第15話 別にどうでもいい正体

「やぁ健斗くん、君が来るのを待っていたよ。」


「げぇ・・・・・・」


「ははは、嫌そうな顔をするなよ、新星ニュースター。俺はこれでも、お前の事を気に入っているんだぜ?」


「勝手に言ってろ。」


 出頭命令を回避する方法を考えながら中央区築地にある日本魔法協会を訪れると、有栖川さんと共に一人の男が出迎えた。黒髪のツーブロックにガッチリとした体つきをした男で、初めて見る顔であったが、その身に纏う特徴的な魔力から俺はそれが誰なのかすぐにわかった。


「その様子だと、お互い自己紹介の必要はないようだな。」


「流石の俺も知ってますよ。篠原桜太しのはらおうた、日本に9人しかいないA級魔法師の1人ともなれば流石の俺でも顔と名前は知っていますよ。まぁ、仮面の裏側がまさか現役の日本を代表する魔法師だったとは、思いませんでしたけど。」


「9人じゃなくて10人だ。自分を数え忘れているぞ。」


「そうでした。」


 日本には現在、1人のS級魔法師と俺を除けば9人のA級魔法師が所属している。S級魔法師の顔と名前は機密保持のため、自衛隊所属としか公表されていないが、他の9人については顔と名前が公表されている。

 流石に、固有魔法や住所などは秘匿にされているが、それでもインターネットを開けば情報なんていくらでものっている。例えば生年月日や出身地程度なら、魔法協会が公表していたりする。


「それで?どうしてあんたがここにいるんだ?まさか、自己紹介がしたかったわけじゃないよな。」


「俺がここにいたら不味いのか?」


「不味い、俺が不快になる。」


「辛辣だな・・・・・・」


 良い人ではあるのだが、それゆえにウザい。いったい何故この場にいるのか、知らないし興味も無いから、さっさとここから去って欲しいと本気で思った。


「そのぐらいにしておけ、篠原。ふざけていないで、さっさと本題に入ろう。」


「わかりましたよ、有栖川さん」


 有栖川さんナイス、と思いながら俺は用意された席に座った。何が飲みたいか聞かれたので緑茶と答えると、背後に控えていた使用人の1人が俺の前に緑茶を置いた。どうやら、結構な長話になるようだ。


「今日ここに呼び出したのは他でもない、君にある特別任務をお願いしようと思ったのだ。」


「悪いが他を当たってくれ。」


「待ってくれ本条君、これは君にしかできない仕事なんだ。」


『特別任務』というフレーズに、これはまず間違いなく面倒事だなと判断した俺は、席を立とうとしたが、途中で有栖川さんに止められた。どうやら重要性の高い任務なようなので、ますます行く気を無くしそうになったが、仕方がないから話を聞いてあげる事にした。


「わかりました、話しただけは聞きましょう。」


「ありがとう、それじゃあまずはこれを見てくれ。」


 俺がそう答えると、有栖川さんは俺に対して1枚の紙を手渡した。言われた通りに俺はその紙に目を通す。


「マジですか?」


「あぁ、大マジだとも。言っただろ?君しかできない仕事だと。」


「国際親善試合に俺が?」


 その紙には、毎年5月に行われる国際親善試合の日程と、出場する魔法師の名前が書かれていた。そしてそこの日本代表の欄にはデカデカと、本条健斗と書かれていた。

 国際親善試合、簡単に説明すれば国際的な魔法師同士の繋がりを求めて政府主導で毎年開催されているイベントで、各国からトップクラスの魔法師が参加し、その腕を競うイベントだ。様々な競技が存在するが、有栖川さんは俺にメインイベントである『決闘』に出場して欲しいようだ。


「本当は別の魔法師を登場させる予定だったらしいのだが、つい先ほど政府に対して大きな貸しができてな。無理やりねじ込ませてもらったよ。」


 有栖川さんは得意げにそう答えた。どうやら、今日の昼間の一件で大きな弱みを持った日本政府に対して、最も注目されるメインイベントの日本代表を俺にしたのだろう。

 正直、余計なことをしやがってという感想しか出てこなかったが、グッと堪えて話の続きを書く事にした。


「でも、どうして俺が?」


「私が君のA級昇格を大々的に発表したとはいえ、君の知名度は残念ながらまだまだ低い。そこを何とかするために、国際的に注目が集まるこのイベントに君をねじ込んだというわけだ。上手く活躍できれば、君は明日から有名人だぞ。」


「俺、頼んでいないですけど・・・・・・」


「はっはっはっ、良かったじゃないか新星、良いチャンスだ。」


 篠原はそう言いながら笑うと、俺の肩をパンパンと叩いた。この変なノリ、正直辞めてほしい。


「あの、キャンセルとかは・・・・・・」


「よほどの事が無い限り変更はもうできない。既に全世界に対して正式に発表してしまったからな。これで急遽変更となれば、もちろん国民は黙っていないだろうし、世界中から非難されてしまう。」


「道連れということか・・・・・・」


「あぁ、それから親御さんへの連絡の方は安心したまえ。既に君のお母様には、君が国際親善試合のメインイベントで活躍する事を伝えてある。」


「ぐっ・・・・・・」


 どうやら、断る道は完全に塞がれてしまったやうだ。葉子さんが観にくる以上、活躍しないわけには行かない。

 というか、これ今月末の話じゃん。急すぎでしょ。


「有名になる事は悪いことだけじゃない。実力が認められれば、ちょっかいをかけてくる奴が減るぞ?ちょうど君が、今嫌そうにしている男のような。」


「それはありがたいな・・・・・・」


 デメリットばかりに目が行っていたが、案外悪くないかもしれない。

 でも・・・・・・


「でも俺、学生のうちは任務受けなくて良いって取り決めでしたよね?」


「これは任務じゃない、断れないお願いだ。」


「はぁ・・・・・・わかりました。やります。」


 結局、俺は受けることにした。有栖川さんの事だ、他にも思惑がありそうな話であったが、そこは気にしない事にしよう。

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 どうでもいい話

 篠原、何で来た?

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