第11話 スペシャルの意味

S級魔法師、それは魔法を極めた者に与えられる最も名誉ある称号だ。単独で、国家を相手にできるだけの戦闘力を持ち、国家のパワーバランスを文字通りひっくり返せるだけの影響力を持つ。

魔法の存在が世界に認知されジルトレアが発足してから62年、これまでにS級魔法師となった魔法師は20名、うち4名が戦死、6名が引退、そして残った10名が現在でも活躍中のS級魔法師だ。ちなみに、10人中6人は戦後、引退した6人を埋めるようにしてS級魔法師になった存在であり、実際にS級魔法師として人類の先頭に立って戦ったのは残りの4人のみだ。

そして、俺がこれから戦う事になるイギリスの英雄『クリスティア=ヘリフォード』は、実際にS級魔法師として宇宙人と戦った人物の1人であった。


「・・・・・・いるな。」


【えぇ、私も感じたわ。中々やるみたいね。】


「これが、本物の英雄、か・・・・・・」


俺の本能と魔力感知が、強者のオーラを感じ取っていた。おそらく、既に向こう側も俺の魔力を感じ取っているだろう。今までに対峙したどの魔法師よりも強い。

今から30分に始まるメインイベントに備えて、俺は選手控え室にて呼吸を整えていた。開始5分前に入場するとして、あと20分ほど余裕があった。

すると、突然控え室の扉が開き、俺のよく知る1人の男が部屋に入って来た。


「やあ健斗くん、調子はどうかな?」


「緊張はしていますが、全力は出せそうです。」


「ははは、緊張か。星間戦争で活躍した本物の英雄を前にして、流石の君も武者震いかな?」


「そんなところですね。」


俺と今日の対戦相手は、国や世界を救った英雄という点では同じだ。だか向こうは、二十歳で人類の守護者であるS級魔法師となってから30年近く最前線で活躍している人物だ。それに対してこちらは、異世界で魔王を倒したとはいえ、A級魔法師になってから1ヶ月しか経っていないヒヨッコだ。正直、比べることすら烏滸がましいレベルだ。


「既にわかっていると思うが、彼女に対する手加減は一切無用だ。可能なら、倒してくれても構わない。」


「流石に、イギリスの英雄に勝つのは簡単じゃ無いですよ。」


「わかっているとも。だけど私は日本魔法協会会長として、もしかしたら、と思ってしまうんだよ。もしかしたら、君にS級魔法師の称号を受け取るだけの資格があるんじゃないかと。」


「・・・・・・」


「まぁ、年寄りの世迷言と捉えてくれても一向に構わないがな・・・・・・」


いつもの軍服に身を包んだ有栖川は、ガラスの向こう側に見える今回のバトルフィールドを眺めながら、そんな事を呟いた。態度から、それが世迷言でも何でも無い、彼からの強い期待である事はすぐにわかった。誰かに期待されることには慣れているが、今回の期待はかなり重いことがわかった。一体どのような理由から俺に期待しているのだろうか・・・・・・


「さて、最後に一つだけレクチャーしておこう。」


「レクチャー?」


「あぁ、君はイギリスの英雄『クリスティア=ヘリフォード』の戦いを実際に見たことはあるか?」


「映像でなら、何度か・・・・・・」


S級やA級魔法師の戦闘映像は、実は結構な確率で出回っている。特に、イギリスの英雄『クリスティア=ヘリフォード』のような長年S級魔法師として活躍している魔法師ならば、動画配信サイトを見ればいくらでも転がっている。

まあ、画質が悪かったり、手ブレしていたりと、見にくくはあるが・・・・・・


「そうか、なら私から一つアドバイスしておこう。映像でみるのと、実際に正面から対峙してみるのは全然違う。固定概念を全て捨てた上で臨むといい。」


「・・・・・・わかりました。」


「では、私は自分の仕事があるので、ここら辺で失礼させてもらおう。ご武運を。」


「はい。」


それだけ言い残すと、有栖川は控え室を去っていった。

既に東京のど真ん中にあるこのアリーナには多くの観客が集まっており、メインイベントの開始を今か今かと待っていた。明日人と衣夜の魔力は残念ながら感じ取る事ができなかったが、ルーシアとお母さんの魔力は感じ取る事ができた。


「よし・・・・・・」


覚悟は決まった。あとは始まるまで、静かにその時を待とう。






「やぁ、久しぶりだね。」

「お久しぶりです、クリスティアさん」


「お久しぶりです、御二方。でも、どうしてここに?」


健斗が有栖川と会話をしている頃、反対側の控え室にて、健斗の対戦相手のもとにとある人物達が訪ねていた。


「君が日本に来ていると聞いてね、せっかくだから会っておこうと思って。」


「そうですか・・・・・・」


訪ねて来た2人というのは、もちろん厄介なファンだったり、迷惑なセールスマンでは無い。そもそも一般人なら、この無駄に頑丈かつ厳重なこの部屋に辿り着くなんて事は到底できないし、S級魔法師に喧嘩を売るような馬鹿はこの世界には存在しない。

アポイント無しで突然訪れた目の前の男女に対して、クリスティアが何にも行動を起こさないのは、2人が彼女の顔見知りであったからだ。


「今日の君の対戦相手、君は日本の新たなA級魔法師としか聞いていないかもしれないけど、彼の実力は本物だった。だから君も、遠慮なく魔法を使って大丈夫だよ。」


「なるほど、姿を消したはずの貴方が、わざわざ私に姿を見せた理由はこれですね。」


「半分正解です。」


神出鬼没な彼と彼女は、愉快そうに話した。


「半分?もう半分は何ですか?」


「今日のバトルフィールドの魔力障壁担当は、僕たちです。だから、周りの事は気にせず、全力でやっていいですよ。」


「っ!わかりました・・・・・・」


「では、ご武運を。」

「頑張って下さい、クリスティアさん」


「はい。」


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どうでもいい話

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