第16話 2人の思考

 同部屋生活をする事になった俺たちは、早速家事分担などを決めた。洗濯はそれぞれでやるとして、朝ご飯や夕ご飯、休日なら昼ごはんの当番や掃除当番などを決めていく。そして、ある程度決まった所で2人で学校の課題をやる事になった。というより、誰かの助けが無いと課題を終わらせれる気がしない俺が、ルーシアに助けを求めたといった感じだ。彼女は入学以来、全ての教科でトップを維持し続けており、彼女の教えはとても為になった。まぁ、中学校からやり直したら?と、真顔で言われた時はだいぶ心に響いたけど・・・・・・

 そして、夕食をとり、それぞれ順番にお風呂や歯磨きを済ませた俺たちは、そろそろ寝る事を考える時間帯となっていた。


「ほ、本当に一緒に寝るのか?」


「えぇ、そうよ。」


 目の前に置かれた一つのベッド、今から俺たちはこのベッドを2人で共有する事になる。

 できるだけ考えないようにしていても、自然と想像してしまうのが人間というもので、俺は正直言ってかなり緊張していた。まぁこの状況なら、緊張しない方がおかしいかもしれないが・・・・・・

 幸いなのは、ルーシアの使っていたベッドがそれなりに大きい事だろうか。大の字で寝る事は難しいが、何事も無ければ接触せずに寝る事ができるぐらいには大きい。


「そのわりには、緊張でガチガチのようだが、大丈夫か?」


「仕方ないじゃない!こんな経験初めてだし・・・・・・しかも相手が貴方なんて・・・・・・」


「そ、そうか。まぁそうだよな・・・・・・」


 どうやら、俺と同じでルーシアもかなりに緊張しているようで、いつもよりも顔が少しばかり赤くなっている気がする。

 俺がルーシアの顔をじっと見ていると、彼女はその事に気がついたのか、顔を少し背けた。


「と、とりあえず電気消すか?」


「そ、そうね・・・・・・」


「えっとスイッチは・・・・・・」


「ここよ。」


 部屋の設備や家具の位置を既に把握しているルーシアは、すぐに部屋の電気を消した。現在の時刻は既に午後11時を回っており、途端に部屋は暗くなった。足元を照らすダウンライトと月明かりのみとなり、視覚的な情報が減った。もちろんそれでも、ルーシアの緊張した様子はみてとれた。おそらく、俺が緊張している事も、向こう側は知っているだろう。


「手前側と奥側、どっちが良い?」


「ど、どっちでもいいわ。貴方が好きな方を選んで構わないわよ。」


「じゃあ俺が奥側で・・・・・・」


 言いながら、俺はベッドの上に上がった。このまま2人でベッドを見つめる時間が永遠に続くよりは良いと思ったからだ。先程の戦闘によって、体力をかなり消費していた俺は、本音を言えば今すぐ爆睡してしまいたい気分であった。一般に、魔法師の戦闘継続可能時間はおよそ30分と呼ばれているが、今日は精神的な疲労がかなり蓄積されていた。こうなった原因は、間違いなくハーンブルクファミリーが原因だろう。というか、それしか考えられない。


「寝心地はどう?」


「悪くないな。このまま寝ちゃいそうだ。」


「そう、それは良かったわ。遠慮せずに寝ていいわよ。」


「あぁ、そうさせて貰うよ。」


 そう言って、俺は目を閉じた。ルーシアの持つふかふかなベッドはかなり気持ちがよく、言葉の通りに、今すぐ寝れそうな感じであった。

 目を閉じてしばらくすると、俺の寝るベッドに誰かが乗った感触があった。それが誰なのかは、すぐにわかった。

 試しに目を開けて人の気配がした方を見ると、同じくこちらを覗き込んでいたルーシアと目があった。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「何よ。」


 俺がルーシアを見つめていた事を疑問に思ったのか、彼女は口を開いた。どう答えようか迷ったが、俺は素直に本音を話した。


「別に、お前の可愛い寝顔でも拝もうかなと思っただけだよ。」


「か、かわっ!バカっ!私はもう寝るわ!」


「お、おう、おやすみ。」


「おやすみ!」


 どうやら俺の言葉がお気に召さなかったようで、少し怒りで顔を赤くしながらルーシアはそっぽを向いてしまった。まぁ初日はこんなものか、と思いつつ、俺も寝る事にした。

 これだけ疲れが溜まっていれば、少し目を瞑っていればすぐに・・・・・・


「・・・・・・」


「スー・・・・・・スー・・・・・・」


「・・・・・・」


 寝れん。

 というか、ルーシアはこんな状況でよく寝れるな。

 彼女の可愛らしい寝息は、俺の脳を強く刺激した。部屋は空調が効いていて、これ以上ない寝やすい環境だというのに、俺の隣で気持ちよさそうに寝る彼女の存在はかなりの障害であった。

 ちなみに、自分に睡眠魔法をかけるという事は、あんまりしたく無い。というのも、睡眠魔法は決して万能ではないからだ。明確なデメリットが2つも存在しており、そのうちの1つとして、睡眠魔法を使えば確かにその効果が切れるまで眠り続ける事ができるが、その代わり睡眠による疲労回復の効果が激減するという欠点が存在する。一日の疲れを癒すために寝るというのに、それでは全く意味がない。


「あ、おい。」


「スー・・・・・・スー・・・・・・」


 寝返りを打ってこちらを向いたルーシアは、そのまま俺の右腕に抱き付いた。思わず声をあげたが、もちろん彼女は未だに夢の中であり、起きる気配は全くない。先程と何も変わらず気持ちよさそうに寝ていやがる。

 それどころか、久しぶりにお父さんに会えたからか、嬉しそうな顔していた。


「くっそ・・・・・・」


 諦めた俺は、自身に睡眠魔法をかけて無理やり寝る事にした。どうせ、授業を聞いても何も理解できないのだから、授業中にでも寝るとしよう。



 *



「ふぅ・・・・・・寝た、わよね。」


 私は密かに、作戦の成功を喜んだ。

 睡眠魔法の1つ目のデメリットは疲労が回復しない事であるが、2つ目のデメリットは一度使うと効果が切れるまで起きる事ができないという事だ。もちろん、魔法式に干渉したり、魔力回路にダメージを与えるだったりをして無理やり起こすという方法が無い事もないが、こうなればちょっとやそっとの事では起きない。


「ふふふ、明日の朝が楽しみだわ。」


 身体の体勢を少しばかり変えた私は、その場で自分自身に対して睡眠魔法をかけた。

 これで、朝起きた時も、このままの体勢が維持されるはずだ。


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 どうでもいい話

 100円玉が欲しくてコンビニに行ったのに、買い物上手すぎて500円玉になった

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