第10話 嵐の前の静けさ
この世界に戻って来てから、3週間が経過した。体感としてはあっという間であったが、振り返ってみると日本一の魔法学校に入学することになったり、A級魔法師に昇格したりと、結構濃密な日々を送っていた事に気が付いた。まあ、振り回されてばかりの毎日ではあったが、それなりに充実した日々を送っていた。
さて、そんな俺の今現在の悩みの種は何かというと、ついに明日に迫った国際親善試合のメインイベント『決闘』であった。
「はぁ、なんとかして無かったことにできないものかね〜。例えば、偶然明日、地球に宇宙人が襲来して親善試合が無かったことになったり・・・・・・」
「もし本当に宇宙人が飛来したら、A級魔法師であるあんたにも、招集命令が下ると思うわよ。」
自宅の食卓にて、俺とルーシアはいつものように夕食を楽しんでいた。ちなみに今晩のメニューはカツ丼、明日の勝負に勝つということで、ルーシアが作ってくれた。美味しい。
「俺がでなくても、S級魔法師が何とかしてくれるだろ。」
地球、もしくは日本がピンチとなれば俺も力を貸そうとは考えていたが、宇宙人の飛来ぐらいでは、地球や日本はピンチにはならない。現代のS級魔法師の強さは、はっきり言って全員化け物級だ。おそらく、宇宙人たちが泣いて逃げ出すぐらいには強い。なんせ以前の星間戦争では、宇宙人を撃退するだけでなく、宇宙人達の星に殴り込んで無条件降伏を勝ち取るぐらいには強い。
ようは、俺が居なくても何とかなるのだ。
「確かに、S級魔法師にも招集命令は下ると思うけど、だからといって貴方が呼ばれないとは思えないわ。」
「どうして俺が・・・・・・」
「日本魔法協会との契約書に書いてあったでしょ?」
言われて思い出す。そういえば、ここ東京が何らかの要因により被害を被りそうな場合、それを防ぐために先陣を切らなければならない、という趣旨の内容があった。宇宙人の襲来は、例え宇宙人たちに交戦の意思が無かったとしても、やらなければならない。
「くっそ、また契約書か。もう絶対に契約なんか結んでたまるか。」
「同感ね、私もあんな簡単に契約書にサインするんじゃなかったと後から何度か自分の軽率な行動を悔いたわ。私も、誰かと契約を交わすのはあと1回だけにするわ。」
明日人主導のファッションブランド、名前は何だったか忘れたが、毎週のようにツクヨミタワーへと呼び出された俺たちは、モデルの真似事をやらされた。ちなみに、一番最初に撮った写真集が掲載されたカップル向けの雑誌は既に発売されており、ネット上ではそれなりの反響があった。
親善試合出場の効果か、日本だけでなく海外からも注目が集まっていた。今のところは、私生活には何ら影響が無いが、少しだけ迷惑ではある。まぁ、これもA級魔法師としての仕事の一つとして割り切ってはいるが・・・・・・
「さて、生産性の無い話はこれぐらいにして、明日の話をしようぜ。」
「明日?明日は貴方の親善試合以外に、特に何の用事も無いけれど・・・・・・」
「他人事かよ。」
「他人事よ。」
「・・・・・・それもそうだな。」
考えてみれば、確かに他人事だ。明日の俺は、おそらく大変な運命を辿ることになると思われるが、ルーシアの方はそんなに忙しい日程にはならないようだ。
ちなみに俺の方は、朝6時といういつもなら寝ている時間に築地にある日本魔法協会本部に出頭する事を命令されている。そこから分単位でタイムスケジュールが組まれており、国際親善試合の閉会式が行われる22時まで働き通しになる予定だ。
「誰だよ、こんな面倒なことを引き受けたやつ。」
「そんなの、貴方に決まっているでしょ。」
「ですよね〜」
明日のタイムスケジュール、見れば見るほど頭が痛くなる。これは、今すぐ労働基準監督署に駆け込むべきかもしれない。
「そう言えば、明日人から聞いたんだが明日観に来るのか?」
「悪い?別に、私は行くつもりは無かったんだけど、明日人と衣夜がどうしてもって言うから仕方なく行くことにしたのよ。」
「そ、そうか・・・・・・」
俺が尋ねると、ルーシアは変な言い訳に並べながら答えた。どうやら、事実を認めたくないらしい。
「私が観に行くんだから、絶対に勝ちなさいよ?」
「無茶言うな、相手はS級だぞ?A級の俺じゃ、難しいよ。」
「私のお父さんには勝てたじゃない。」
「あれは、向こうが手加減してくれたからだ。本気の殺し合いだったら、俺が負けていたかもしれんしな。」
正直に言えば、イギリスのS級魔法師相手に勝つ自信が無い事もない。対峙してみないとわからないが、それでもそれなりの自信がある。
だけど、本気で戦うかは、今のところ判断しかねている。だから、ルーシアには曖昧な返事をしておく事にした。
「とりあえず、観客を楽しませるように努力はするよ。」
「期待しとくわ。」
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どうでもいい話
実は私は機械音痴です。
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