第10話 怒りの矛先

「コロス!」


「嘘だろっ!ぐっ・・・・・・」


 どうして俺は、貧乏クジを引いてばかりなのだろうか。この世に運命というものが存在するとしたら、俺は運命にいたずらされているのだろうか。それとも、これが俺に課された運命だというのだろうか。


「このクズ男め!」


「施設を壊すなっ!こっちは転校初日なんだぞ!」


 ルーシアの父親は、周りの事など全く考えずにこちらへと飛んできた。怒り狂ってはいるが、速さそして魔法の正確さはともに一級品、この男の攻撃は確実に俺の急所つまり首へと飛んできた。下手に避ければ、この学生寮どころか、学校の施設に甚大な被害をもたらす恐れがある。

 この状況で、施設を守りつつ戦うなら方法は一つしかない。


「ちょっとこっちに来てくれ。」


「え?」


「早くしろっ。ここを破壊されずにお前の親父を止めるなら、方法は一つしかない。」


「あ、ちょっと!」


 今回のキーであるルーシアをこちらへと引き寄せた俺は、彼女とともにその場から飛び出した。


「娘から離れろっ!」


「先にその殺意の方をどうにかしてもらおうか。」


 俺はルーシアを抱えると、そのまま部屋を飛び出した。空気中に設置した魔力障壁を足場にして、全速力で海を目指す。幸いここは東京湾のど真ん中なので、ちょっと走ればすぐに海に出ることができる。

 あのバカ親の方は・・・・・・


「・・・・・・順調に追って来ているようだな。」


「ごめんなさい、私のお父さん、少しいやだいぶ親バカなの・・・・・・」


「そんなもん、見なくてもわかるよ!それよりしっかりと掴まっておけ。」


「う、うん・・・・・・」


 ルーシアという重り、いや護衛対象を抱えている分、スピードは向こうの方が上、おそらくあと数十秒ほどで追いつかれてしまうだろう。だからそれまでに、できるだけ被害が少ない場所へと移動することを目指した。


「ここら辺でいっか。」


 十分に距離が離れた事を確認した俺は、地面に少し大きめの魔力障壁を張り、その上に降り立った。そして、先ほどまで抱えていたルーシアをその場に立たせた。


「ほ、本当にやり合うつもりなの?」


「アレを見てみろ、事情を話せば許して貰えそうに見えるか?」


 そう言って俺は、俺たちを追ってやってきたルーシアの父親を指差した。ルーシアの父親は相変わらず怒り狂った表情をしており、人を1人か2人、いや数百人単位で殺していそうな目をしながらこちらを睨んでいた。

 これだけ飛べば、夜風で頭を冷やして正気に戻ってくれないかなと期待していたが、現実は甘くなかった。

 怒りは以前よりもましており、もはや聞く耳を失っているようであった。


「・・・・・・無理そうね。」


「だろ?だからせめて、被害が最小限になるように場所を移動したってわけだ。ここなら、暴れても環境保全の人たちに怒られるだけで済む。」


「漁師さんにも迷惑がかかるわよ。」


「後で謝っておくよ。」


「私も一緒に謝るわ。」


 俺とルーシアの考えは一致した。許しを請うのではなく、戦いを挑み引き分けでもいいからルーシアの父親を戦闘不能に追い込む事を目指した。

 あとは、少しでもいいからルーシアの父親の情報があると楽に戦えるが・・・・・・


「さぁ来たぞ・・・・・・」


 見るからに怒り狂ったルーシアの父は、俺から300mほど離れた海の上で止まった。俺がこれ以上逃げないと判断したのか、己の武器に魔力を込め始めた。俺も対抗して、異世界で愛用していた滅紫色の長剣を取り出した。


「あの、健斗?」


「なんだ?」


「私のお父さん、お母さんが戦争で亡くなっちゃってから、ずっと私を男手一つで育ててくれたの。だから、私への愛が重すぎる所があって・・・・・・」


「そんな事が・・・・・・」


 先ほど、バカ親だのクズ親だのと言ってしまったが、少し納得できる部分はあった。俺は娘どころか結婚すらしていないが、この男にとってルーシアはそれこそ自分の命よりも大切なのだろう。


「でも、絶対に勝ってね。私、信じているから。」


「え?」


 まさかそんな事を言われるとは思わなかった俺は、思わず視線をルーシアの方へと向けてしまった。この事を言い訳にしたくはないが、その隙を突かれて回避できない距離まで近づかれた。


「よそ見とは、いい度胸だなっ!」


「したくてしたいわけじゃないよ!」


 咄嗟の反応が間に合った俺は、自身の剣で敵の一撃を弾く。結構危なかった、あとゼロコンマ数秒遅れていれば、今頃致命傷であっただろう。異世界にいた頃の癖で、常に全身を魔力障壁で囲うようにしているが、それでは防げそうにない。

 油断できない相手であることは魔力の質や流れからなんとなく理解していたが、この男は想像以上だ。どうやら、ただの親バカなおっさんというわけではないようだ。スピード、パワー、魔力、戦闘センスはどれも一級品、少しでも気を抜けば負けるのはこちらだ。


「ほう、今のを耐えるか。貴様、ただのクズというわけではないようだな。」


「そっちこそ、ただのストーカーというわけではないようだな。」


「この俺をストーカー呼ばわりとは・・・・・・コロスっ!」


「やべっ!」


第二段階セカンド・ステージ雷の裁きライトニング・ジャッチメント>」


 短な詠唱、その特徴的な言葉の紡ぎから、俺はすぐにそれが固有魔法であることがわかった。どうやら、ここからはガチで俺とやり合うようだ。

 攻撃が先ほどよりもずっと速く、そして鋭くなった。一撃ごとの攻撃がかなり重く、先ほどよりも余裕がなくなった。


「余計に怒らせてどうするのよ!」


「くそっ魔力障壁!」


「無駄だ!」


 先ほどまでは防げていた魔力障壁が、まるで紙屑のように貫通された。

 同時に、剣が帯びていた電撃を正面からくらった。魔力障壁のおかげで出血はなかったが、数mほど後ろに吹き飛ばされた。

 流石固有魔法、パワーとスピードの上がり方が尋常じゃない。


「いってぇ・・・・・・」


「だ、大丈夫?」


「あぁ、何とかな。それにしても強すぎるだろ、お前のお父さん。いったい何者だよ。」


 素直に強い、というか強すぎる。絶対に普通のお父さんじゃない。まず間違いなく、どこかの軍隊だったり魔法師協会だったりの人間だろう。

 そんな予想を立てていると、返ってきた答えは予想以上のものだった。


「私のお父さんの名前はアレン=ハーンブルク。ドイツ魔法協会所属の魔法師で、全て魔法師の頂点の証であるS級の称号を持つ世界最強の一角よ。」


「それを先に言えよ・・・・・・」


 __________________________________


 どうでもいい話

 30度を涼しいと感じる今日この頃。

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