第12話 勝利の影響

「はぁはぁはぁ・・・・・・」


 久しぶりに使った固有魔法を解除した俺は、先ほどの攻撃によって気を失ったルーシアの父親の隣に立った。彼の服は彼自身の血によって真っ赤に染まっており、側から見れば立派な殺人現場だ。


「死んではいない、よね。」


「当たり前だろ?この程度の傷でS級魔法師が死ぬわけないだろ?ほらみろ、もう既に傷の再生が始まっているだろ?」


「ほ、本当だ・・・・・・」


 隣に降り立ったルーシアは、不安そうに俺に尋ねた。

 魔法師ならば、魔力による自己再生は基本だ。流石に、首と胴体が離れたら助からないが、表面を斬られた程度なら数分あれば再生できるだろう。完全に意識を刈り取ったので、あと数時間から十数時間ほどは気を失ったままだろう。


「加減が出来なくてな。あそこで手を抜いたら、やられていたのはこちら側だったかもしれないし・・・・・・」


「それはわかるけど・・・・・・」


 正直なところ、けっこうギリギリだった。固有魔法を使わなかったら、負けていたのはこちら側であっただろう。あの時、ルキフェルが俺に力を貸してくれなかったら、おそらくそのまま押し切られていた。

 と、先程までの戦いを頭の中で振り返っていた俺は、ふとルーシアが俺の方を見つめている事に気がついた。


「どうかしたか?」


「これ、どうするの?」


 言われて、ルーシアが指を指した方を見ると、血だらけになりながら気を失った1人の成人男性が倒れていた。


「・・・・・・どうするか。とりあえず、運ぶ?」


「そ、そうね。」


 互いに顔を合わせ頷きあった俺たちは、ルーシアの父親を仕方がないか学校の医務室に運んであげることにした。



 *



 と、ここで、めでたしめでたしで話が終わればよかったのだが・・・・・・


「俺は、負けたのか?」


「あ、お父さんっ!」


 学校が遠くの方に見えてきたあたりで、ルーシアの父親が目を覚ました。かなりのダメージを与えたはずなのに、こんなに早く目を覚ましたのを見ると流石はS級といったところか、ドイツの英雄は伊達じゃない。流石に、魔力回路にかなりのダメージを受けているようで、魔法の行使はできないようだが、とりあえず意識は取り戻したようだ。

 最初は困惑しているようだったが、全身が血まみれなところと今まで気絶していた事から、どうやら自身の敗北を悟ったようだ。


「ルー、ここは・・・・・・」


「一応、学校の医務室で診てもらおうと思って・・・・・・」


「ルー、辞めてくれ。」


「「え?」」


 思わず驚いた。あんなに親バカなのに、娘の親切心を踏み躙るなんて・・・・・・

 と、思ったが、どうやらそこには正確なロジックがあるようだ。


「俺はこれでもS級魔法師だ。そんな俺が、学校の医務室に血だらけで運ばれてきたら、どうなると思う?」


「あっ!」

「だいぶ不味いな・・・・・・」


 頭の中で、今後どうなるかを想像する。まず間違いなく学校中に広まり、俺は4年生までの3年間を、だいぶ面倒な感じで過ごすことになるだろう。

 というか、4年間だけじゃ済まないかもしれない。

 S級魔法師とは、言うならばその国の顔だ。つまり今回のことは、ドイツに対して喧嘩を売ったということになる。

 最悪、国際問題に発展して・・・・・・

 もうやだ、異世界に帰ろうかな。


「とりあえず、お前たちの部屋に案内してくれ。」


「わ、わかったよ、お父さん。」


 監視カメラなどに映ったら不味いと思った俺は、すぐさま偽造魔法を施した。ついでに、首都防衛用に施されている魔力探知を誤魔化すための偽造もしておいた。念には念を、というやつだ。

 と、そこで、俺たちは重要な事に気がついた。


「ちょっと待て、部屋壊れたままじゃん。」


「そうだった・・・・・・って、あれ?直ってる?」


 部屋が壊されたままであった事を思い出した俺たちであったが、壊れたはずの部屋は何故か元通りになっていた。もちろん、俺とルーシアの仕業ではない。不思議に思いながら中に入ると、私服に着替えた明日人がリビングで出迎えてくれた。


「遅かったね、2人とも、いや3人かな?」


「明日人・・・・・・」


「どんな感じになっているかなと思ってお邪魔したら、部屋が壊れていたから直しておいたけど、何かあったの?」


「た、助かる。ちょっと、色々とあってな。」


 どうやら、明日人が綺麗に直してくれたようだ。どんな魔法を使ったのかは分かたなかったが、かなりの腕前であることが窺える。


「ふ〜ん、まぁいいや。でも、夫婦喧嘩はほどほどにしなよ?」


「「夫婦ちゃうわ!」」

「何っ!夫婦だと?!」


「あんたはもう一回寝とけ。」


 ガバッと起き上がったルーシアの父親に対して、とりあえずパンチをお見舞いしておいた。明日人も変な事言うな。


「詳しいことは明日話すから、とりあえず今日は2人、いや3人にしてくれないか?」


「う、うん、まぁいいけど。」


 そういうと、明日人は「また明日〜」といって出て行った。どうやらあいつは、俺たちが喧嘩をした結果壁が壊れたと勘違いしたようで、対して疑問を持たずに出ていった。

 この状況、どうしよう・・・・・・



 ________________________________

 どうでもいい話

 最近、寝坊が増えた気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る