第13話 過去と現代の差
「槍か、それがあんたの得物か?」
「あぁ、お遊びはここまでだ。ここから先は全力で行かせてもらおう。」
先ほどまでとは空気が変わった。男からは闘志が滲み出ており、固有魔法を使ったという事は、少なくともまだ戦闘を続けるつもりなようだ。
一体何処の誰が、どのような目的で俺と戦いに来たのかは知らないが、負けてあげる気は全く無い。2度と俺に歯向かえなくなるぐらいに叩き潰してやろう。
「全力なんて言葉を使っていいのか?負けた時の言い訳が出来なくなるぞ。」
「負ける気など、さらさら無いわっ!」
「そうか、じゃあ教えてやるよ。俺とお前の間には、絶対的な差があるって事を。」
「強がりをっ!」
俺の挑発に上手く乗って来た男は、早速攻撃を仕掛けて来た。確かに速い、速くはあるが想像の範疇だ。槍の動きは常時発動している魔力感知で追えている、込められている魔力も多くはあるが正直言ってこの程度か、といった具合だ。
俺は一歩も動く事なく、手に持った剣で攻撃を弾いた。槍使いへの対処方法はいたってシンプル、直線的な攻撃を剣や魔力障壁で弾いて攻撃を逸らし、体勢が崩れたところを叩く。異世界で何百回、何千回と槍を持つ敵とは戦って来た俺が、今さらこの程度の攻撃でダメージを食らうわけがなかった。
「スピードも重さも全然足りないな。俺にダメージを与えたいなら、もう少しマシな攻撃をしてみろ。」
「ふんぬっ!」
「固有魔法を使っておいて、この程度か。」
「食らえっ!」
相変わらずのパワー全開かつ直線的な攻撃、動かない的に対してなら有効的かもしれないが、当たる気がしないしわざわざ当たる意味もない。
「せいやっ!」
「魔力撃。」
パワーは負けているかもしれないが、スピードはこちらの方が圧倒的に上、だから相手のパワーを利用したカウンター攻撃で敵の動きを封じる。攻撃を繰り出した直後に発生する僅かな硬直、その隙を見逃さずに間合いの内側へと入り込んだ俺は、単純に魔力を込めただけの魔剣で敵を斬った。当然男も、魔力障壁によって自身を硬く守っているが、それを踏まえた上で敵を正面から攻撃する。魔力障壁を突破する事じゃなくて、大きな衝撃を相手に与えるイメージで、体勢を崩す。
「ぐっ!」
「しぶといな・・・・・・」
「こっちはそれが取り柄でな、硬さには自信がある。」
「だが、そちらの攻撃も俺には通用しないようだぜ?」
「流石はあの有栖川にA級と認められただけはある。口は多少悪いが、本当に将来が楽しみな逸材だな。」
男は、俺のことをそのよう評価した。威力はあるようだが攻撃はそれほど早くなく、対人戦はあまり得意では無いように思えたが、この男は自身の防御力の高さでそれを補っていた。そこは、流石は星間戦争を経験している魔法師といったところか、魔力操作技術がかなり高い。
魔力操作、それは簡単に説明すれば体内外の魔力をどれだけ素早く精密に動かす事ができるかの指標だ。これはかつて星間戦争を終わらせた、当時世界最強であった魔法師が編み出した概念で、魔力操作技術が高ければ高いほど、魔法を発動する際のタイムラグやエネルギーロスが少なくなる。そのため星間戦争で活躍した魔法師のほとんどは、この魔力操作技術が高い。
ちなみに現代魔法学では、魔力操作技術よりも魔法発動の速度が重要視されており、魔法は魔法具を使った高速化が主流になった。これは単純に、一撃で敵を戦闘不能に追い込む事ができる魔法を、いかに相手よりも早く打てるかが重要視されたからだ。
そして、スピードと即効性を重視した俺と、威力と持久性を重視したこの男の戦いはまさに、過去の魔法師と現代の魔法師の得意不得意を象徴付けるような戦闘であった。
「どうする?まだ続けるか?あんたほどの実力があるなら、俺とあんたの差は十分に理解したと思うが?」
「俺としてはもう少し楽しみたいところだが、上の連中から撤退を命令して来ている。今日のところは引くとしよう。」
「そうか、中々に楽しめたぜ。」
過去の魔法師に比べて、現代の魔法師の方が有利なのは当たり前だ。地球を守るために威力と持久力を追求して来た過去の魔法師に対して、現代の魔法師は対人戦闘を意識して魔法を組み立てている。不可能とまでは言わないが、大きな差が無い限り過去の魔法師が現代の魔法師に勝つ事は難しい。そのことを、目の前のこの男も気が付いているようだ。
「悪いが、俺の仲間を回収してもいいか?こいつらを連れて帰らないと、後でなんて言われるかわからん。」
「そうか、子守りは大変だな。」
たった今気が付いたが、どうやら明日人達の方も侵入者の撃退に成功したようで、こちらの戦闘が終わるのを待っているのが見えた。
そんな気はしたが、明日人はけっこう強いようだ。
「そう言えば、名前を名乗っていなかったな。」
「名前?不法侵入者が、名前を名乗ってどうする。」
「ははは、違いない。だがこれは、おそらく不法侵入ではなく、任務中の偶発的な事故として処理されるだろうな。」
「なるほど、国家絡みか・・・・・・」
男の言葉に、俺は背後関係を何となくではあるが理解した。国内の組織であれば、この早過ぎる襲撃にも納得がいく。
そして、育成学校に対してもある程度自由が効くとなれば、政府が関係しているとしか思えない。
「ではこの辺で、引かせてもらう。また会えるといいな、本条君」
「俺は1ミリも会いたくないから、2度と来るなよ。」
「ははは、素直じゃないな。」
そう言い残して、男は部下を抱えながらその場を去っていった。どうやら俺は、またもやいいように遊ばれたようだ。
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どうでもいい話
過去の魔法師と現代の魔法師、って表現熱いですよねー
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