第12話 side衣夜

「もしもし、お兄ちゃん?どうかしたの?」


 お昼休みが終わりかけた頃、風紀委員室で事務作業をしていた私のところに、突然お兄ちゃんから通話がかかってきた。


『緊急事態発生だよ、衣夜。人工島内に、侵入者が来たみたい。おそらく目的は健斗の威力偵察、もしくは誘拐だと思うけど、念のため校内に避難警報を出しといて。』


「うん、わかった。」


 昨日のうちにお兄ちゃんから、健斗のA級昇格が正式発表されれば、日本国内外から健斗を狙う様々な存在が、ここ育成学校を狙うかもしれない、という話を聞いていたので、覚悟はしていたが、まさか昨日の今日でやって来るとは思っていなかった。


「全員注目っ!すぐさま学校全体に避難警報を発令してっ!」


「了解、避難警報、発令します。」


「次に、懲罰委員会に侵入者の対処を命令、みんなは生徒達の避難誘導をお願い。」


「「「了解っ!」」」


 事前に、お兄ちゃんと打ち合わせをした通りにそれぞれに命令を飛ばす。侵入者の目的が健斗であったとしても、そうで無かったとしても、この状況への対処は健斗たち懲罰委員会が適任だと判断した。


『良くやった、衣夜。ところで、侵入者たちの魔力は既に掴んでいるね?』


「う、うん、南西方向に5人だよね。」


『正解、僕たちも今からそこに向かって健斗が快く戦えるように手助けをしよう。』


「うん、わかった。じゃあ後でね、お兄ちゃん」


 どうやら私の対応は正解であったようで、お兄ちゃんは私のことを褒めてくれた。風紀委員会メンバーがそれぞれ行動を開始したことを確認した私は、自分もお兄ちゃんの言う通りに侵入者のところへ向かう事にした。一体どのような目標があるのかは知らないが、この学校に侵入したことを、後悔させてあげよう。



 *



「あ、お兄ちゃんっ!」


「やぁ衣夜、思ったよりも早かったね。」


 急いで不審な魔力がある方へと向かうと、同じく現場に向かう途中であったと思われるお兄ちゃんと合流した。既に健斗たち懲罰委員会の方が一足先に到着していたようで、私たちは後からの合流となった。


「どうやら、ピンチなようだね、健斗。」

「風紀委員会委員長として、これは見過ごせないかな〜」


「明日人、衣夜っ!ちょうど良い所にっ!」


 私とお兄ちゃんの姿を見た健斗は、私たちの到着を喜んだ。彼の隣には、懲罰委員会委員長の少女が立っており、どうやら彼女も参戦してくれるようだ。


「俺は正面の男を潰す、みんなは残りの4人を相手してくれ。」


「りょーかい。」

「わかった〜」

「はい。」


「じゃ、行動開始だ。」


 健斗の指示で、私たち3人は正面の男を除く4人を相手にする事になった。人数的には不利だが、敵の実力を把握した上で私たちは負ける気がしなかった。


「衣夜、わかっていると思うけど、アレは使っちゃだめだからね。」


「うん、了解だよ、お兄ちゃん」


「じゃあ、こいつらを殺さないように、無力化しようか。」


「うん!」


 改めて、私たちは敵と対峙した。武器はそれぞれハンドガンが2人とショートソードが2人、実力は全員C級程度だろうか。懲罰委員会委員長の少女の級位が確かC級だったので、健斗たちの助っ人に向かうというお兄ちゃんの判断はどうやら正しかったようだ。


「我々に戦闘の意思は無い。手を出さないのであれば、こちらも君たちを見逃そうと思うがどうだろうか。」


 お兄ちゃんが、お兄ちゃんの愛剣である白色の魔剣を取り出すと、侵入者の1人がそう言った。どうやら、今回の襲撃の目的が健斗である事を隠す気は無いらしく、私たちに対してそんな事を言って来た。


「へ〜、もしかしてだけど僕に勝てる気でいるの?」


「当たり前だ、学生程度に遅れを取る我々ではない。それにお前、よく見たら魔力がほとんど無いじゃ無いか、この程度の実力で育成学校に入れるとは、育成学校のレベルも落ちたものだな。」


「あははっ、あははははっ!」


 男の言葉に対して、お兄ちゃんは男を小馬鹿にするように笑った。私も、釣られて笑ってしまった。

 お兄ちゃんは魔力が無い?この男は何を言っているのだろうか。


「どうした、何がおかしいっ!」


「本当に、僕の魔力が全く無いと思っているの?」


「だって俺には、お前から魔力なんてまったく感じな・・・・・・っ!まさかっ!」


「そう、僕に魔力が無いんじゃなくて、君が感じられないだけだよ。」


「そんな馬鹿なっ!」


「これを見ても、まだわからないかな?」


 そう言うと、お兄ちゃんは自身の魔剣に、惚れ惚れするほど濃い魔力を集めた。それは誰の目から見ても明らかな魔力の塊、男の目にもそれが映ったようで、男はその場で顔を青くした。

 魔力を実際よりも少なく見せる事ならば、難易度はそれほど高くないが、魔力を全く感知させない状態にするには、超高度な魔力操作技術を必要とする。そして、こんな芸当ができる魔法師が、弱いわけがない。


「君たちには、しばらく眠っておいてもらうよ。」


 そこからは、あっという間であった。お兄ちゃんによる一方的な攻撃により、男たちはなす術なく全滅した。それこそ、一歩の反撃を許すこともなく、一瞬で・・・・・・


「お疲れ様、お兄ちゃん」


「ありがと、衣夜。それとごめんね、ちょっとイライラが溜まっちゃって、1人で片付けちゃった。」


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。私はお兄ちゃんのカッコいいところが見れただけで満足だから。」


「あはは、ありがと。」


 剣を亜空間へとしまったお兄ちゃんは、こちらへと戻ってきた。そして、私の事を優しく撫でてくれた。

 一方の懲罰委員会委員長さんは、お兄ちゃんの活躍にとても驚いていた。そういえば、お兄ちゃんがまともに戦っているところをこの学校の人に見せたのは、彼女が初めてかもしれない。


「しゅ、収納魔法までっ!藁科明日人、前から強いって言われていたけど、こんなに強かったなんて・・・・・・」


「健斗には秘密にしておいて下さい。そっちの方が面白いので。」


「は、はい、わかりました、黙ってます。」


「じゃあ僕たちは、特等席で健斗達の観戦でもしているか。」


「うんっ!お兄ちゃん」


 ______________________________

 どうでもいい話

 輪廻視点の予定でしたが、急遽衣夜視点になりました。

 ちなみに彼女は六道輪廻の名前を覚えておらず、いつも役職呼びをしています。それと、ブラコンです。

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