第7話 背後関係

「依頼の内容は理解できた?」


「あぁ、一応な。だけど一つ、分からない事がある。」


「いいよ、何でも聞いて。健斗の頼みなら、何でも答えるよ。」


 俺のルームメイトであるルーシアが、色々とやばい状況に陥っていることは理解できた。幸い、日本とドイツはそれなりに仲が良く、向こうがすぐに実力行使に出て来る可能性は低いが、それでも何らかの方法で彼女の身に危険が迫る事は容易に想像できた。

 だが、一つだけわからない事があった。それは・・・・・・


「ルーシアが危ないのは理解した。だけどどうしてこの依頼が、明日人から来たんだ?」


 今までの依頼はどれも、有栖川さんか現在の俺の上司であるロリ先輩から依頼されて来た。

 明日人から、個人的な頼み事をされた、ならわかるが、今回の依頼はどう考えても背後に色々な組織が絡んでいると推測できる案件だ。第一、日本とドイツが裏でバチバチに殴り合っているという情報を、一体何処から手に入れたのだろうか。

 俺が尋ねると、明日人は動揺する事なくいつもの笑顔で答えた。


「僕はただの伝言役だよ。」


「伝言役?じゃあ依頼は誰からなんだ?」


「アレン=ハーンブルク、ルーシアのお父さんからの依頼だよ。」


「っ!」


 俺は、明日人の口からその名前が出て来たことに驚いた。つい先日、東京湾の真ん中で戦った相手であり、ドイツ所属のS級魔法師。そして、ルーシアの父親もある。


「依頼者があの男なら話が通るか・・・・・・」


「どうやら、理解できたようだね。」


「立場上、自由に動くことができないあの男が、明日人を介して俺に依頼して来たということか。」


「そういうこと。」


 どうやら、S級魔法師というのは自由に動くことを制限されているようだ。まぁ、国家の戦略兵器とも言われるS級魔法師が、そんな簡単に他国へ遊びに行くことができるはずがない。

 しかもこれは、今回は日本とドイツの問題だ。ドイツの英雄たる彼が、日本側に肩入れなどできるはずがない。となれば、日本側の誰かに依頼することは納得ができる。だけど、あの男は依頼する相手を俺にするだろうか。


「なぁ明日人、あの男は本当に、俺だけに依頼して来たのか?」


「ん?どうして?」


「自慢じゃないが、あの男には嫌われている自信があってな。どうしても、あの男が俺を指名したとは思えなくてな。」


「ふふ、よくわかったね健斗、正解だよ。」


 俺が問い詰めると、明日人はいたずらっ子のように笑った。どうやら、先ほど動揺しなかったのは、このような裏があったからのようだ。


「じゃあやっぱり・・・・・・」


「でも、アレン=ハーンブルクからルーシアさんを守るように依頼されたのは本当のこと。それで僕が、ルーシアの護衛として健斗を選んだってこと。」


「なるほど、そういうことか・・・・・・」


 これで、疑問は全て解決した。

 明日人、もしくはその背後にいる誰かは、ルーシアのルームメイトであり、最年少でA級魔法師の仲間入りを果たした俺に依頼したのだろう。

 あの男の依頼で動くのは少し癪だが、明日人の頼みならば手を貸してあげたいと考えている。ルーシアのことは、あくまでついでのつもりだ。


「ちなみに、報酬とかは出るのか?」


「うん、出るみたいだよ。希望があれば聞くけど、何かある?」


「休暇。」


「休暇ってwまぁでも、そう伝えおくよ。」


「助かる。」


 まさか、希望が通るとは思っていなかっただけに、俺は少し驚いた。


「とりあえず今日はもういいから、健斗はルーシアさんのところに行ってあげて。」


「了解っ。」


 そう答えて、俺は風紀委員室から出て行った。さて、早速依頼をこなすとしようか。



 *



 数日前


「久しぶりだね、アレン。」


「お久しぶりです、結人さん」


 明日人の父親、藁科結人は、久しぶりに顔を合わせたルーシアの父親、アレン=ハーンブルクと握手を交わした。


「わざわざ来ていただきありがとうございます。」


「いつも言っているけど、僕と君の仲だ、敬語はいらないよ。」


「わかりました・・・・・・」


 日本を代表する大企業、ツクヨミ社のドイツ支社にて、結人とアレンは密会を行っていた。


「聞いたよ。仕事を放り出して、ドイツから東京に行ったんだって?相変わらず親バカだね〜」


「貴方だけには、言われたくない。」


「ははは、まぁ確かに僕も親バカかもね。」


 結人はそういうと、自身の今までの行動を振り返りながら笑った。確かに、息子と娘の事が心配になってわざわざ小学校と中学校の免許を取ったのは、今となっては良い思い出だ。ちなみに、育成学校の担任になるのは、妻に止められたため諦めた。


「それで?確か僕に、頼みたい事があるんだよね?」


「あぁ、実はルーの所属を巡る争いがまた再発しそうになっている。」


「それでまた、僕の力を借りたいと?」


「すまない、俺が頼れるのは結人さんだけなんだ・・・・・・」


 ルーシアの所属を巡る争いが起きたのは、実はこれで3回目だ。1回目はルーシアが生まれる時、2回目はルーシアが育成学校に進学する時、そして今回が3回目だ。

 それを受けて、アレンは再び結人を頼る事にしたのだ。


「わかった、協力させてもらうよ。」


「本当ですか?!」


「うん、ルーシアさんには、明日人と衣夜がお世話になっているみたいだし、任せて。いつもと同じように、方法は僕が決めるでいい?」


「はい、ルーが幸せなら。」


 アレンにとって、優先すべき事は娘の幸せのみであった。そのためなら、自分はどんな犠牲を払っても構わない。彼は本気で、そう思っていた。


「わかった。じゃあ僕の方から、その依頼を一番上手にこなせると思う子に頼んでおくよ。」


「え?明日人くんと衣夜くんじゃないんですか?」


「うん。今回は、明日人と衣夜よりも適任がいるんだ。」


 ______________________________

 どうでもいい話

 久しぶりに藁科結人登場

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