国際親善試合編

第1話 謎の男

「それは本当かっ!」


「はい、間違いございません。つい先ほど、主催である日本政府から正式発表がありました。」


 部下からの報告を聞いて、男はキーボードから手を離した。今月末に日本の東京で行われる国際親善試合は、男が所属する英国魔法統括局にとって重要なイベントであった。今回のイベントには、開催国日本の他にイギリスを含めて5つの国が参加を表明している。

 そのため国際親善試合には、勝敗以上の意味があった。


「日本はメインイベントの代表に、日本の新星、本条健斗を出場させると発表致しました。そのため、5年ぶりに誕生した日本の新たなA級魔法師に世界中から注目が集まっております。」


「E級からB級までを全て飛び越えて、いきなりA級昇格を認めた上、同じ月の国際親善試合に出場させるとは、有栖川の奴は相当な自信があるようだな。」


「今年のメインイベント出場国は、開催国日本と我が国でございます。早急に、誰をこちらの代表として立てるか選択しなければなりません。」


 同格のA級を送り込むか、一つ下のB級を送り込むか、はたまたイギリスの切り札であるS級を送り込むか、それは人選を任されている英国魔法統括局にとって非常に悩みどころであった。

 一番大事な事は何より勝つ事であるが、これは親善試合である以上、ある程度観客を楽しませる必要があり、圧倒的な実力差で捻り潰すような展開は好ましく無かった。だからといって、A級魔法師を選択した結果、コテンパに負けたでは、面子が立たない。そのため、人選にはかなり気を使わなければならなかった。


「本条健斗についての情報は?」


「はい、既にこちらにまとめてあります。」


「これだけか?」


 渡されたたったの1枚の紙を見て、男は部下に思わず聞き返してしまった。新たなA級魔法師の情報としては、あまりにも少な過ぎた。


「はい、あらゆる手段を用いて本条健斗についての情報を探りましたが、残念ながら分かった事はほとんどありませんでした。本条健斗に掛けられているプロテクトは一個人としては過剰過ぎるほど固かったです。おそらく日本政府、もしくはセキュリティに強い企業がバックに付いている事が推測されます。」


「企業だと?」


「はい、本条健斗の母親の勤め先はあのツクヨミ社です。ツクヨミ社がバックにいるとしたら、英国諜報部をもってしてもセキュリティの突破は厳しいかと。」


「なるほど、日本政府ならともかくツクヨミ社が相手だと、少し厳しいな。」


 ツクヨミ社、星間戦争終了直後に誕生した日本の東京に本拠地を置く企業で、世界で最も有名かつ信頼できる魔法具メーカーだ。世界シェアの方は、インドを拠点とする企業に抜かれているものの、A級以上の魔法師の7割はツクヨミ社製の魔法具をメインウェポンに採用していると言われている。同時に、ツクヨミ社は機密保持のために世界最高レベルのセキュリティ技術を保有していると言われている。

 理由はともかくとして、もし仮にツクヨミ社が本条健斗のバックについていたとしたら、流石の英国諜報部をもってしても情報を抜き取るのは難しい。


「はい、そしてさらに我々が本条健斗の存在を認知したのは日本魔法協会がA級昇格を発表した今週の月曜日でした。そのため調べる時間があまり無く、集まったのはこれだけでした。」


「そうか、ならばこの情報だけで判断するしか無いようだな。」


「はい、噂の類いならばたくさんありますが、それらに左右されずに選ぶなら、それがよろしいかと。」


「噂?」


「はい、信憑性はあまり無く、そちらの資料には載せませんでしたが、ネット上でいくつか気になる噂が見つかりました。」


 気になるワードがあったため尋ねると、部下はそれに答えた。

 常に戦力不足に悩まされていた星間戦争中ならともかく、各国が魔法師の育成を競い合う今、何の前触れもなくE級〜B級をすっ飛ばして突然A級に昇格した前例は無い。

 インターネット上では既に、様々な憶測や考察が飛び交っており、論争が巻き起こっていた。そしてその中に一つ、気になるモノがあった。


「具体的には?」


「既に国外のS級魔法師との戦闘を経験しており、それに勝利したためA級魔法師に昇格になった、というものです。各国からそのような発表はありませんが、これが本当ならA級魔法師にいきなり昇格したのにも納得がいきます。もちろん、確固たる証拠は何処にもありませんが・・・・・・」


「考え過ぎ、と一蹴するのは簡単だが、確かに少し引っかかるなところがあるな。」


 さてと、どうしたものか・・・・・・

 揃って頭を悩まされていると、突然通話の呼び出し音が鳴った。ゆっくりとそちらの方に視線を向けて呼び出した相手を確認すると、今最も話したいと思っていた相手の名前が書かれていた。


「応答致しますか?」


「無論だ。」


 部下に指示を出すと、彼は応答ボタンを押した。すると、通話相手の顔がディスプレイに映った。


「こんな時間に電話をかけてくるとは、常識を知らないのか?有栖川」


「東京とロンドンじゃ、9時間の時差があるんだからそこは勘弁してくれMr.ホワイト」


 通話相手である有栖川は、笑いながら答えた。彼は相変わらず、他人に気をつかわない男だ。とても、日本人とは思えない。


「ところで、我々からのサプライズプレゼントは受け取ってくれたか?」


「おかげさまで、こちらは今大混乱だよ。」


「ははは、それはすまない事をしたな。」


 英国魔法統括局の現状を端的に伝えると、彼は満足そうに笑った。


「それで?まさか我々の反応をだけの見るため電話をかけたんじゃないだろうな。」


「安心しろ、本題は君たちが今探っている我が国の新星、本条健斗についての事だ。」


「っ!」


「今インターネット上で広まっている『既に国外のS級魔法師との戦闘を経験しており、それに勝利したためA級魔法師に昇格になった』という噂、これは本当の事だ。誰に勝ったのかは秘密だが、彼は間違いなくS級に近い実力を持っている。その事を考えた上で、親善試合の人選を送ってくれ。」


「忠告、感謝する・・・・・・」


 それだけ言って、有栖川は通話を切った。相変わらずの自分勝手な態度であったが、ツッコミを入れる余裕が無かった。


「いかがいたしますか?」


「これは日本側からの明確な宣戦布告だ。喧嘩を売られたなら、買うのが英国紳士だ。」


 直後、英国魔法統括局は、国際親善試合にて切り札であるS級魔法師の参加を発表した。


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 どうでもいい話

 午後18時15分に更新できるように努力してます。

 もう一度言います、努力してます。

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