第8話 sideルーシア3
「相変わらず無駄にでかいな〜」
「えぇ、そうね・・・・・・」
よく晴れた土曜日、私はルームメイトである健斗と共に、とある場所へと訪れていた。育成学校に併設されている駅から電車で揺れること20分ほど、私たちは東京湾に浮かぶ世界で最も高い建造物へとやって来ていた。
「さて、入るか。」
「貴方、アポイントメントはとってあるんでしょうね。」
「多分ね。」
「多分って、何その曖昧な話。」
私の問いに対して、健斗はテキトーな返事を返した。だけど何故か、彼の言葉には説得力があった。私は彼の言葉を信じて、彼と共に建物の中へと入った。
一昨日の夜、私は彼からとあるお願いをされた。どうやら、東京湾の中心にあるツクヨミ本社に呼び出されたらしく、私はその付き添いをお願いされた。断っても良かったが、私は仕方なく一緒に行ってあげる事にした。
「ようこそ、ツクヨミタワーへ。本日はどのようなご用件で?」
「日本魔法協会所属のA級魔法師、本条健斗だ。今日は、あんたのところのCEOに呼び出されて来た。」
「お待ちしておりました、本条様とハーンブルク様ですね。お話は伺っております。第16エレベーターから、200階のCEOルームへとお進み下さい。」
「わかった。」
「わかりました。」
どうやら、私が今日ここに来る事も既に伝わっていたようで、受付の女性は私の名前も既に把握していた。続いて、私と健斗はそれぞれ、1枚ずつカードを手渡された。
「こちら、エレベーター用キーカードになります。それを身につけたままエレベーターの中に入っていただくと、自動で200階にご案内します。」
「どうも。」
「どうも・・・・・・」
その後、私たちは全面ガラス張りのエレベーターで一気に200階へと向かった。外の様子から、もの凄いスピードで上昇している事を理解しつつ、私たちは外の景色を楽しんだ。正面にはちょうど育成学校が見えており、その奥にはお台場、そして日本の中心、東京の街並みが広がっていた。
ここツクヨミ本社には、以前にも魔法師として契約を結ぶ際に一度だけ来た事があったが、その時は運悪く反対側のエレベーターを利用したため、この景色を見るのはこれが初めてであった。まぁ、反対側のエレベーターからは、代わりに美しい海と日本魔法協会の一大拠点のある房総半島は見えたが・・・・・・
*
最新のエレベーターはとても快適かつ高速で、あっという間に200階に到達した。エレベーターを降りると、和服姿の男女が私たちを出迎えた。2人の顔をみるとすぐに、私は彼らが誰なのかわかった。
「やぁ健斗くん、よく来たね。」
「お久しぶりです、健斗さん。」
「お久しぶりです、
健斗は二人と顔を合わせると、親しげに挨拶をした。その様子を見て、私はこの二人が、私の同級生の両親である事に確信を持った。
「それと、そっちはルーシアさん、だよね。直接話すのはこれが初めてかな?僕は君の同級生、藁科明日人の父親、藁科結人だ。よろしく。」
「は、はい。アレン=ハーンブルクの娘、ルーシア=ハーンブルクです。」
「結人さんの妻の藁科咲夜です。いつも、子供達がお世話になっています。」
「ルーシアです、こちらこそお世話になってます。」
何処からどう見ても二十歳ぐらいの若者にしか見えない美貌を持つお二人は、私に対して丁寧に挨拶をした。お二人の容姿は、それぞれ明日人と衣夜にそっくりであり、正直年若いカップルにしか見えなかった。
藁科咲夜、私はこの名前に覚えがあった。天下のツクヨミ社CEOにして、このツクヨミ社を立ち上げた人物。正確には、彼女を含めた藁科一族4人が代表取締役を務めているが、実質的なリーダーは彼女だ。
という事はつまり、藁科明日人と衣夜は社長令息&令嬢ということになる。確かに言われてみれば、彼らの持つ独特の雰囲気は、親譲りという事ならば納得ができる。
「さて、自己紹介も済んだことだし、早速今日君たちをここに呼んだ本題を話すとしようか。」
「わかりました。」
簡単な挨拶が済んだところで、結人さんは早速、今日ここに私たちを呼んだ理由を話した。
「まずは、A級魔法師昇格おめでとう、健斗くん。短い期間ではあったけど僕の教え子がA級に昇格をしたことを、僕も嬉しく思うよ。」
「あ、ありがとうございます。」
結人さんが健斗を褒めると、彼は素直に御礼を言った。普段はそれほど自分の本心を表に出さない彼だが、結人さんには相当心を開いているようで、私から見てもとても嬉しそうな顔をしていた。
「それで、今日君たちをここに呼び出した原因は何だけど、2人との契約を更新したいなって思ってね。」
「私もですか?!」
「うん、僕たちはルーシアさんの事も評価している。君たちは、我々ツクヨミ社の合格ラインを超えているよ。」
「「ありがとうございます。」」
私たちは、結人さんに対して揃って御礼を伝えた。彼の言葉は暖かく、とても心地よかった。それだけに、私はとんでもない契約を、ツクヨミ社と交わしてしまう事になった。
「これが、新しい契約書だよ。目を通して、大丈夫と思ったらサインして。」
「「わかりました。」」
その後、一通り目を通した私たちは、特に怪しいところはなく、それぞれほぼ即決のような感じで契約書にサインした。
それが、どういう事かなど知らずに。
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どうでもいい話
藁科結人、咲夜、結人の姉、結人の妹
この4人が代表取締役です。
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