第11話 ゲルマンの雷神
S級、それはこの世界に8人しかいない世界最強格の魔法師である証明。世界中の魔法師の憧れの的であり、世界経済や国家間のパワーバランスに大きな影響力を持つ存在だ。
既に魔法は、従来の通常兵器やABC兵器に対する圧倒的な優位性を確立しており、原子力空母やステルス戦闘機、核ミサイルの数ではなく、S級及びA級魔法師の数によって国家の戦力が数えられる時代となっていた。
そして、目の前に立つこの男のランクはS、SからEまでの6段階ある魔法師の中の頂点に君臨する存在だ。弱いはずがない。
「おい待て、聞いてないぞ!」
「知っていると思ったからよ!貴方、ドイツに留学していたんじゃなかったのっ?!」
「そういえば、そんな設定だったな。」
確かに、ドイツに留学していれば、『ゲルマンの雷神』の二つ名を持つこの男を知らない者はいない。というか、8人のS級の名前なんて、今時小学生でも暗記している。
「こんな状況でルーを誑かすとは、いい度胸じゃねぇか!」
「誑かしてなんかいないって!」
「どうしてもルーと一緒にいたいのなら!この俺を超えてみろ!」
「無茶言うなっ!というか、人の話を聞け!」
「断る!」
相変わらず一撃毎が重い、そして遅れてやってくる電撃、最初はおまけ程度にしか感じていなかったが、確実にダメージは蓄積されている。
一つ目の固有魔法、確か『雷神の魔剣』は魔剣の顕現だけなら防御が間に合ったが、先ほど使われた二つ目の固有魔法『雷の裁き』、こっちの対処ができていない。完封しようとすると次の攻撃が間に合わなくなるので、できるだけダメージが少なくなるように立ち回ろうとするが、打開策を見つけれずにいた。
「この俺に匹敵するスピードを持っていることは認めよう。だがっ!圧倒的な火力の前では、それも無意味だ!」
だんだんと距離を詰められてはいるが、接近戦が得意なのはこちらも同じだ。火力と手数で劣っている分、スピードとテクニックでゴリ押す。
「こんなところで沈むかよっ!」
「いいや、これで終わりだ。」
「なっ!」
一瞬の判断ミス、戦闘が長く続いたことによって俺の目と脳がルーシアの父親のスピードに慣れ始めていた。それによって、上方向からの重い一撃、今日一番の速さで飛んで来たその斬撃への対応が遅れた。咄嗟のところで反射神経が仕事をしてくれたおかげで直撃を免れたが、攻撃を受け流すまでは持って行くことができず、俺は海に向かって叩きつけられる格好となった。
受け身が間に合わず、まるで自動車に撥ねられたような感覚が全身を襲った。魔力障壁と身体強化がなければ、骨が数本折れていただろう。
有効な対抗手段が思いつかず、このままじゃジリ貧になることを察した俺は、一旦水中に潜り体勢を立て直すことにした。水中なら、動きが制限されるので溜めが作れると判断したからだ。
現状、パワーとスタミナはおそらく向こうの方が上、唯一自信があったスピードの方もほぼ互角、俺に残された手段は・・・・・・
【私の力を使う?】
いいタイミングできやがって。
【このまま貴方が戦う様を眺めていたくもあったけど、向こうは固有魔法を二つも使っているみたいだし、こちらも使うべきなんじゃない?】
そう言われて、使うと思うか?
【思うわ。だって貴方、私と同じで負けず嫌いだもの。】
くそっ、よくわかっているじゃあねぇか。
覚悟を決めた俺は、水中に隠れるのを辞めて海の上へと出てきた。先ほどまで使っていた剣を収納魔法でしまい、ルーシアのいる先ほど張った魔法障壁の上に降り立った。
「獲物を捨てるとは、そろそろ降参でもするのか?」
「健斗・・・・・・」
「全力で自分自信を魔力障壁で覆っておけよ、ルーシア」
「う、うん、わかった。」
剣をしまった事を降伏と受け取ったのか、ルーシアは心配そうに俺の名前を呼んだ。どうして俺が戦うハメになったかは、もうどうだっていい。
目の前に立つこの男に勝つことだけを考えて、俺は言葉を紡いだ。
「全てを無に帰せ
自身の魔力回路に魔力を流し、俺の切り札を顕現させる。空気が震え、よく知る圧倒的なプレッシャーが全体を襲った。
俺が描いた魔法陣は紫色に輝き、周囲の魔力を吸収し始めた。
「固有魔法か。だがこのオーラは・・・・・・」
魔法陣が完成すると、中から最強の堕天使を宿した魔剣を顕現させた。俺は利き腕である右手で、それを取る。細くて長い漆黒の魔剣で、とてつもないほどの魔力を纏った俺の切り札だ。
あれほど強敵だと思っていたのに、今の俺ならば負ける気がしない。
「踊ってやるよ。」
普通、圧倒的な火力と効率を合わせ持つ固有魔法への対抗手段は、同じ固有魔法のみとされている。それだけ強力で、使える者と使えない者に差があるからだ。
「たかが第一段階で!」
「もっと真面目にやろうぜ。」
「舐めるな!」
俺の固有魔法の効果はただ単に、自身の身体強化と魔剣の顕現。
だが、単純であるが故に強い。
わざわざテクニックとスピードの力を使わなくても、単純な火力だけでねじ伏せる。自分で張った魔法障壁を足場にしてバランスを取り、一直線に近づく。
「負けてたまるか!
焦ったルーシアの父親は、さらに上の段階を行使した。ドイツの英雄『ゲルマンの雷神』の奥義にして、必殺技。空間内にいるあらゆる存在に対して、雷の雨を降らせるという魔法。
空間内にいる敵であれば、避けることはできない無敵の一撃と言われているが、俺には効かない。
それを上回る火力で全てを切り裂く。
「まあまあ楽しめたよ。」
固有魔法の魔法式が構築されて、魔法が発動するまでの一瞬の隙を、魔法障壁を蹴って一瞬で近づき、そのまま切り裂いた。固有魔法の行使にはかなりの集中力を必要とする、そのためルーシアの父親の反応が間に合うはずもなく・・・・・・
「終わった・・・・・・」
ルーシアの父親の意識を完全に刈り取ることができた。
俺の勝利だ。
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どうでもいい話
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