第15話 監視の目

 日本魔法協会ー東京本部


「今何時だと思っている?」


「午後9時です。」


「そうだ、午後9時だ。こんな時間に呼び出したんだ、面白い話が聞けるんだろうな。」


 男は、不機嫌な様子で言われた通りに腰を下ろした。現在の時刻を鑑みれば、それが非常識な行動である事はすぐにわかる。だが立場上、非常事態が起きたら帰れないのはいつもの事だと割り切って、少し軽口をたたくだけに留めた。


「はい、まずはこちらをご覧下さい。」


「・・・・・・何だこれは。」


 スクリーンに映された映像を見ながら、尋ねる。


「こちらは、本日の午後6時頃に東京湾冲で撮られた映像です。」


「映っているのはゲルマンの雷神と・・・・・・もう1人は誰だ?これは。」


 見せられた映像には、2人の男が戦っている映像が映されていた。片方は手に持つ金色の剣とそこから弾け出る電撃から、ドイツを代表するS級魔法師である『ゲルマンの雷神』と断定できる。だが、相対する日本人と思われる男は、記憶に無い姿をしていた。少なくとも魔法協会が認定するA級以上の魔法師ではないはずだ。


「この映像とMSS魔力感知システムから推測するに、本条健斗という国立魔法師育成学校に通う生徒だと思われます。」


「故障の可能性は?」


「ありません。我が国が運用する全MSSに同様の反応が見られました。偽装や勘違いの可能性も無しです。」


 表向きに発表している6つのMSSと極秘に運用されている首都防衛用のMSSの両方に同じパターンの反応があった。

 よって、何かの間違いである線は消えたと言っていい。となれば、スクリーンに表示されたとんでもない数字たちも、全て正しい値という事になる。無名の少年が叩き出した数値とは、とても思えない。


「この少年の経歴は?」


「私立月詠小学校を卒業後、ドイツにある私立高校に4年間留学、先週の土曜日に帰国して今日から育成学校に通っております。」


「転校初日から世界の頂点とタイマンを張るとは、とても温厚な日本人とは思えないな。」


 手元の資料によると、小学生時代は温厚な生活であったようだ。だが、ドイツから帰国して2日後にこの騒ぎ、普通じゃない。それとも、ドイツ留学した奴は全員このような性格になるのだろうか。


「経歴におかしな所は?」


「ありません、いたって正常です。強いて言うなら、彼は孤児で親が誰かわからないところでしょうか・・・・・・」


「白か・・・・・・」


 何かあればこの時点でボロが出るはずだが、今のところ怪しい点は無い。

 だけど一つだけ、明らかにおかしな所がある。それは・・・・・・


「ただ、小学校入学の際に行われる魔法適正検査ではDとなっております。」


「少し、いやだいぶ妙だな・・・・・・」


 小学校入学の際に日本では、全ての日本人に対して魔法適正の検査が行われる。

 その目的は大きく分けて2つで、1つ目は防犯のため。魔法の普及によって、世界中で魔法を使った犯罪が激増した。そこで日本では、魔力のパターンから容疑者を探し出すために全ての日本人の魔力パターンを魔法協会で一括管理するようにしている。

 そして2つ目は、日本の未来を担う魔法師の卵を発掘するため。高ランク魔法師の存在がそのまま国家のパワーバランスに影響する現代、才能のある魔法師の卵を見つける事はどの国も競って行っている。ここ日本も例に漏れず、この魔法適正検査によって篩にかけ、未来を担う人材を発掘している。

 これほどの実力、適性検査でSやAを付けられたとしても届くのは難しい。だが手元の資料によると、この少年の適正検査の結果はD、固有魔法が発現して強くなる例はもちろんあるが、流石にS級とまともにやり合えるだけの戦闘力となった例はない。一番伸びた者でも、B級の下位だ。


「凄いな、あのゲルマンの雷神に勝ってしまったぞ。」


「雷神の方も、おそらくですが手を抜いていたわけではないと思われます。その証拠に、雷神は3つ目の固有魔法を行使しようとしていました。」


「間違いないのか?」


「はい、ゲルマンの雷神が使おうとした最後の魔法式、あれはおそらく彼の固有魔法の第三段階です。」


「の、ようだな。そしてこの少年の固有魔法、これはおそらく召喚系だな。」


 固有魔法にはいくつかの種類があるが、この少年が使ったのはおそらく召喚系統だ。召喚系統ならば呼び出した存在によって強さには雲泥の差がある。


「そしてこいつが呼び出したのは・・・・・・」


「簡単に言えば化け物ですね。どの系統にも属さない、おそらく新系統です。近いのはあげるなら天使、いや悪魔系統でしょうか。それも、かなり特殊な・・・・・・」


「そのようだな・・・・・・」


 手を抜いていたかどうかは当事者でないとわからないが、S級魔法師に勝ったとなれば最低でもA級以上、場合によってはS級魔法師への昇格だってあり得る。そうなれば、世界で9人目のS級魔法師の誕生となり、日本は世界単独2位のS級魔法師所属国へと躍り出る。


「留学先の学校から、この少年が固有魔法で覚醒したという報告は?」


「ありません。」


「そうか・・・・・・」


 おかしい所は何もない。だからこそ、この少年の存在は異質に見えた。


「念のため、留学先の学校に連絡を取りますか?」


「いや、いい。」


 映像と魔力感知では、調べられるのはおそらくこれぐらいだろう。もう少し調べれば何か見つかるかもしれないが、記録からわかる事はたかが知れている。

 となれば、取るべき選択肢は一つしかない。


「では、いかがいたしますか?」


「直接会いに行く。明日の予定は全てキャンセルだ。」


「了解致しました。」


 さて、日本の英雄になるか、はたまた世界の英雄になるか、会うのか楽しみだな。


 ___________________________

 どうでもいい話

 こういうエピソードの方が、書いていて楽しかったりします。

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