すのは氷の氷柱、クリスティアさんの頭の上に巨大な氷の塊を作り出した俺は、それをそのまま落下させた。もちろん、ただの氷ではない。魔力を使って強度を上げてある。


「少し冷たいだけだな。」


 対するクリスティアは、上空から落下してくる氷の塊に対して予備動作無しで魔力障壁を張った。ただでかいだけの氷など、彼女からすれば何の脅威にもならない。


「でも、目眩しにはなるだろ?」


「なるほど。」


 視線を上へと誘導した直後、再び彼女の間合の内側へと入り込んだ俺は、下から上へと掬い上げるような一撃を放った。

 だが、直前で俺の動きに反応した彼女は、手に持った両手剣で俺の攻撃を正面から受け止めた。予測というよりは反射、どのようなトリックなのかはわからないが、正確かつ最小限の防御行動で俺の攻撃は明後日の方向へと飛ばされた。

 ならばという事で、俺は様々な方向から全く別の攻撃を行い、彼女の脳にダメージを与える方向へと切り替えた。剣と魔法をさらに細かく織り交ぜて彼女の対応が間に合わなくなる事を期待する。


「全く新しい戦闘スタイルだな。」


「正面からその防御を破るのは骨が折れそうなんでね。搦め手でいかせてもらおう。」


「ふっ悪くない。ただ単に視界の外側を狙っているのではなく、私の脳にダメージを与える事が狙いというわけか。」


「っ!・・・・・・」


 流石は歴戦の猛者といったところか、こちらの狙いはすぐにバレてしまったようだ。だが、ここまでは想定内、いくらS級魔法師と言えど彼女は人間だ。ならば、脳もしくは魔力回路には限界があるはず、視覚、聴覚、触覚を刺激してオーバーヒートを狙う。

 得意な氷魔法だけでなく、光系統の魔法や振動系統の魔法を組み合わせる。光は目眩し、振動系統は音による攻撃として利用する。俺の持ち味は手数の多さ、色々な攻撃を複雑に絡めて敵リソースの枯渇を狙う。


「素晴らしい魔法だな。」


「っ!・・・・・・どうも。」


 突然の彼女の呟きに、俺は驚きながら答えた。声をかけられたと言うことは、彼女にはそれだけの余裕があるということだ。俺の動きに対して付いていくいだけでなく、俺の動きを分析した上で評価するだけの余裕があるという事でもある。


「魔法の組み立て方は私よりも上かもしれないな。流石は、あの人が認めただけはある。」


「あの人?誰のことだ?」


「私の尊敬する人だ。師事する人でもある。」


「そうか・・・・・・」


 S級魔法師である彼女が師事する人物、いったい誰なのか興味があったが、今はそれどころじゃ無い。

 やってみてわかったが、どうやら俺の攻撃はダメらしい。全く効果が無いというわけではないが、彼女をダウンさせるだけの効果はない。単位量あたりの消費魔力量はこちらの方がずっと多いので、おそらく先に魔力切れになるのはこちら側だ。魔力が切れた魔法師は、言うなればただの人、先に魔力が切れれば敗北は避けられないだろう。


「どうする?このままだとジリ貧になるのはそちら側だと思うが?」


「どうやらそのようだな・・・・・・」


 先に手詰まりとなったのはどうやらこちら側のようだ。通常魔法と剣術だけなら、どうやら俺の方が分が悪いらしい。

 この状況を打開できる手段は、残念ながら俺には一つしか持ち得ていない。

 少し距離を取った俺は、周囲の魔力への干渉を始めた。思えば、誰かと戦う時にこちら側からこれを使うのはこれが初めてだ。

 まぁ、使うのならば勝つのが俺のスタイルだ。


「全てを無に帰せ第一段階ファースト・ステージ魔天召喚リリース・ルキフェル>」


 自身の魔力回路に魔力を流し、俺の切り札を顕現させる。空気が震え、よく知る圧倒的なプレッシャーが全体を襲った。

 俺が描いた魔法陣は紫色に輝き、周囲の魔力を吸収し始めた。同時に、手に持った魔法具を亜空間へと戻す。


「召喚系統か。映像で見た時は精霊系統かと思ったが、どうやら別違ったようだな。呼び出すのは・・・・・・天使系統か?」


「半分ハズレだ。」


「半分?」


「俺のこれは、天使ではなく堕天使、堕ちた英雄の力だ。」


「ほう・・・・・・」


 魔法陣が完成すると、中から最強の堕天使を宿した魔剣を顕現させた。俺は利き腕である右手で、それを取る。細くて長い漆黒の魔剣で、とてつもないほどの魔力を纏った俺の切り札だ。


「さぁ、踊ってやるよ。」


「ならば私も、いかせてもらう。」


 俺の魔剣を見た彼女は、何かを決意した。そして、周囲の魔力を集め始めた。

 来る・・・・・・

 彼女が次にどんな行動を起こすかは、容易に想像ができた。


第一段階ファースト・ステージ〈聖なるつるぎファティナ〉」


 先ほどまで使っていた両手剣をしまい、右手を空高く上げた彼女は、頭上に魔法陣を描いた。間違いなく固有魔法、これが本気の殺し合いならば敵が固有魔法を展開する前に押し切るのが定石だが、これは親善試合なので待つ。


 凄まじい魔力が彼女の下へと集まる。周辺の魔力が白く光、その全てが彼女を祝福するかのように包み込んだ。

 そしてその光が頂点へと達すると、光は彼女の武器を形作った。先ほどまで使っていた武器とよく似ているが、同じなのは大きさだけ、何よりその聖剣に込められた魔力は凄まじいものであった。


「ふぅ・・・・・・では第二ラウンドといこうか。」


「あぁ。」


 この世界に帰って来て2人目の強敵。

 だけど何故か、俺には恐怖など一切なく、むしろワクワクが止まらなかった。


 ______________________________

 どうでもいい話

 古今東西問わず、魔法師のほとんどは自身の固有魔法を軸とした魔法を組み立てます。もちろん健斗も。

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