第6話 sideルーシア

 出会いは、これ以上無いほど最悪であった。


 朝練を終え、汗をシャワーで流した私が居間で着替えをしていると、開かないはずの戸が突然開いた。生徒は基本的に2人部屋だが、生徒数が奇数だった関係で入学時に最も高成績を収めた私には、1人部屋が与えられた。そのため私は、完全に油断をしきっていた。まさか、転校して来た男性に着替え姿を見られるとなるとは知らずに・・・・・・


「あ~えっと、これには理由があってだな・・・・・・」


 見慣れた制服を着た見知らぬ男は、弁解するようにそう言った。ここは間違いなく私の部屋だ、つまりこの男は泥棒、もしくは覗き、どちらにしろ生かして帰すわけにはいかない。


「決闘よ。」


「え?」


「貴方もこの学校の生徒なら知っているでしょ?決闘を。」


 この場で命を奪っても良かったが、私は学校のルールに乗っ取ってこの男を公開処刑する事にした。この学校にだけ存在する決闘システムを使って・・・・・・

 はっきり言って私は、自分の魔法デバイスすら持たずに生活しているような人間に、負けるはずがないと思っていた。首席でこの学校に入学して以来、ずっと学年最強の座を守り続けている私がこのような変態泥棒相手に遅れをとるわけがないと確信していた。


「行くわよ・・・・・・第一段階<絢爛けんらんの魔剣ーヴァルピア>」


 もちろん、油断などはしていない。その証拠に、私は最初から固有魔法を使って自身の魔剣を顕現させ、全力の一撃を放った。

 だが、私の全力の一撃は彼の黒い剣によって受け流された。同時に、彼の一撃が私の額を掠めた。

 最初の小競り合いは、完全に上を行かれた。私は、対戦する相手の認識を改めたこの男は強い。少なくとも、接近戦では相手側に分がある事は先程の一瞬で理解させられた。ならば、得意な接近戦を捨ててアウトレンジの外側で戦うか、だがその選択肢は私自身のプライドが即座にそれ拒否した、接近戦でダメなら超接近戦で勝負だ。

 はっきりと残っている記憶はそこまでだ。

 それから私は全力を出して彼に挑み、そして敗れた。途中からは、どうして決闘をする事になったかすら忘れて全力で戦ったが、彼には全くと言って良いほど歯が立たなかった。

 そして次に気が付いた時には、私は医務室のベットで寝かされていた。



 *



「ここは・・・・・・」


「ここは敗北者が送り飛ばされる棺桶よ。まさか今日、貴女が送られてくるとは思わなかったけど。」


 棺桶という表現を聞いて、すぐにここが何処なのかわかった。ここは育成学校の医務室、日本でも有数の回復魔法師が多数所属しており、決闘や戦闘によって負傷した者達の治療を行う場所だ。私が今ここにいるという事は、つまりそういう事だ。


「怪我はどんな感じでしたか?」


「全治1時間ってところね、安全装置のおかげで外傷は一切なし、ただの魔力切れだわ。」


「そうですか・・・・・・」


 決闘の際には、必ず安全装置を付ける事が義務付けられている。安全装置は学校の制服自体につけられており、あらゆる外傷から装着者の魔力を対価に守ってくれる。もちろん、ツクヨミ社製のこの制服をつけて入れば無敵、というわけではない。体内の魔力が無くなれば私のように魔力欠乏症になって気絶するし、自身の魔力以上のダメージを受ければ安全装置を貫通して装着者にダメージが入る。


「やぁ、目が覚めたみたいだね。」


「明日人・・・・・・見ての通り、無様に負けてしまったわ。」


「見てたよ。」


 ベッドの隣に置かれた来客者用の椅子に背筋良く座りながら、明日人は真面目な表情でそう答えた。

 彼の名前は藁科わらしな明日人あすと、この学校で最も謎の多い人物だ。彼は思わず溜め息が出るほど美しい魔法を使う。それこそ、学年最強を名乗る私ですら月とスッポン以上の差があると考えているほどだ。だというのに、彼は決闘や校内ランキングに興味を示さずに日々をのんのんと過ごしている。

 だが、それができるのは彼が圧倒的な強さを持っているからだ。正直言って私も、彼には勝てる気がしない。


「見たところ、貴方の友達みたいだけど、彼何者?」


「ただの親友だよ、昨日4年ぶりに再会したんだけどね。」


「何よそれ。」


 返って来たのは意外な答えだった。

 だが後になって考えてみれば、あの藁科明日人の隣を歩く人物が弱いわけがない。私はそんな単純な事に気が付かなかった。いや、気が付けなかった。


「健斗の名誉のために言っておくけど、健斗に悪気は一切無かったんだよ。」


「どういう事?」


「501号室が本来2人部屋なのは知っているでしょ?健斗は転校生でね、協議の結果君と同部屋になる事になったんだよ。だから、健斗はただ単に同部屋になる仲間に挨拶をしようと思って中に入っただけ、まぁ君が中で着替えているかもしれない事を考えなかった点だけは、健斗の落ち度だけどね。」


「そういう事・・・・・・」


 一応納得はした。今日ここに転校してきたばかりなら、知らなくても仕方がないかもしれない。

 まぁ、それだけならば当然許すわけがないが、私は負けた側この件についての文句はない。そう、この件についたのは、だ。


「良い事を教えてあげるわ、貴方の親友くん今ネットで有名人になっているわよ。」


「『謎の最強転校生登場か、まさかの姫君敗北』だってさ、いや〜相変わらず君の人気は凄いね〜」


「こっちの記事には、『謎の転校生は、無敗の状態不明unknownの知り合いか』って書いてあるわよ。貴方も人のこと言えないんじゃないの?」


 育成学校には、育成学校の生徒しか使えない校内SNS『RSW』というSNSが存在し、全生徒のうちのほぼ100%が利用していた。そして、『RSW』内では現在、どこも噂の転校生の事でいっぱいであった。人は変化を好む生き物であり、今日のSNSの記事はほとんど全てが決闘の事一色であった。


「あはは〜確かに健斗はこれから先、忙しい日々を過ごす事になるだろうな〜」


「貴方みたいに上手く逃げる可能性は?」


「健斗があの頃のままなら、まぁ無理だろうね。」


 すると明日人は、これから親友の身に起こるであろう災難を想像しつつ笑った。

 その顔はまさに、いたずらっ子のような顔であった。もしかしたら、最初から明日人の計算通りだったのかもしれない。

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 どうでもいい話


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