第18話 sideシーナ
『ここは何処なんだ?』
『ここはガラシオル帝国、そして私はその帝国の皇女シーナ・フォン・ガラシオルでございます。』
私たちの出会いは、それほど良いものでは無かった。
勇者召喚と言えば聞こえはいいが、やっている事はただの誘拐と何ら変わらない。運悪く選ばれてしまった勇者に人類の未来を託して魔王討伐の旅に送り出すというものであり、私はその禁断の儀式を行ってしまった。
『大変申し上げにくいのですが、貴方様は勇者召喚によって我が国に呼び出されました。』
『は?』
私が彼を無理やりここに呼び出した事を彼に伝えた時の顔をこの先一生忘れる事はないだろう。
『ど、どういう事だよ、それは。』
『私たちは魔王を討伐するために、勇者召喚の儀を行いました。そしてその結果、貴方様がこちらに呼び出されたという事です。』
『じょ、冗談だよな・・・・・・』
『冗談ではございません。混乱されるのは分かりますが、私は真剣でございます。』
『っ!』
『私たちでは魔王に対処する術が無く、勇者召喚の儀をするに至りました。』
できるだけ混乱させないように配慮しながら、私たちの国が置かれた状況を説明した。この大陸は現在、魔王軍からの侵略を受けていた。人類の国家は連合を組んで魔王軍に対抗していたが、今のところ連戦連敗ついには魔王軍の上陸を許してしまった。陸地での戦争も負け続きで、既に2つほどの国が滅んでいた。このまま、この状況を打開するための何らかの手段、それこそ勇者でも現れない限り、ここガラシオル帝国がやられるのも時間の問題だろう。
私たちは、切り札を欲していた。そこで、私はガラシオル帝国に伝わる禁術、勇者召喚の儀を行ったのだ。そして呼び出されたのが、目の前の少年というわけだ。
『貴方様だけが頼りなのです。どうか、人類の希望になって頂けないでしょうか。』
『それで?俺が元の世界に帰る方法はあるんだろうな。』
『魔王を倒せば、帰られるようになると言われています。』
確証はないが、言い伝えではそう言われている。過去に召喚された勇者の文献は、残念ながら残っていないが、そのような言い伝えは確かに存在した。
『少し、考える時間をくれないか?』
『分かりました。護衛を1人付けますので、何かありましたら、そちらにお願いします。』
『あ、あぁ。』
1人で考える時間も必要だと判断した私は、それで部屋から出た。そして、ある準備をした。
*
『お待たせ致しました。』
『シーナ様、だよな・・・・・・』
『先程まではこの帝国の皇女として接していましたが、今からはただのシーナとして接して下さいませ。』
城下町に遊びに出ても違和感の無い服装へと着替えた私は、再び彼の元へと戻った。信頼できる部下に任せようかとも思ったが、ある理由から私はそう選択しなかった。
『あ、あぁ、わかった。とりあえず、城下町を案内してくれないか?』
『はい、お任せください。』
私はその後、彼に城下町を案内した。これでも大陸一の都と呼ばれているほど大きな都市であり、帝都は今日も多くの人々で賑わっていた。私は城下町を案内しつつ、彼と情報交換を行った。
彼の名前は本条健斗と言うらしく、地球という星の日本という聞いたこともない国からやって来たらしい。彼は、現地では学生と呼ばれる存在であり、ここ帝都の数倍の大きさを持つ東京という都市に住んでいたそうだ。
にわかには信じられない話も多くあったが、彼の話す東京という都市に一度でいいから行ってみたいと思った。
色々なところを周り、色々な物に触れた私たちは、最後に街全体を見渡せる丘へとやって来た。
『いかがでしたでしょうか・・・・・・』
『良い街だった。きっと、上に立つ人が良い人なんだろうな。』
『ありがとうございます。』
正確には、私では無くお父様がこの国の代表ではあるが、私も嬉しい気持ちになった。
話してみてわかったが、彼はとても感じの良い人だった。親切で丁寧で、そして何よりお人好しで。私は、彼のその性格を利用した。
『お願いします、健斗様。どうか私たちにお力をお貸し下さいませ。』
『・・・・・・』
『私にできる事ならば何だってしますっ!だからどうか!』
私は深く頭を下げてお願いした。それぐらい必死だった。なんせ、この結果次第で、人類の存亡に大きく関わるのだ。
『わかった。』
『っ!』
『俺で良ければ力を貸そう。正直、俺が力になれるかはわからないけど、でも救える命があるなら救ってみせる。』
『ありがとうございます、健斗様』
『それと、俺の事は健斗でいいから。そう呼んでくれ。』
『はい、健斗。これからよろしくお願いしますっ!』
どうして彼が、私のお願いを引き受けてくれたのかはわからない。だけど私はこの時、彼に人類の未来を託すと決めた。そして、そんな彼を全力で支える事を決意した。
*
「我が娘よ、どうして呼び出されたかは、わかるかな?」
「はい・・・・・・」
「余に黙って勇者召喚の儀をするとはどういうのは何事だ。」
「魔王を討伐するためにはこれしか方法は無いと、自分で判断致しました。」
私は真剣な表情で、自身の父親であるこの国の皇帝へと説明した。私は、独断で城の宝物庫から勇者召喚の儀に使うオーブを拝借した事への後悔はなかった。
「まったく!アレはそんな都合の良い代物ではないのだ。」
「え?でも、ちゃんと呼び出す事に成功しましたよ?」
「今何と言った。」
「勇者召喚の儀に成功したと。」
私がそう伝えると、お父様は驚いた顔をした。
「まさかこの大陸に、魔王に対処できる実力を持つ者がいたとは、今すぐその勇者とやらに会わせろ。」
「はい、お父様。」
これは後から聞いた話だが、あのオーブはこれまでにも何度か使用された事があったらしい。しかし、今まで一度も召喚に成功した例はなく、成功したのはこれが初めてだそうだ。
いったい何故成功したのか、そして何故健斗が選ばれたのは今でもわかっていない。
きっとこれは、運命だったのだろう。
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どうでもいい話
忙しいと、更新が途切れる事があります。すみません。
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