第9話 布石とヒント
・・・・・・何だこれ。
今俺が受けている授業は多分、数学?いや物理?どちらかはわからないが、中学生時代を丸々異世界で過ごした俺には理解が出来ない事はわかった。
・・・・・・こりゃあ、後で明日人のお世話にならないとだな。
というわけで、俺は授業の内容を理解する事は諦めて、放課後に起こるであろう問題の事だけを考えて過ごした。時間は有効に使うに限る。
*
その日は魔法実技の授業は無く、全て座学の授業であった。退屈な時間が終わり放課後、つまり憂鬱な時間がやって来た。正直、魔王と戦ったあの日よりも緊張している自分がいる。
「失礼します・・・・・・」
「入っていいわよ。」
「あ、あぁ・・・・・・」
ここは間違いなく自分の部屋なはずだが、まるで他人の部屋にいるような感覚であった。それもそのはずで、今日は5月の上旬だから同部屋のあいつが1年と1ヶ月ほど過ごした部屋という事になる。部屋のあちらこちらにはおしゃれな家具やインテリアが置かれており、完全に生活スペースとなっていた。
「とりあえずそこに座って。」
「あ、あぁ・・・・・・」
言われた通りにソファの端に腰を下ろす。正面のテーブルには彼女が淹れたと思われる紅茶が置かれており、その隣には茶菓子が置かれていた。一応、歓迎はしてくれるようだ。
「交換条件といきましょう。」
「え?」
「見ての通り、私は全ての部屋を使っているから、貴方が寝る所が無いの。」
生徒達にはそれぞれLDKとそれぞれの寝室が1つずつが与えられているが、どうやら彼女はその全てを今まで1人で独占していたらしい。つまり俺の寝床がないらしい、そこで・・・・・・
「本当はソファで寝てもらう予定だったけど、気が変わったの。」
「は、はぁ・・・・・・」
「この部屋に住んでもいい代わりに、貴方は私に魔法を教える、どう?良い取引だと思わない?」
「・・・・・・」
なるほど、そう来たか・・・・・・
ここでやっと、昨日明日人が俺に決闘をさせた理由がわかった。それは、俺のルームメイトであるこの女に、決闘をした末に勝利したという事実を残す事だ。この学校のルール上、特別な理由が無い限りルームメイトの変更できない。となれば、俺とこの女が部屋のルールを巡って争うのは明白、そしてこの交渉でより優位な立場を勝ち取るために、策を打っておくのが定石だ。だから明日人は、俺がルーシアと決闘するように誘導したのだろう。
「俺、決闘に勝ったよな。」
「うっ!」
俺がそう呟くと、ルーシアは分かりやすく反応した。どうやら俺の予想は間違っていなかったようだ。
「確か、先程の決闘に勝った方が全て決めれるんじゃ・・・・・・」
「・・・・・・明日人から入れ知恵されたわね?」
「いいや、これぐらい頭の悪い俺でも導ける事だ。この学校では決闘が全て何だろ?なら、決闘で勝利した俺が全て決めるのは当然の事だ。それとももう一戦してやろうか?まぁ、何度やっても結果は何も変わらないだろうが・・・・・・」
ルーシアの実力は既にわかっている。所詮は学生レベルと言うべきか、正直あの程度ならば負ける気がしない。
そしておそらく、その事を彼女も理解しているだろう。
「それで、どうするの?何が目的なの?」
「そう怖い顔するな。なんも企んでいないよ。俺はとりあえず、ソファで寝ればい」
そこまで言いかけて、俺は急に喋るのを辞めた。ルーシアから視線をそらし、壁の向こう側にいると思われる何かへと視線を向けた。
「伏せろ!」
「え?」
急激な魔力の高まりを感じた俺は、目の前に座る少女を押し倒した。直後、部屋の壁が勢いよく爆発した。
凄まじい爆音と共に、寮の壁が吹き飛んだ。それは、明確な俺もしくはルーシアへの攻撃であった。直前に貼った魔力障壁のおかげでこちらが直接の被害を被る事は何とか避けられたが、もし間に合わなかったとしたら少なくないダメージを受けていただろう。
一体何者の仕業なのだろうか、警戒心を高めながら爆発した方を見ると、凄まじいオーラと魔力をまとった1人の男が宙に浮いているのが確認できた。
「なんだあれ・・・・・・」
輝く金色の髪に、黄金のオーラをまとった男、手には同じく金色に輝く長剣を持っており、先程の爆発はこいつによるものだと断定できた。凄まじい魔力を纏っている事から、相当な実力者である事はわかったが、あいにくこんな知り合いは俺にはいない。
となると残る可能性は、暗殺者や侵入者の類い、もしくは・・・・・・
「貴様っ!誰の許しを得て俺のルーシアと同じ部屋に住もうとしているっ!」
「俺にはあんなおっさんの知り合いなんかいないが、ルーシアの知り合いか?」
歳は40代ぐらいだろうか、何処かで見た事がある気がするが全く思い出せない。となるとルーシアのファン、もしくはストーカーの線が濃厚だろうか。
ルーシアからの返答を聞こうとしたが、返答が返ってこない。不思議に思って下を見ると、そこには顔を少し赤らめた少女がいた。
「お、おいルーシア?」
「そんな事よりも、早く退いてくれると嬉しいんだけど・・・・・・」
「おい貴様!さっさとそこを退け!」
「あ、悪い。」
言われて、先ほどの攻撃からお互いを守るために、ルーシアに覆い被さったままであった事に気がついた。軽く謝りながら、俺はその場から退いて男の方をみた。
とてつもない殺気、向けられている相手はおそらく、いや間違いなくルーシアではなく俺だろう。その証拠に、この男の視線は先ほどから彼女ではなく俺に向けられていた。
「それで、誰なんだあれは。お前のストーカーか何かか?」
「あれは、私の父親です・・・・・・」
「マジかよ・・・・・・」
娘の住んでいる部屋にいきなりやって来て壁をぶっ壊すとは、どれだけ頭がおかしい親なのだろうか。それにあの魔力、厄介な親なだけでなくかなりの実力者のようだ。それも、今までに対峙した相手の中でも一、二を争うレベルの魔法師だ。
「おいルー!その男は誰だ!」
「彼はその、ルームメイトです・・・・・・」
「コロスっ!」
ルーシアの返答に対して、これ以上ないほど怒り狂ったこのバカ親は再び魔力を収縮させると、一気に前へと踏み込んできた。
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どうでもいい話
ピクミンが楽しくて、更新が遅くなったらすみません。
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