第13話 少女の願い

 明日人を部屋から追い出す事には成功したが、肝心な所は何も解決していない。ルーシアの父親は未だに血まみれだし、俺の寝床をどうするか問題も解決していない。

 というかむしろ、状況は悪化している気がする。


「おいっ!どーするんだよ!余計に話がややこしくなったじゃねぇかよ。」


「知らないわよ!元はと言えば、貴方がお父さんと戦っちゃったのが悪いでしょ?もっと平和的な解決の手段が!」


「無かっただろ?」


「見つかったかもしれないわ、考えれば。」


 ルーシアは、目を逸らしながら答える。おそらく言いながら、自分自身でも無理だと悟っているのだろう。


「いいや、無いね。電話か何かで学校にクレームを入れるならわかるけど、ドイツからわざわざこの学校に乗り込んで来て、部屋ぶっ壊すような親だそ?まともな判断が下せるとは思えないな。」


「・・・・・・そうね。あの状況じゃ、最善手だったかも。」


 自分の父親の性格を鑑みて、ルーシアは素直に頷いた。どうやら、父親の面倒くささには自信があるようだ。ちなみに、ルーシアの父親は現在爆睡中だ。先ほど、色々と面倒になった俺が、とりあえずの繋ぎとして睡眠系の魔法をかけておいた。普段なら効果は無いが、S級魔法師とて魔力回路がイカれているこの状況なら、対抗は不可能。ルーシアの父親は、ちゃんと夢の世界に旅立った。


「ひとまず、状況を整理しよう。今俺たちが解決すべき問題点は2つ。お前の父親をどうするかと、俺の寝床をどうするかだ。まずはお前の父親は置いといて、後者の方を話そう。」


「わかったわ。」


「まず後者だが、昨日学校の方に1人部屋への変更を要求したが、聞き入れて貰えなかった。」


 特別な理由が無い限り、1人部屋は認めていないらしい。男女で同部屋になってしまう事も指摘したが、結果は変わらず。むしろ学校としては、優秀な魔法師同士が恋人関係になることをむしろ期待しているような口ぶりであった。優秀な遺伝子同士からは、優秀な魔法師が産まれやすいというからだろう。

 俺を育成学校に入学させてくれだ結人さんにも聞いてみたが、帰って来た答えは同様のものだった。しかもこのシステムは長く続いているようで、結人さんが学生時代の頃もあったらしい。ちなみにその同部屋だった女の子が、今の奥さんらしい。まぁ結人さんの場合は、それ以前から交流のある、幼馴染同士であったようだが・・・・・・

 話を戻して、部屋を変えてもらう方法はもう一つないこともない。だけどそれは・・・・・・


「その救済措置として、双方の合意があれば誰かと部屋を入れ替える事はできるようだ。俺の方は、現状この学校に明日人以外の知り合いはいないから無理だが、ルーシアの方はどうだ?」


「いないわ。」


「お前、友達居なそうだもんな。」


 何というか、予想通りの返答であった。


「友達ぐらい私にだっているわよ!馬鹿にしないでくれるっ!」


「例えば?」


「・・・・・・明日人、とか?」


「居ないんじゃねぇか。」


 1人目のチョイスで明日人を選ぶあたり、交友関係の狭さが窺える。しかも図星だったようで、俺の口撃がクリーンヒットした事がみてとれた。わかりやすいな。


「悪い?こっちはお父さんのせいで友達を制限されていて!それから逃げるために日本に来たって言うのに!」


「日本に来てからもう1年間ぐらい経っているだろ?」


「うっ・・・・・・私の話はいいのよ!それよりも、今目の前にある問題を解決するために動きましょ。」


「・・・・・・それもそうだな。」


 確かに、これ以上彼女の傷を抉るのは良くないかもしれない。何だか可哀想に思えて来たし。


「貴方の寝床問題だけど、仕方がないから私のベッドの半分を使っても良い事にするわ。」


「いいのか?俺は別に、リビングに布団を敷くとかでも・・・・・・」


「それはダメ。リビングなんかで寝かせるわけがないでしょ?その代わり、何か変な事したらすぐに斬るからね。」


「お、おう・・・・・・」


 もう少し時間がかかるかと思ったが、案外すんなり決まった。何か色々とおかしい気がするが、ルーシアの中ではセーフなようだ。アウトとセーフの基準がわからん。もしかしたら、ルーシアの方も頭が回っていないのかもしれない。

 そして、より面倒なのはもう一つの方なのだが・・・・・・


「それで、この男への上手い言い訳の方は考えついたか?」


「え、えぇ、一応、良いのが浮かんだわ。」


「もう浮かんだのか。」


「双方にメリットがある未来を、ここに来る途中でずっと考えていたのよ。」


「それは頼もしいな。」


 意外にも、こちらもすんなりと案が出た。ルーシアとしても、けっこう自信があるようで、俺はそれに賭けてみる事にした。自分の父親のことは、よく知っているのだろう。


「どうする?今すぐ起こして始めるか?」


「えぇ、いいわよ。その代わり、貴方は私話を合わせてね。」


「あぁ、それぐらいわかってる。」


 この男をこのままここで寝かしておくわけにはいかないので、その場で起こす事になった。

 俺が魔法を解除すると、ルーシアの父親はすぐに目を覚ました。寝起きのまま交渉に入るわけにもいかないので、ある程度頭が動く段階まで調整しておく。


「おはよ、お父さん。」


「ルー、俺は寝ていたのか?」


「えぇ、でも起きて。話があるの。」


 なるほど、寝起きで頭が働いていない今交渉を仕掛けて、物事をうやむやにする気か、考えたな。俺は、素直に関心していた。確かに今ならば、全てを無かった事にできるかもしれない。


「お父さん、私聞いて欲しい事があるの。」


「あぁ、言ってみろ。俺はルーのためなら何だってしよう。」


 俺は、興味が無さそうなフリをしながらルーシアの言動に注目した。どのような方法でこのバカ親を黙らせるか、少し興味があったからだ。

 だが、彼女の口から出た言葉は、想像とは180度違う内容であった。


「私、彼と婚約したい。」


「「は?」」


 ———————————————————

 どうでもいい話

 何事にも、ちゃんと明確な根拠が存在する、はず。

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