第6話 自分の道

「やあ、初めましてだね、本条君。私は日本魔法協会会長の有栖川だ、って流石に知っているかな?」


「はい、存じておりますが・・・・・・」


 日本魔法協会会長ー有栖川武尊ありすがわたける

 戦時中は日本魔法協会所属のA級魔法師として最前線で活躍し、終戦後は魔法協会会長に就任して活躍している。彼は、名実共に日本の魔法師の頂点に立つ男だ。年齢は確か45歳だったはずだ。


「だったら話は早い。単刀直入に言おう、私は君を日本魔法協会にスカウトしようと思う。」


「っ!」


 案内されたのは、異世界の王城クラスの豪華な部屋であった。流石は特別応接室だ、部屋全体から無駄な高級感が溢れている。部屋の中央に置かれた特別豪華に作られた椅子には、黒を基調とした魔法協会の制服に身を包んだ男が座っていた。何度も見たことのあるその顔から、彼が有栖川武尊であることはすぐに分かった。用意された椅子に俺が座ると、目の前に座る有栖川は愉快そうに話し始めた。


「スカウト、ですか?」


「あぁ、引き抜き、ヘッドハンティング、一本釣り、呼び方は何でもいいが、意味はわかるだろ?君には日本魔法協会の一員となり、この国の明日を担う人物になってほしいと考えている。」


「俺、いや自分を・・・・・・」


「いつもの口調で構わないよ、無理に敬語を使われてもバレバレだ。」


「うっすみません。」


「ははは、こうして話していると、とてもあのような事を成し遂げた魔法師とは思えんな。ただの高校生と言われても納得ができる。」


 有栖川は、愉快そうに笑った。確かに、俺は日本の英雄とまで言われた人物を目の前にして凄く緊張しているようだ。あっちの世界でも、王族やら賢者やらと会話する機会は何度かあったが、その時よりも確実に緊張している気がする。


「まぁ、内に秘めたその魔力を見れば、君が紛れもない強者である事は理解しているけどな。」


「っ!」


「驚いたか?これでも戦時中は、最前線で宇宙からの侵略者と戦っていたんだ。腕は鈍っているかもしれないが、目は冴えているつもりだ。そして私は君を、少なくともA級に推薦するつもりだ。」


「俺が・・・・・・A級?」


「あの、ゲルマンの雷神を圧倒したんだ。それぐらいの級位は与えられてもおかしくないと思っている。私自身は今すぐにでも級位を与えたいところだが、規則としてどの組織にも所属していない一般人には与えてはいけない決まりになっている。まぁ、級位を悪用されたら困るからな。」


「なるほど、それでスカウトを・・・・・・」


「そういうことだ。君には是非とも我が魔法協会に所属してもらい、この国のために力を貸してほしいと考えている。」


 魔法師には一番上のS級からE級までの6段階の級位が存在しており、A級魔法師ともなれば国家の戦力として数えられる最小単位だ。つまり有栖川さんは、俺を国家の戦力として加えたいのだろう。

 もちろん、A級魔法師になる事は俺にも多くのメリットが存在する。例えば、何か面倒ごとに巻き込まれた際には魔法協会や政府が後ろ盾になってくれるし、給料や手当てだって振り込まれる。

 ただその代わりに、魔法協会所属の魔法師ともなれば、魔法協会のために仕事をしなくてはならなくなる。例えば要人の護衛や、警察だけでは対処できない凶悪犯の確保、他にも有事の際は魔法協会の指揮下に加わり、この国やこの星を守るために行動しなければならない。まぁ、有事となれば俺も力を貸すこともやぶさかではないが、できるなら面倒ごとには関わりたくない。少なくとも学生の間は、学生でいたいという思いがある。


「何か不満があれば言ってくれ、まだ学生ということもある、できるだけ君に寄り添うつもりだ。そうだな、例えば学生のうちは有事の際を除いて君に何かを依頼することはないように取り計らう予定だ、まぁ育成学校の防衛ぐらいは任せるかもしれないが、遠征や護衛の依頼などは免除しよう。。それと、親御さんへの配慮も約束しよう。君が何を望むかは知らないが、先ほども言ったができる事は何でもするつもりだ。」


「そんなに寄り添ってくれるんですね。」


「当たり前だ。なんせ君には期待しているからな。」


「は、はぁ・・・・・・」


 さてどうしようか。

 正直、ありがたい話ではある。俺が魔法協会に就職したとなれば、きっと俺の最も大切な人である葉子さんは喜んでくれるだろう。再び戦争が起きない限り、将来は安泰だし。A級魔法師になれば、年収は億を軽く超えると言われている。これだけのお金があれば、葉子さんに恩返しができるはずだ。まぁ、あの人ならばそんなお金は要らないと断るかもしれないが、今の俺にできることはおそらくそれぐらいだ。


「私は君がどの道を選んでも尊重するつもりだ。ただ、遅かれ早かれ君が我が国の戦力として頭角を表すのは避けられないと思っている。強き者の噂は、こうして知らないうちに広まるしな。さて、どうする?君の答えを聞かせてくれ。」


「俺は・・・・・・」


 首を縦に振るか、横に振るか、その単純な2択で俺の人生は大きく変わる事になる。日本魔法協会に例の戦闘の事がバレているというのは、政府や自衛隊はもちろんのこと、国外の様々な機関にも伝わっているかもしれないということだ。となれば、俺がこの先厄介ごとに関わるのはほぼ決定事項、ならば、自分の道は自分で決めたい。


「俺は魔法協会に入ります。」


「そうか、良い返事をありがとう。これから、長い付き合いになると思うが、よろしく頼む。」


 その場で立ち上がった有栖川さんは、俺に握手を求めた。


「これから、よろしくお願いします。」


「あぁ、君には大いに期待している。」


 この選択が正解だったのかはわからない。だけど、間違いではない気がした。


 ______________________________

 どうでもいい話

 少し硬いお話でしたが、布石設置回だと思ってくれれば。

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