第2話 歴史と次世代の責任

時間はかかってしまったが、ルーシアの教えはとてもわかりやすく、何とか課題をやりきる事ができた。まぁ、ほとんどノートを丸写しただけなので内容はあんまりよく覚えていないが、ともかく今週分の課題の提出は何事もなく完了した。


「ちなみに、来週の分はどうするつもりなの?」


「no problemだ。」


「それだと、問題無しになるけど?」


「間違えた、no planだ。」


「はぁ・・・・・・」


俺が自信満々にそう答えると、お隣りさんはわかりやすく溜め息を吐いた。溜め息を吐きたい気持ちはわかるが、俺はルーシアの助けが無いと生きていけないのだから、ちゃんと助けてほしいところだ。


「で、あるからして、人類防衛軍〈ジルトレア〉を発足させたセラン=レオルドの一番の功績は、歴史に名を残した数々の魔法師を発掘した事ではなく、人類の戦力を結集させた事だと言われています。最近の研究では、もし仮にジルトレアの発足があと10年遅れていたら、人類は中東の油田地帯を占拠された上、西洋と東洋に分断されていたかもしれません。そうなれば、史実とは比べものにならないほどの被害を被っていたと予想されます。」


午前中の実技の授業が終わり、午後の近代史の授業が行われていた。近代史の授業は、座学の中で唯一まともに受ける事ができる授業であり、俺でも理解できた。というのも、侵攻開始年である1999年から50年にも及んだ星間戦争の事は、小学校の頃にみっちりと教わった。そのため、名前とその活躍ぐらいはしっかりと記憶している。


「そのため私は、星間戦争における最大の功労者は、キリア=メスタニアや黒白こくびゃくではなく彼だと考えております。」


日本トップクラスの魔法師育成機関である育成学校の講義はとてもレベルが高く、中学校の授業をまったく受けていない生徒が受けて良いレベルではない。それでもなんとか、近代史の授業だけは理解できた。


「流石の貴方も、この3人の英雄の事は知っているようね。」


「知らない奴は居ないだろ。」


「・・・・・・それもそうね。」


星間戦争における3人の英雄は誰か、と100人に聞けば、その内の99人はまず間違いなくセラン=レオルド、キリア=メスタニア、黒白の3人を挙げるだろう。

今の世界魔法協会〈ジルトレア〉の前身である、人類防衛軍〈ジルトレア〉を発足させたセラン=レオルド、初代S級魔法師であり魔法学の基礎作ったキリア=メスタニア、そして、戦争を終わらせたS級魔法師『黒白』、いずれも星間戦争で活躍した英雄だ。

ちなみに、『黒白』というのは愛称であり、本名は未だに公開されていない。彼は終戦と共に表舞台から姿を消しており、消息は不明だ。また、キリア=メスタニアは第二次領土奪還作戦にて未帰還(戦死と判断された)、セラン=レオルドも戦後すぐに引退して消息不明となっており、3人とも行方不明の状態だ。


「彼ら、一体何処で何をしているんだろうね。」


「さぁな、案外一般人に紛れてそこら辺でのほほんとしているんじゃないのか?セランの方はともかく、黒白は顔も名前も割れていないんだし。」


「かもしれないわね。」


姿を消した直後は、各国の様々な機関が躍起になってセランと黒白を探したが、結局発見される事なく10年以上が経過した。一体何処で何をしているのか、誰にもわからない。まぁ、相手は星間戦争を終わらせた英雄だ、彼を探し出すのは不可能に近いだろう。


「この近代史の授業を通して学んで欲しい事は、魔法が人類同士の戦争に利用されるような事はあってはならない、という事です。次世代を担う君たちには、是非ともその事を頭に入れて行動して欲しいと考えています。」


黒白が表舞台を去る際に残した言葉に、『魔法が人々のために使われる事を切に願う』というモノがある。俺も、異世界で手に入れたこの力の使い方を、もう一度考え直さなければならないなと思った。


「さて、今日の近代史の講義はこれで終わりです。ここからは自由行動となりますので、各自、自分の判断で帰宅して下さい。」


「「「ありがとうございました。」」」


そう言って、近代史担当の先生は教室を後にした。途端に、クラス内の緊張が一気に解けた。生徒達はそれぞれ席を立ち、それぞれ帰りの支度を始めた。俺もそれを見て、懲罰委員会へと向かう準備をしていた。


「お疲れ、健斗。今日も委員会かな?」


「あぁ、ロリ先輩から呼び出されてしまってな。」


「もしかして、国際親善試合関係?」


「あぁ、多分な。」


さっさと帰ってベッドに横になりたいところであったが、今日はロリ先輩からの呼び出しを喰らっており、泣く泣く委員会室に向かう事になった。

多分呼び出された原因は、国際親善試合についてだろう。というかそれぐらいしか心当たりが無い。


「相変わらず忙しそうだね〜健斗は。」


「誰のせいだと思っているんだよ。」


「え?僕が悪いの?」


「・・・・・・一概にそうとは言えないな。」


改めて考える。確かに、きっかけを作ったのはこいつだが、道を選んだのは俺自身だ。

彼を責めるのは筋違いかもしれない。


「でしょ?まぁでも、僕は助かったけどね。」


「助かった?」


「ううん、何でもない。じゃあ、頑張ってね。」


「あぁ、行ってくる。」


俺は明日人に対してそう言い残した後、懲罰委員室へと向かっていった。

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どうでもいい話

第3章、どちらを第一話にするか迷った結果、両方とも投稿する事にしました。

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