第8話 信じたくない事実

「君が入学初日に色々とやらかしてくれたという噂の転校生君かい?」


「人違いじゃないですかね。」


 転校初日、俺は転校生という事で指示通りに職員室へ行くと、俺の担任と思われる女性が出迎えた。真っ黒のスーツにきちんとネクタイをした妙齢の女性で、第一印象は真面目といったところだろうか。

 そんな彼女は、興味津々そうに俺に尋ねた。


「これは風の噂で聞いたのだが、昨日我が校のアイドルをたったの5分で瞬殺した謎の転校生がいただとか、何か知らないかい?」


「いえ、自分は今日転校して来たばかりなので・・・・・・」


「そうかそうか。ではその時の動画がここにあるのだが、今日の一限で鑑賞会をするというのはどうだ?」


「遠慮しておきます・・・・・・」


「くくくっ、安心したまえ、今のは冗談だ。ただ、その転校生の噂が学校中に蔓延しているという話は本当だ。どこの誰だかは知らないが、気の毒なことにそいつはこの先まともな学校生活を送れないはずだ。」


 どうやら俺が昨日やったことは、学校側とこの担任の両方に全てバレているようだ。まぁ、その辺りは当然最初から覚悟はしていたが、どうせなら変装してくればよかったと今更ながら後悔する。途中で見るのが嫌になったため、あれ以来学校用SNSである『RSW』は開いていなかったが、結構というかかなり話題になっているようだ。

 軽い小話を交えつつ、担任彼女は軽く学校の説明をしてくれた。まだ授業すら受けていないにも関わらず憂鬱になりながらも俺は話を聞いた。明日人が話してくれた部分も含めて、俺は頭の中で擦り合わせながら話を聞いた。どうやら、この学校には俺が知っている以上に色々なものがあるようだ。


「あぁそうそう、肝心のことを忘れてた。私の名前は桐山雷華、君がこれから通うことになる2年Aクラスの担任だ、宜しく頼む。」


「今日転校してきた本条健斗です、宜しくお願いします。」


「あぁ宜しく、色々と大変だと思うが、これから頑張りたまえ噂の転校生君。」


 わかってはいたが、担任には全てお見通しだったようだ。



 *



「さて諸君、突然だが今日は転校生を紹介しようと思う。」


 2年Aクラスと表示されたディスプレイのある教室の外で、俺は先生から呼ばれるのを待っていた。聞いた話によると、この育成学校はAクラス〜Hクラスまで全部で8クラスあり、専攻する科目によってクラス分けされているそうだ。ちなみに、Aクラスは魔法師の花形とも言える戦闘科であり、俺は半強制的にそこに入れさせられた。俺はHクラス(普通科)とかで全然良かったが、明日人がAクラスに所属しているという事で俺もAクラス入りを渋々ながら承諾した。


「入って来てくれ。」


「失礼します。」


 緊張しながらも、ドアの取手部分にあるカードリーダーに学校から以前渡された学生証代わりの端末を当てた。すると、防犯のための防弾防熱ガラス製の扉が横へとスライドした。

 教室内に最初の一歩を踏み出すと、俺の所に視線が集まったのを感じた。既にあの試合の映像は色々な所に出回っており、生徒たちはみんな俺の事を知っているようだ。どうやら1人、いや2人ほど知っている顔が見える気がするがおそらく俺の気のせいだろう。


「早速自己紹介してくれ。」


「今日転校して来た本条健斗だ。よろしく頼む。」


 教卓の前に立った俺は、出来るだけ簡潔に自己紹介を行なった。これからクラスメイトになるであろうメンバーの顔と魔力を覚えつつ、それぞれの力量をこっそりと測る。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「え?終わりか?」


「はい、終わりです。」


「そ、そうか・・・・・・」


 こっちは4年ぶりに日本に帰って来たばかりで最近の流行りはわからないし、趣味なんてない。まぁあったとしても、ここで披露する選択はしなかっただろうが・・・・・・


「ま、まぁいい。仲良くはしなくてもいいが、問題は起こすなよ。」


「はい。」


 先生のその言葉は、正直フラグにしか聞こえなかったが、俺はとりあえずそれを了承した。これから3年間お世話になるのだから、関係は良好でいたい。


「さて、本条の席だが・・・・・・ちょうどいいルーシア・ハーンブルクの隣が空いているからそこに座れ。」


「えっ!」


 嫌な予感は的中してしまった。先程から、輝くような美しい金髪の美少女に睨まれている気がしたが、どうやら昨日戦ったあの少女らしい。しかもよりによって隣の席を指定されてしまった、できるなら外れたいが・・・・・・


「どうした本条?何か不都合があるのか?」


「いえ、何も・・・・・・」


「そうか、ならさっさと座れ。授業を始める。」


 ダメでした・・・・・・

 こうなったならば仕方ない、おとなしく指定された席に座るとしよう。色々と気まずいが、我慢するしかないか・・・・・・


「何でここにいるのよっ。」


「さっき先生が言っただろ?転校して来たんだよ。」


 椅子に腰を下ろすと、すぐにお隣さんから話しかけられた。これがこの女以外であれば嬉しかったかもしれないが、残念ながら現実は変わらない。


「・・・・・・」


「・・・・・・」


「貴方、本当に501号室なの?」


「あぁ本当だ、カードキーだってここにある。」


「・・・・・・本当、みたいね。」


 彼女は俺の学生証を見ると、わかりやすく落ち込んだ。どうやら昨日の決闘以来、ずっと考えないようにしていた例の事は事実だったようだ。

 ___________________________

 どうでもいい話

 中華料理屋では、変なの頼まずにとりあえずチャーハンにします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る