第7話 小さな先輩

 その後、色々な事が決まった。例えば俺の地位、今日付けで俺は正式なA級魔法師の称号を貰い、魔法協会所属の魔法師となった。どうしてこんなに早く正式認定されたのかというと、有栖川さんがこうなる事を予想して色々な所に手を回していたからだ。

 もしかしたら、俺は結構チョロかったかもしれない。だとしたら少しだけ、いやかなりショックだ。

 そして交渉を終えた俺は、A級魔法師としての初めての仕事をこなすために、ある場所へと向かっていた。


「着いたぞ、ここがA級魔法師様がご所望の部屋だ。」


「やめて下さいよ、先生」


「私はB級だからな、A級魔法師様には自然と頭が下がってしまうんだよ。許せ。」


「やっぱり断ればよかった・・・・・・」


「あの男は、一度やると決めた事は絶対にやり遂げる男だ。残念ながら、お前がどう頑張っていても、こうなる未来は変わらなかっただろうな。」


「どっちみち詰んでいたという事か・・・・・・」


「そういう事だ。」


 思えば向こうの世界にいる時も、交渉事は全て勇者パーティーの仲間、もっと言えばシーナに任せていた。よって、俺が交渉下手なのは仕方がない、はずだ。とりあえず、今はそういう事にしておこう。

 まずは目の前にある問題を解決する事にしよう。


「あとはわかるな?」


「はい。」


「じゃあ私は仕事が残っているから、そろそろ戻るとしよう。」


 そう言うと、桐山先生は俺に背を向けて去っていった。1人になった俺は、自分をその場で落ち着かせた。

 俺は改めて部屋の扉を見つめる。一見普通の教室に見えるが、扉の上にあるディスプレイには、大きな文字で『懲罰委員会』と書かれていた。はっきり言って、面倒事の予感しかしない。

 俺は覚悟を決めると、ゆっくりと扉をあけた。


「六道って奴はいるか?」


「へぇ?!わ、私、六道ですけど・・・・・・」


 最初が肝心だ、舐められないようにしないと、と思いながら俺が目的の人物の名前を呼ぶと、栗毛色のショートヘアの小学生ぐらいの女の子が声をあげた。おそらく俺が探している人物の妹だろうと判断した俺は、彼女に自身の姉の居場所を尋ねた。


「お前の姉は何処にいる?」


「い、いないです?」


「そんなはずはない。六道輪廻りくどうりんねという3年生がここに在籍していると聞いたが?」


「私が六道輪廻です。ほら、見て下さいこのリボンっ!3年生である事を表す黄色ですよっ!」


 そう言いながら、目の前に立つ少女は自身の制服に付いたリボンを指差した。てっきり妹さんかと思ったが、どうやら彼女が俺の探していた相手らしい。とてもこの学校の3年生には見えないし、むしろ小学生3年と説明された方が納得できるが、施されている魔法式から推測するに制服は本物だ。つまり彼女は、嘘をついていない事になる。


「へぇ〜そのリボンによって、学年がわかるのか。そーいえば、スキンヘッド先輩のネクタイも黄色だったな。ブラザーは俺と同じ赤だったけど。」


「貴方、2年生なのにそんな事も知らないんですか?!」


「こちとら、転校2日目でな、学校の事はよく知らないんだよ。」


 考えてみれば、俺はまだ転校2日なのだ。もう、2ヶ月分ぐらいのイベントは消化した気がするのに、全く休みにならないのは何故だろうか。誰かに時間を操られているとしか思えない。


