第12話 剣と剣の高み
国際親善試合の始まりは何だったかと聞かれれば、星間戦争終結後に当時の日本政府が魔法の軍事利用を食い止めるために魔法を使ったスポーツが考案したことが始まりだ。
宇宙人という共通の敵を無くなった戦後、国家間の緊張が高まったのは言わずもがなであり、中には最悪の一歩手前まで行ってしまった国もあった。各国は、旧来の通常兵器やABC兵器と比べて遥かに運用コストが安く秘匿が容易な魔法師の軍事利用を検討し、その有用性を改めて認識した。特に、戦闘継続目安時間が1時間程度であるとはいえ、その1時間で国を一つ更地にできるだけの戦力を持つS級魔法師や、それに準ずる戦闘力を持つA級魔法師の存在は注目を集め、文字通り国家のパワーバランスや国家安全保障戦略に大幅な変更を求められた。
そんな国際情勢下、当時13人いたS級魔法師の内の6人を自国所属の魔法師としていたほどの魔法先進国であった日本を先頭に、魔法先進国各国は魔法の軍事利用を非難した。しかし核兵器同様、非難声明程度で各国の魔法の研究が止まるはずも無く、魔法の軍事利用はどんどんエスカレートしていった。
結果として、このまま自分たちも魔法の研究をせずにいたら、いつか後進国に魔法技術で追い抜かれてしまうと考えた魔法先進国各国は、魔法師の抑止力として軍事利用を決定した。同時に、日本政府は魔法を使ったいくつかのスポーツを発表した。世間の目を魔法師の軍事利用以外にも向けるために、あるいは魔法師の軍事利用廃止の最後の希望とするために・・・・・・
*
予定されていた競技のほとんどが終わり、残すはメインイベントである『決闘』だけとなった今、ここ国立魔法競技場の盛り上がりは最高峰となっていた。しかも、これから行われるのは、S級魔法師と期待のルーキーの一騎打ち、勝負の行方を見守るのは、観客席に座る抽選を勝ち抜いた幸運な者達だけでなく、インターネットを通して世界中から覗かれていた。
「こんにちは、本条健斗くん。」
「日本語?!」
「ふふふ、驚いた?昔はS級魔法師の数の関係から、日本語で会話する事があったのよ。だからその過程で覚えたわ。苦労したけどね。」
「そうですか・・・・・・」
欧米人が日本語を覚えるのは難しいと聞いたことがある。文法が180度違うらしく、覚えるのに苦労するらしい。たいていの人は、意思疎通魔法に逃げるが、どうやら彼女は真面目に日本語を学んだようだ。
「初めまして、でいいのよね。」
「間違いなく初めましてですね。自己紹介は必要ですか?」
「いいえ、けっこうよ。それと、その取ってつけたような敬語も要らないわ。」
「そうで、そうか。」
少し噛みながらも、俺は敬語を辞めた。敬語を使うと文がおかしくなるとよく言われる俺としては、敬語はできるだけ使いたくなかった。もちろん、目の前の女性を尊敬する気持ちはある。対戦の英雄に感謝を示すことは当然だ。だが、俺は敬語を使うことが、相手に敬っていることを伝える手段として適切じゃないと考えている人間なので、遠慮なくタメ口でいかせてもらうことにした。
では、どのようにして敬意を伝えるか、魔法師ならば一つしかない。
「じゃあ、こちらから行かせてもらうっ!」
「えぇ、来なさい。」
先手を譲って貰った俺は、いつものように亜空間から魔法具を取り出した。だが、取り出したのは以前とは違う。
「ちゃんとツクヨミの剣を使うのね。」
「魔力伝導性、機能性、汎用性、どこをとってもここに並ぶメーカーは存在しないからな。」
「同感ね。」
今日の獲物は、ツクヨミ社から俺専用の武器として提供されたものだ。また、武器だけでなく戦闘服やズボン、靴なども全てツクヨミ社から提供された物を使っていた。ちなみに、いつ背丈の計測をしたのかというと、例のファッショモデルをやらされた時だ。俺は後から気付いたのだが、新しいファッションブランドというのは俺をからかうための囮で、本命は身体測定だったらしい。ツクヨミ社は、俺の背格好と魔力回路にあった戦闘服を用意してくれたというわけだ。
俺が魔力を解き放つと、ツクヨミ社製の黒い戦闘服と片手持ちの黒い剣に、魔力が通っている事を示す紫色のラインが入った。魔力を込めれば込めるほど、紫色の光は強くなった。この戦闘服には俺の魔力回路を助ける働きがあり、少ない魔力で身体強化の魔法を自分に使う。
「じゃあ私も。」
対するクリスティアの方も、亜空間から武器を取り出した。古い魔法師らしく、魔力に一切の無駄がない。
同じくツクヨミ社製の白を基調とした戦闘服に身を包んだ彼女も、自身の武器を取り出した。彼女の獲物は両手持ちの白い大剣、彼女の背丈と同じぐらいの大きさで、中々にイカつい。
すると彼女は、俺と同じように自身の武器と戦闘服に魔力を込め始めた。おそらく、効果は俺と同じ身体強化だろう。
「まずは。」
向こう側の準備が完了した事がわかった俺は、まずは小手調べという事で剣術勝負を挑んでみる事にした。もちろん使うのは、異世界でシーナから習ったガラシオル帝国の伝統的剣術、帝国流剣術、これは文字通り人を殺すために考えられた剣だ。
「よく鍛錬しているわね。」
「どうも。」
大胆に動き回り、連撃を繰り出す俺の剣技に対して、彼女は最低限の動きでそれに応じた。
重いはずの大剣を上手く使って攻撃を弾いた。このままでは拉致が開かないと判断した俺は、帝国流の剣技に魔法を混ぜる。使うのは俺の得意、すなわち氷魔法だ。
「本当に強いわ。これだけ動けるなら、A級魔法師に飛び級で昇格したのも頷けるわ。」
「光栄ですね。」
「剣術だけなら、世界トップクラスかもしれません。」
「素の剣術だけで防いでいるあんたも中々だな。」
魔法師の中で、剣術というのを鍛える者は少ない。理由は単純で、剣術よりも魔法の方が重要だからだ。
そんな中、俺と彼女には共に剣術を重要視しているという共通点があった。
「剣術の方は満足しました。では、次は魔法を見せていただきましょうか。」
「望むところだ。」
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どうでも良い話
クリスティア=ヘリフォード、薄々気付いている方もいるかも知れませんが、魔法師になって30年ほど活躍しているベテランの方です。
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