第14話 目的と手段
「あいつ、そう言えば名乗らずに去っていったな・・・・・・」
北西方向へと去っていく謎の男を見つめながら、俺はそんな事を考えた。追いかけようかとも考えたが、追いかけた結果さらに面倒な事態になったら嫌なので俺は追うのを辞めた。まぁ今のところ、あの男の正体には一ミリも興味無いし、わざわざ正体を知る必要性は全く無い。
そんな事を考えていると、耳に付けていたインカムから、ロリ先輩の声が聞こえた。
『あーあー、聞こえてる?本条君。聞こえているなら、耳に手を当てて返事をして。』
「あぁ、聞こえているぞ。どうかしたか?」
言われた通りに耳に付いたインカムに手を当てると、再びロリ先輩の声が聞こえて来た。
『たった今、日本魔法協会から連絡が入りました。日本政府から、任務中の偶発的な事故により、何人かの所属魔法師が育成学校の敷地内に侵入してしまったと、連絡を受けたそうです。』
「お客さんは政府の犬だったか。それで?日本魔法協会は何て?」
『日本政府の発言を了承し、私たちに対して武装解除命令を発令しました。』
「そうか・・・・・・」
あっぶねー調子に乗ってあの男をボコボコにしなくて良かったー。
多少の裏取り引きはあったと思うが、今回の件はあの男の言った通りに無かった事になった。つまりあの男達は、日本政府直属の魔法師という事になる。
どうやら、あの時追いかけなかった俺の判断は正しかったようだ。あそこで攻撃していたら、日本政府に喧嘩を売った事と同じ事になる。そうなれば、より面倒な事になっていたのは間違いないだろう。
『それと、日本魔法協会から本条君に出頭命令が出ています。』
「げっ・・・・・・」
『おそらく今回の件の事実確認だと思いますが、授業が終わり次第向かって下さい。』
「ちっ、わかったよ。」
気は乗らないが、命令なら仕方ない。授業が終わり次第、魔法協会本部に顔を出すか。
「ところでこれ、給料とか出るのか?」
『おそらくですが、出ないと思います。文字通り、無かった事になったので、おそらく業務の一つとして処理されると思います。』
「後で文句言ってやるか・・・・・・」
『それがいいかと。』
とりあえずは一件落着となった。幸い、人的被害はゼロ、被害らしい被害は、俺とあの男の戦闘の余波で施設に少し傷が付いた程度だろうか。まぁこの程度ならば、修復系の魔法を使えば数十分で直す事ができる程度であった。
そんなわけで、午後からは普通に授業が再開した。ちなみに俺も免除されるような事はなく普通に授業を受けた。いつも通り、全く頭の中には入って来なかったが・・・・・・
*
首相官邸
「まずは報告を聞こうか。」
「報告なら、部下の方から既にしたと思ったが?」
「報告は既に読んだし、内部からの報告も読んだ。その上で、お前の報告を聞きたいと思ったから呼んだのだ。有栖川の奴はS級になれるかもしれない逸材と評価していたが、率直に聞こう、どうだったのだ?」
彼は、自身の懐刀である男からの報告を心待ちにしていた。突如、ここ日本に現れた新星、次世代の魔法師育成に悩まされていた日本にとって、まさに棚から牡丹餅のような展開であった。政府所属の魔法師にする事は、残念ながら魔法協会に先を越されてしまいできなかったが、それでも日本の戦力として頼もしい限りであった。
そこで今回は、その次世代の魔法師の実力を測るために、わざわざ懐刀を送り込んだというわけだ。
「間違いなくA級は超えている。俺の勘が鈍っていなければ、S級に届くかもな。」
「S級だとっ!」
「あぁ、残念ながら全力を引き出す事はできなかったが、それでも強さの一端は実感できた。ドイツの英雄に勝ったという話は、どうやら本当のようだ。」
最初に聞いた時はそんなことがあるはずが無いと否定したが、今日戦ってみた感じあり得ない話では無いと思った。
固有魔法を使わせる事ができなかったので、まだ何とも言えない部分はあるが、それでもA級以上は確定と言っていいだろう。
「そんなにか?」
「あぁ、奴は現代的な魔法の組み立てをする男で、スピードと即効性は完全に俺を上回っていた。もちろんそれだけが全てというわけでは無いが、1対1の戦闘なら全力でやっても勝てる気がしないな。どうやら有栖川の奴は相当な大物を発掘したようだ。」
男は、健斗をそのように分析した。あの戦闘だけでも十分強さは実感したが、さらに固有魔法が加わる事を考えると、まともに戦って健斗に勝つ事は難しいと判断したわけだ。
一体どのような固有魔法を使ってくるのかは想像もできなかったが、それでも強力な固有魔法を持っている事は容易にわかった。
「どうやら、我々が逃した魚は大きかったようだな。」
唯一の救いは、日本国内に留まってくれた事だろうか。日本政府としては、新たなA級魔法師の誕生を認める方針で行くことが決定した。
「仕事の話はこれで終わりにしよう。ところで、美味しい日本酒があるのだが、お前も一杯どうだ?」
「いや、今日は遠慮しとく。この後、用事があるのでな。」
「何処か行くのか?」
「先ほど、ちょっと用事ができてな。」
「そうか、今日は助かった。」
「あぁ・・・・・・」
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