第17話 sideルーシア2

 作戦は完璧、これで明日の朝、私はとても気持ちの良い朝を迎えれる筈であった。

 だというのに、私は現在想定外の状況に陥っていた。


「スー・・・スー・・・」


 か、顔が!

 健斗の顔が目の前にっ!


 かなり密着した状態で朝を迎え、健斗が慌てる姿を見るという作戦だったのに、魔法の加減を間違えた結果、私は健斗よりも先に起きてしまった。私の計画通りに、彼の顔は今私の目と鼻の先にあり、身動きの取れない状況になっていた。現在の状況を簡単に言えば、かなり不味い状況であると言えた。


「ん〜・・・・・・」


 昨日の夜、健斗の右腕を操作して腕枕した上で、両手で彼を抱きしめながら寝た事が仇となり、手が全然抜けない。もちろん、魔法を使えば無理やり抜く事はできるが、そんな事をしてもし健斗起きれば、私は言い逃れができなくなる。先程から何度か試しているが、全くダメだ。

 私はどうするべきか・・・・・・よし、諦めよう。

 別にわざわざ起こす必要はない、話は単純であった。健斗までが起きるまでの後数分の間、私は健斗の身体を堪能していれば良いのだ。


「い、意外とガッチリしているのね・・・・・・」


 まずは、目の前にある彼の右手を触ってみた。最初にあった時はだいぶヒョロっとした印象であったが、想像よりもずっと筋肉質であり、驚いた。まぁ、あのお父さんとまともな剣で打ち合えるだけのパワーがあるのだ、それを考えればむしろ少ない方かもしれない。


「硬い・・・・・・」


 そろそろこの辺で辞めておこうかと思ったが、興味の方が勝ってしまい私はつい健斗の腹筋を触ってしまった。こちらも腕同様に硬くガッチリしている。思えば、私はお父さん以外の男性の身体を初めて触ったかもしれない。握手ぐらいならばあったかもしれないが、明確に自分から触ったのは間違いなく初めてだ。

 そして、触ってみたいと思っていたところがもう一つあった。それは・・・・・・


「何この魔力回路・・・・・・」


 魔法が使えない旧人類と、魔法が使える、いや正確には魔力を扱える新人類の間には、人体の構造に明確な差が存在する。それが魔力回路、心臓を中心に血管のように体中に伸びており、新人類が魔法を使う事ができる直接の原因である。逆に言えば、魔力回路が無い人は魔力を扱う事ができないので、魔法を使うどころか、魔力障壁すら展開する事ができない。

 また、現代魔法学において、この魔力回路こそが魔法師の才能を決定付ける上で最も重要な部分であり、小学校入学の際に受ける魔法適正検査で入念に調べられる部分であった。


「美しい・・・・・・?」


 私は素直に困惑した。彼の魔力回路を見て一番最初に出てきた感想が、美しいであったかるだ。もちろん普通ならば、そんな感想は出てこない。


「何よこれ・・・・・・」


 健斗の魔力回路は、一言で表すならば異質なものであった。少なくとも、今までに見たどの魔力回路とも全くと言って良いほど違う。不思議な人物だなとは思っていたが、ここに来てさらに不思議さが増した気がした。


「一体何者なのよ・・・・・・」


 改めて考えてみると、色々とおかしい。この時期に転校生がやって来る事も少しだけおかしいが、いきなり学年の中でのトップが集まるAクラスに配属された時点ですごい。

 そして、私のお父さん、アレン=ハーンブルクとの戦闘、あれはまさに神と神の争いであった。これは娘である私の思い込みかもしれないが、お父さんは手を抜いていなかったと思う。もちろん、健斗を殺さないように最低限の手加減はしていたかもしれないが、少なくとも今までお父さんが固有魔法の第2段階を使った上で負けた所を私は見た事がない。

 そして昨日、私はお父さんが初めて負ける所を見た。正々堂々と行われた戦闘、しかも奇策や不意打ちではなく、正面から火力によってねじ伏せられたのは、後にも先にも彼1人だろう。しかも、打ち破ったのは私と同い年の少年、そんな彼は今目の前で気持ち良さそうに眠っている。


「呑気な顔して。」


 正確には睡眠魔法を使って強制的に寝ているのだが、彼はとても気持ち良さそうに眠っていた。とても、昨日の見せたような世界最強クラスの戦闘力をもつ化け物には見えない。

 顔を近づけた私は、彼の耳元でこそっと呟いた。


「本当に、かっこよかったわよ、健斗」



 *



「ん〜」


 しばらくして、私は健斗の魔力が少し揺らいだのを感じた。まさしく、睡眠魔法の効果が切れる前兆、私は素早く目を瞑って彼の反応を待った。


「何だこれ・・・・・・抱き枕?」


 寝ぼけた健斗は、腕の中にいる私をそのまま抱きしめた。私はそのまま、顔を彼の胸板へと押しつけられた。思わず声をあげてしまいそうになったが、何とか我慢した。


「って、もしかしてルーシア!」


 どうやら今のこの状況に気がついたようだ。相変わらず、反応が面白い。


「おい、起きろ、ルーシア」


 身体を揺さぶられるが、起きるわけがない。


「はぁ・・・・・・どうするんだよこれ・・・・・・」


 困ってる困ってる!

 私は健斗の状況に満足しつつ、寝たふりを続ける事にした。

 だが、健斗は私の思い通りには動いてくれなかった。


「よし、寝るか。」


 え?


「ルーシアが先に起きれば、恥ずかしくなって手を離すでしょ。」


 ちょちょっと〜!


 結局、遅刻しそうな時間になってしまったため、作戦は失敗してしまった。

 ただ、収穫はあったので良しとしよう。

 さて、次はどのような作戦を立てようか・・・・・・


 _____________________________

 どうでもいい話

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