第17話 sideシーナ2

会話文が全て「」表記になっておりますが、意思疎通系統の魔法を使っていると思ってお楽しみ下さい。決して、後から気づいて全部直すのが面倒になったわけではありません。

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勇者様を召喚した翌日、私は城の中庭で勇者様と模擬戦を行っていた。私は勇者様をここに呼び出した張本人として、彼の実力を確認していた。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「あの、健斗」


「ス、ストップ、言いたい事はわかる。が、ちょっと待ってくれ。」


「わかりました、待ちます。」


勇者様、いや健斗は私の言葉を遮って止めた。どうやら彼は、言わなくても私が言いたいことがわかったようだ。


「なぁ、その勇者召喚の儀というのは、本当に成功したんだよな。」


「はい、私の魔法式は完璧でしたし、失敗した感覚もありませんでした。ですので、健斗は間違いなく勇者様です。」


「でも俺、見てわかったと思うが、そんなに強くないぞ?」


「どうやらそのようですね・・・・・・」


今回の模擬戦で1つ、大きな事が分かった。

それは、健斗が私たちの想像よりもずっと弱かった事だ。魔王を圧倒できる体術があるわけでも、魔王軍を一掃できる魔法が使えるわけでもない。唯一、保有魔力量だけは飛び抜けて多いようだが、お金がたくさんあってもそれを上手く使えなければ意味がないように、彼はその圧倒的な魔力量を上手く活用できていなかった。それもそのはずで、彼は元々それほど魔力を持っていなかったそうだ。しかし、私の勇者召喚の儀によって体内の保有魔力量が元の数万倍に倍増したそうだ。

古い文献によると、過去に勇者召喚の儀によって召喚された勇者は全員、魔力が激増した状態で召喚されていたらしい。ただ、増えたといっても数倍程度で、健斗のように数万倍に膨れ上がったケースは一つも無かった。

そしてもう一つ、気になるところがあった。それは、健斗は、ガラシオル帝国どころか魔王すら知らず、ガラシオル帝国がある大陸とその形を知らなかった事だ。過去に召喚された勇者は全て同じ大陸出身の者であったが、健斗は明らかに異星人、もしくは異世界人であった。


「自分で言うのもなんだが、正直なところ俺は人類側の戦力にはなれても、戦況をひっくり返すだけの力は持っていない。これからどうするつもりだ?」


「ご安心下さい、健斗」


健斗の予想は正しい。

確かにこのままだと、人類の戦力にはなれるかもしれないが、勇者からは程遠い。勇者を名乗るなら、少なくとも人類最強ぐらいにはなってもらいたい。ただそれは、このまま健斗を戦場に送り出した場合の話だ。

だから・・・・・・


「私が健斗に魔法を教えます。そして、人類が滅びる前に、貴方を勇者にします。」


これは、人類の存亡を賭けたギャンブルだ。私の選択で、文字通り人類の存亡が左右されるかもしれない。

だけど、元々敗戦濃厚であったこの生存戦争において、私にできる事は勇者召喚の儀が選んだ彼を信じることだけであった。きっと彼には、何か秘密があるはずだ。勇者召喚の儀が彼を選んだ秘密が・・・・・・

その日から、私は彼の覚醒を夢見て魔法とガラシオル帝国の帝国流剣術を彼に教えた。


「良いですか、健斗の美しさを追求したような魔法は確かに魅力的ですが、あまり実戦には向いておりません。だから私が、勝つ事だけを意識した剣と魔法の組み立てを教えます。」


「わかった。」


「大事なのは速さです。ほんの少しでも相手よりも速く動いて、敵が対処する前に敵を攻撃することを意識して下さい。」


健斗は魔法の基礎を既に身につけているようであったが、彼には一つ癖があった。それは、魔法を発動する際にできるだけエネルギーロスをしないように気をつけている事だ。それ自体はそれほど悪い癖ではないのだが、戦闘に向いているかと聞かれれば、否と答える。

そのため、私はその癖を直しつつ帝国流剣術を彼に教え込んだ。速さと攻撃の連続性を意識した帝国流剣術を、彼はどんどん吸収していった。


「せっかく膨大な魔力があるなら、それを活かした攻撃を極めた方がいいんじゃないのか?」


「確かに、遠距離戦であれば魔力量の大小によって大きな差が生まれますが、接近戦、特にクロスレンジの内側での戦いでは膨大な魔力量よりも魔法式構築から魔法発動までの速さが重要視されます。まずは接近戦である程度戦えるようになってから、遠距離攻撃や広域攻撃を教えようと思います。」


「確かに近づかれたら終わり、じゃあ弱そうだもんな・・・・・・」


「はい、ですのでまずは健斗の基礎力を強化しようと思います。幸い、お父様の協力を得られたので、魔法は別の方に教えてもらおうと思います。」


私が教えてもよかったが、私はどちらかと言うと、剣術寄りの人間だ。剣術が軸にあって、それを補うために魔法を使っている。

そうじゃなくて、剣も使うが魔法をメインに戦う魔法使いが、彼の魔法の先生に相応しいと判断した。

お父様の協力もあり、既に信頼できる人材は確保してある。


「別の人?」


「はい、ガラシオル帝国を代表する魔法使いに健斗の先生をお願いしました。普段は人を教えるような事はしない方ですが、今回健斗が勇者である事を伝えたところ、快く引き受けて下さいました。おそらく明日には、こちらに着いていると思われます。」


「なるほど・・・・・・」


「無駄話はこれぐらいにして、特訓に戻りましょうか。」


「あぁ、よろしく頼む。」


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どうでもいい話

ちゃんと努力できる主人公です。

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