第5話 見えている未来

「これが、本条健斗か・・・・・・」


「あぁ、君が篠原を使ってちょっかいをかけた本条健斗だ。」


 第一アリーナに取り付けられた特別観戦室にて、有栖川はスーツ姿のとある男と共に健斗の戦闘を観察していた。


「その件については親善試合でチャラになったはずだが?」


「別に掘り返すつもりは無い。だが、これ以上ちょっかいをかけるなと言いたいだけだ。私は彼に期待しているからな。」


「そこは理解している。今さらこちら側に引き込もうとは思わんよ。」


 男にとって、親善試合の日本代表の決定権を有栖川に譲らなければならなくなってしまった事は、手痛い出費であった。本当なら、自衛隊への貸しを利用して我が国唯一のS級魔法師に出場してもらうつもりだったが、それが白紙になってしまった。

 自身の懐刀を送り込んでちょっかいをかけた以上、揉み消すために日本魔法協会から何かしらの要求をされることは覚悟していたが、考えられる選択肢の中で最も手痛い要求を受けた。

 結局男は、政府と日本魔法協会の間にしこりを残すわけにはいかず、有栖川の要求を全面的にのむことになった。まぁ、新たなA級魔法師が出場するというニュースでも、十分客を見込めるが・・・・・・


「どうやらA級魔法師に値するという君の判断は適切であったようだな・・・・・・」


「『A級』ではなく、『A級以上』だ。今後の実績次第じゃS級昇格だってあり得る。というか、その可能性は高いと私は考えている。」


「S級だと?確かにうち奴らを相手に、赤子の手をひねるかのように圧倒していることは凄いと思うが、A級魔法師ならばこれぐらい誰だってできる。」


 男は、健斗が政府所属の魔法師2人を同時に相手する姿を見ながら、そう反論した。確かに強くはあるが、達筆すべきところは残念ながら若いところぐらいしか見当たらない。

 固有魔法が発現して覚醒し、S級に昇格した例は確かに存在するが、それはほんの僅かな可能性でしかない。

 まぁ、最年少A級魔法師ということで期待したいのはわかるが、現実はそう甘くない。なんせS級魔法師は、日本では戦後たった1人しか昇格しておらず、世界を見渡してみても10人しかいない、文字通り魔法師の頂点だ。そんなに簡単になれるものでは絶対に無い。


「それに、元A級魔法師であるあなたなら知っているだろ?A級とS級の間には、決してひっくり返すことのできない絶対的な差が存在することを。」


「あぁ、もちろん知っているとも。だけどその上で、彼にはその可能性があると考えている。」


「ずいぶんと彼を信頼しているんだな。」


「私は自分の勘を、誰よりも信じているかならな。」


「なるほど、勘か・・・・・・」


 有栖川は、男に対して真剣な表情でそう答えた。まだ健斗の力の全てを把握できたわけではないが、健斗がA級の器に留まらずS級魔法師になると、長年の勘が自分自身にそう告げていた。有栖川はこれまで何度も死線を乗り越える時に役立った自身の勘を信じていた。


「どうやら、本条健斗が動くようだ。」


「そのようだな。」


 先ほどまでは、激しい剣と魔法の撃ち合いが行われていたが、両者は一度手を止めて仕切り直しをした。ここから、一体どのような魔法を展開するか気になっていると、健斗は意外な魔法を使った。


「なっ!魔法陣だと?!」


「そのようだな。」


 バトルフィールドを囲むように16の魔法陣を描いた。昔は多くの魔法師が魔法陣を使っていたが、今現在は使用者が極端に少ない。魔法陣は確かに強力だが、大人数による集団戦ならともかく個人戦や少人数戦ではあまり役に立たない。ましてや、魔法陣を主軸に魔法を組み立てるのはざっと30年以上前の戦い方であった。


「どうやら奴は、ショーを開くようだ。」


「ショーだと?!まさかっ!」


「あぁ、我々がここから観戦している事に気がついているぞ、というアピールだろうな。流石に、魔法陣がメインとは思えない。奴は我々に、文字通り力の一端を見せつけようとしている。」


 驚くべきは手数の多さだ。何か1つの要素を極めているのではなく、様々な系統の魔法を上手に織り合わせて魔法を組み立てている。奴の卓越した戦闘力の一因は、この手数の多さなのかもしれない。だとしたら、それを上手く活用できる固有魔法を仕込んでいると考えられた。まだ、第一段階が召喚系であることしかわかっていないが、他の段階も特殊な固有魔法である可能性が高い。


「終わったな・・・・・・」


「あぁ、元々戦力に大きな差がある上、魔法陣が完成した以上、もう逆転の手は残っていない。あとは、自身の敗北を受け入れるだけだ。」


 直後、バトルフィールド全体が、氷の世界へと変わった。似たような魔法は何度か見た事があるが、おそらくこれは健斗のオリジナルの魔法だろう。直前に、2人は魔力障壁を張って自分の身を守る事を試みたが、全て何事も無かったかのように攻撃が貫いた。

 遅れて、2人が身につけている安全装置の耐久値はゼロになったことを告げる音が鳴り響いた。


「やはり、健斗を日本代表に選んだのは正解だったようだな。」


 相手はあの、イギリスのS級だ。どんな戦いになるか、想像もつかないが、きっと私を楽しませてくれるだろう。


 ____________________________

 どうでもいい話

 別視点、書いてて楽しい。

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