第5話 力の一端
「お~う、まじかよ・・・・・・」
気が付いた時には、既に戦場に立っていた。多くの観客に見守られながら、俺は先ほど明日人に手渡された剣を構えた。
ここは、『国立日本魔法師育成学校東京校』の第二アリーナ、明日人の話だとここでは毎日のように生徒同士で決闘が行われているらしい。その証拠に、全校生徒のおよそ4割ほどの生徒がここに集まっていた。
ある者は興味本位で、ある者は暇つぶしに、またある者は目の前の少女を観に・・・・・・
「一応、名前だけは聞いておくわ。あなた、名前は?」
「本条健斗だ。」
「そう、変態野郎として、永久的に脳に刻み込んでおくわ。」
お~う、かなり辛辣だ。
どうしようか考えていると、不意に観客席に座る生徒達の声が聞こえた。
「相変わらず可愛いな~」
「今日のお姫様の相手は編入生らしいぞ?」
「なるほど新入りか、それは楽しみだな。」
どうやら、中々に注目されているみたいだ。ここに来る途中に明日人から聞いたが、決闘というのはこの魔法師育成学校にのみ存在する、独自の問題解決システムだそうだ。魔法第一主義かつ、実力主義が主流なこの世界では、強い事が第一に求められる。そのため、学校内での争いではこの決闘システムを使って解決する事が推奨されている。まぁ早い話、強いやつが正義って事だ。
俺は隣の親友に、目の前の少女について疑問に思った事を小声で尋ねた。
「あいつ、有名なのか?」
「凄く有名だよ。彼女はルーシア・ハーンブルクさん、ドイツからの留学生で、凄腕の魔法師だよ。ちなみに、校内だと中堅って感じかな。」
「へ~中堅か、ならちょうどいいな。」
「余裕そうだね、健斗。」
「まぁ、負けるつもりは無いかな。」
確かに、彼女の容姿をみれば人気が出るのは納得できる。しかも、明日人曰く結構強いらしい。
不本意で、編入そうそう決闘する事になってしまったが、今思えば悪い事だけじゃない。同級生たちから変態扱いされるのは嫌だが、俺の実力を試すにはいい機会なのかもしれない。
それに最悪、俺には明日人がいるから、とりあえずボッチだけは回避できる。ここは一つ、異世界で鍛えた俺の力を試してみるか。
「ルールの確認をしましょ。敗北条件は、降参するか、安全装置が気絶判定となった場合。負けた方は、勝った方の言う事を何でも聞く。それでいいかしら。まぁ、あなたに拒否権はないけど・・・・・・」
「あぁ、それでいいぞ。」
「じゃあ、始めるよ~。よ~い、すた~と~」
「行くわよ・・・・・・」
明日人の、ゆる~い感じのスタート合図と同時に、目の前の少女は右手を前へと突き出した。そして唱え魅せつけた、自身の力の証を。
「第一段階<
宣言と同時に、金色の魔法陣を展開した。そして、黄金の輝きが彼女の全身を纏うと、正面に展開された魔法陣から一振りの魔剣を取り出した。
そのきらめきを見ただけで、彼女が本気である事が良く分かる。
魔剣使いか、しかもこれは・・・・・・
「固有魔法、か・・・・・・」
「この力を見るのは初めてかしら。」
「あぁ、まさかこんなにも早く拝めるとは、恐れ入ったよ。」
固有魔法、それは一人前の魔法師である事の証、そして魔法戦闘における絶対的な切り札。魔力の消費が激しいかわりに、自身を格段に強化する事ができる。
かつて人類を救ったどの英雄も、この人類に与えれた究極の力を用いて最強へと至った。固有魔法は、並外れた努力と研鑽によって至る事ができる極致。固有魔法を使えるというだけで、彼女の強さがよく分かる。
そして、彼女が固有魔法を使うほど本気であると言う事も・・・・・・
「こっちも行くか。」
俺は、ついさっき明日人から借りた剣に、自身の魔力を込めた。黒い刀身に、紫色のラインが走った。魔力が漲っているのが良くわかる。
「あなたの剣、ツクヨミ社製みたいだけど見たこと無いわね・・・・・・」
「あんたのおかげで、こっちは何も準備とか出来ていなかったからな。これは知り合いに借りたものだ。」
「そう。」
今日、いきなりこの場で決闘する事になるとは思っていなかった俺は、明日人から剣を借りたのだ。初めて見るタイプのものであったが、母さんの勤め先であるツクヨミ社製という事なので信用できる。
「行くわよっ!」
「あぁ来い、遊んでやるよ。」
「んっ!・・・・・・っ後悔させてあげる!」
彼女は、重心を低くして構えると、最初の一歩を踏み出した。流れるように、最初の一撃が繰り出された、中々に動きが早い斜め下方向から振り上げるような攻撃だった。俺は、剣を縦に構えて上方向へと流した。同時に、間合いの内側へと潜り込んだ俺は、左手を正面へと突き出すと、彼女の額を指で弾いた。
しかし・・・・・・
「魔力障壁か、結構強めにやったと思ったんだが、やはり貫けなかったか。」
「なっ!」
「まぁでも、お前のポテンシャルはだいたいわかった。これで、終わりか?」
「まだまだ~!」
一瞬、驚いた顔をした彼女だったが、すぐに体勢を立て直すと、さらに大きく前と踏み出した。クロスレンジの内側、彼女は俺とスピード勝負を繰り広げようというつもりらしい。普通なら、魔剣という最大の武器を活かした距離感で戦闘をするべきなのだろうが、彼女はその道を選ばなかった。
剣と剣が、何度も交じり合い、一進一退の攻防が繰り広げられた。スピードとパワーは向こうの方が少し上、その分テクニックで上回り五分五分の勝負に持ち込めるように動いた。攻撃の応酬、久しぶりの戦闘という事で少し身体がなまっていた部分はあったが、段々と目が慣れて来た。
「固有魔法の効果は、身体強化と魔力回路の鋭利化ってとこか・・・・・・」
「っ!」
彼女のちょっとした癖とかも、段々とわかってきた。動きを予想しつつ、相手と剣で向き合う。
「そろそろ終わりにさせてもらうよ。」
「え?」
「帝国流<三日月>」
俺の放った、先ほどまでの攻撃と比べて恐ろしく早いこの3連撃は、彼女の魔剣の裏を潜り抜けて彼女の意識を刈り取った。遅れて、明日人はこの決闘の決着を宣言した。もちろん、俺の勝利で。
これで中堅クラスか・・・・・・思ったよりも、この学校のレベルは高いのかもしれない。
そんな事を考えながら、俺は明日人に借りた剣を返しつつ、スタジアムを去った。周りの異様な反応には、一切気が付かずに・・・・・・
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どうでもいい話
1夜で有名人とはこの事だ。
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