「二日目!じゃあまさか、貴方が噂の転校生?!」


「まぁ多分、そうじゃね?」


 目の前の少女は、驚いた顔をしながら声をあげた。どうやら、俺の正体に気がついたようだ。まぁ、あれだけの騒ぎを起こしたのだ、知られていてもおかしくない。


「はぁ、じゃあお姉さん教えて差し上げます。」


「お姉さん?」


「何か?」


 俺が思わず呟くと、凄まじい剣幕で彼女は俺の睨んだ。どうやら、小さく見られたのがお気に召さなかったらしい。というか、小学生と間違えた件は良かったのかよ。


「気を取り直して、私達の制服の色とネクタイやリボンの色にはそれぞれ意味があるんです。具体的には、制服の赤は育成学校東京校の生徒である事を表していて、ネクタイとリボンの色は青が1年生、緑が2年生、黄色が3年生、紫が4年生を表しています。だから、同じ学校の生徒なら、制服とネクタイやリボンを見れば、その生徒の学年がわかるんです。」


「へぇ〜それぞれ自由だと思っていたぜ。」


 ロリ先輩曰く、育成学校の制服は学校毎に決められており、東京校は赤色、名古屋校は青、大阪校は黄色といった感じに色が振り分けられており、学年に関してはそれぞれの学校によってバラバラらしい。

 思えば俺は、この学校の事をあまりにも知らな過ぎる。これも一重に、教える役を担った明日人が悪い。


「いや〜助かったよ。疑問に思っていた事が色々と解決した。」


「そ、そうですか・・・・・・。普通なら、入学する前に自分で調べる事な気がしますが、まぁいいでしょう。」


「何か言ったか?」


「いえ、何も・・・・・・」


 そう言うと、ロリ先輩はわかりやすく視線を逸らした。何かはわからないが、思うところがあるのだろう。


「そんな事よりも、ここに来た目的は何ですか?本条くん」


「あぁ、そうだ、忘れてた。日本魔法協会会長、有栖川武尊からの司令書があんたに届いている。」


「へぇ?!有栖川さんから?!」


「ほらよ、今読め。」


「う、うん。」


 そう言いながら、俺は先ほど有栖川さんか渡された封筒をロリ先輩に手渡した。彼女が封筒の封を開けて、中の書類を取り出したタイミングで、俺は彼女に内容を告げた。


「六道C級魔法師がその書類に目を通した現時刻をもって、俺、本条健斗は懲罰委員会の一員に加わる事とする。」


 俺は有栖川さんから、懲罰委員会の一員となって育成学校の治安維持と防衛に当たって欲しいと言われた。ただし、そこにはあるオプションがあった。


「なおこの命令は、君のこれまでの活躍を考慮し、君の判断で拒否できるモノとする。」


「と、いうわけだ六道。A級魔法師として命令する、さっさとお断りの返事を書いてくれ。」


 ロリ先輩のこれまでの頑張りを考慮して、有栖川さんは彼女に選択肢を用意した。俺を雇うか、雇わないか、彼女が雇わないという選択を取れば、俺は晴れて無職になる。

 ここは、何が何でも断ってもらう方がいい。そっちの方がみんな幸せだ。

 だが司令書には、俺の知らない続きがあった。


「なお、本条がA級魔法師の地位を使って変な事したらすぐに教えてくれ。然るべき手段で、彼に制裁をしようと思う。いい返事を期待する。」


「え?」


 何その最後の文章、俺聞いてないんですけど。然るべき手段って、字面だけで怖すぎるだろ。


「そういえば先ほど、私のことを小学生と間違えましたよね?」


「いや、これはその・・・・・・」


 六道先輩は、再び恐ろしい剣幕で俺のことを睨んだ。もしかしなくてもめっちゃ怒っているのがわかる。


「わかりました、仕方がないので聞かなかったことにしてあげましょう。」


「ふぅ・・・・・・」


「その代わり、貴方には今日から懲罰委員会の一員として働いていただきます。」


「え?」


「有栖川さんにはそのように伝えておきますね。」


 嘘やん・・・・・・

 ______________________________________________

 どうでもいい話

 私の通っていた学校は、懲罰委員会どころか風紀委員会や部活動連合会すらありませんでした。生徒会はあったけど。

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