第7話 愚者の選択

『最強無敵の転校生現る』

『姫君まさかの敗北?!倒したのは謎の転校生』

『史上最速で校内ランキング4位に浮上か』

 突如として学園に現れた最強転校生、本条健斗はインタビューに対して、アウトレンジの内側は俺の領域だ、間合いの内側なら誰にも負けないと、余裕の笑みを浮かべた。我々の調査によると、彼はドイツで最強の名を欲しいままにしていた究極の魔法師であり、ある目的を達成するために日本に戻って来たようだ。では次に、彼の得意な魔法について解説していこう・・・・・・


「・・・・・・何だこれ。」


「育成学校内SNSだよ。育成学校の生徒だけが使えるSNSで、育成学校の生徒ならほぼ100%利用している便利なアプリだよ。」


「いやそれは知ってるわ!」


 決闘後、例の501号室に戻る勇気が無かった俺はその日は明日人とともに家に帰る事にした。

 入学が決まった時に手渡された学生証がわりの端末にそのようなアプリが入っている事は既に知っていた。違う、驚いたのはそこではない。


「何だよこの記事は、全部出鱈目じゃねぇかよ。」


「ははは〜だいぶ誇張されているみたいだね。」


 記事の内容は嘘と誇張だらけだし、そもそも俺はインタビューを受けていない。これを見ていると、メディアなんて無い方がいいんじゃないかとすら思う。

 下の方にスクロールすると、俺についてのより正確?な情報が多数紹介されていた。

 うん、全部間違ってるじゃん。後でしっかりと苦情を入れておこう。そして、俺が苦情を入れなければならない人間はもう1人いる。


「というかお前、これの何処が中堅だよ。どう見ても同学年最強クラスじゃねえか。」


「あれ?そんな事言ったっけ?」


「言ってたわ。」


「でも本当の事を言っていたら、健斗はテキトーにやって負けていたでしょ?僕は君が勝つ為に方便を使っただけだよ。」


「どうだか。」


 明日人は悪びれもなくそう言った。今回メディアやSNSが騒いでいる理由は、俺が学年最強と謳われるルーシアさんに圧勝してしまったからだ。ルーシアさんの本当の実力を予め知っていれば、おそらくこのような事にはならなかっただろう。


「これで一躍有名人だね。」


「はあぁ〜どう考えても面倒な未来しか見えないな・・・・・・」


「そう?確かに有名人は何かと面倒事は多いけど、それ以上に健斗にとってメリットがある選択だったと思うよ。」


 相変わらず明日人は頭のいい奴だ。


「ずいぶんと、知ったような口ぶりだな。」


「僕も、この育成学校の中では有名人の部類にいるからね。」


「へ〜一体何をやらかしたんだ?」


「入学当初に、周りのレベルとかを気にせずに魔法を使ったら、ちょっとね。」


「お前は昔から頭一つ抜けていたからな。」


 明日人は昔からいい奴だが、他人に対して気を使わない人間だ。そこはこいつの良い面であり、悪い面でもある。相変わらず、昔から何も変わっていない。


「この4年間で変わったね、健斗」


「そうか?」


「うん、前よりも自分に自信を持てている気がする。」


「確かに、色々な事を乗り越えて来たからな・・・・・・」


「今度聞かせてね、この4年間の事。」


「あぁ、気が向いたらな・・・・・・」


 悪いが明日人、今のところ俺はあの世界の事をお母さん以外に話すつもりは一切ない。

 あるとしたら、またあの世界に呼び出された時ぐらいだろう。



 *



 現実世界に戻って来て3日目の朝、早くも俺は、再び母親に対して一時の別れを告げなければならなくなっていた。


「荷物はちゃんと持った?」


「あぁ、荷物は全て収納魔法でしまってある。忘れ物は無いはずだ。」


「そう・・・・・・」


 育成学校は全寮制の学校だ。生徒は例外なく東京湾に浮かぶ人工島に住む決まりになっている。もちろん、土日祝日や長期休暇であれば自宅に帰る事ができるが、そう頻繁には帰れない。

 だが、育成学校に進学する事を選んだのは俺自身だし、既に覚悟は決まっていた。


「ごめんね、母さん。」


「いいのよ・・・・・・そりゃあ私も、健斗が家を出てくのは寂しいけど、行き先も告げずに失踪したあの時に比べたら何ともないですよ。」


「母さん・・・・・・」


 お母さんは、俺の事を昔のように抱きしめながらそう言った。いつの間にか俺の方が背が高くなっており、お母さんの背中は小さく感じた。だが、変わらないものもあった。それは母親の暖かさだ、微かに残る子供の頃記憶と同じ暖かさだった。


「そんな顔しないで、健斗。そういう時は、笑顔でいてくれれば良いんだよ。私の幸せは、貴方が笑顔でいてくれる事だから。」


「ありがとう、本当にありがとう。」


 俺が伝えるべきなのは、感謝の言葉だ。母親への、この上ない感謝だ。


「じゃあね、いってらっしゃい。」


「あぁ、行って来ます。」


 1階のエントランスまでお見送りに来てくれたお母さんに別れを告げて、俺は地下道へと入った。振り向いたらダメな気がして、後ろを振り向かずに。


「やっ、健斗っ。思ったよりも早かったね。洋子さんへの挨拶はもういいの?」


「あぁ、これ以上ここにいたら、学校に行くのが嫌になるからな。」


「ははっ、違いないね。」


 俺たちは顔を見合わせて笑い合った後、最寄りの駅から育成学校へと向かった。

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